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病気の悩みを漢方で
桂枝湯(ケイシトウ)
1.桂枝湯(ケイシトウ)
桂枝湯の名は、桂枝(ケイシ)が主薬であることを示しています。なお、日本の漢方製剤には薬局方規格の桂皮(ケイヒ 樹皮)が配合されています。⇒ ちょっと一言。
桂皮の薬能は、体表面の邪気を除いて初期症状(表証 ヒョウショウ)を軽減する解表(ゲヒョウ)と、気血(キケツ)の巡りを整える通脈(ツウミャク)です。
解表はかぜ(1)を、桂皮の通脈については、漢方薬名の意味:桂枝茯苓丸を参照してください。
上記のことから方剤名は、本方の適応が、発熱疾患の初期病態(表証)と気血の巡りが失調した虚弱状態であることを示唆しています(図1)。
2.桂枝湯の薬能と適応
1)解表・発表解肌:かぜの初期(太陽病 タイヨウビョウ)の寒けと発熱が同時にあり、頭痛や身体痛に用いられます。胃腸虚弱で体力低下した人の自然発汗を伴う初期のかぜに適します。病期やかぜ(1)を参照してください。
2)調和営衛:営衛不和(エイエフワ)を整える薬能です。営衛不和は、体内の滋養機能(営気 エイキ)と体表の防衛機能(衛気 エキ)の失調した虚弱状態(軽度の血虚 ケツキョと気虚 キキョ)です。
桂枝湯類の盗汗の軽減は、調和営衛の効果です。
桂枝湯やそれを含む柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)が、かぜ後の盗汗を軽減
症例報告 日東医誌., 2020; 71: 333-337.
3.桂枝湯の配合生薬
桂枝湯の配合5生薬を図2に示します。
桂皮と生姜(ショウキョウ)が、辛温解表薬として表証の寒けの発散に関与します。
桂皮には、気逆(キギャク)を鎮める降気(コウキ)があります。気逆によるのぼせや頭痛を甘草(カンゾウ)と連携して降衝鎮悸(コウショウチンキ)の薬対で軽減します。動悸(1)を参照してください。
甘草と生姜と大棗(タイソウ)が、胃腸機能を整え衛気と営気を産生します。
芍薬(シャクヤク)と甘草が、筋肉痛を軽減(緩急止痛)します。
4.かぜ症候群における桂枝湯類
桂枝湯は、太陽病の基本方剤ですが、現代ではかぜの急性期に単独で用いられることは多くありません。麻黄(マオウ)を含む主な関連方剤との併用や加味方として使用されます(図3)。
4.1)葛根湯(カッコントウ)は、桂枝湯より首筋肩のこり、悪寒発熱が顕著で汗がでていないかぜ急性期に頻用されます。かぜ(1)を参照してください。
4.2)柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)は、桂枝湯と小柴胡湯(ショウサイコトウ)の合方です。
本方は、かぜ急性期の太陽病の症状(寒け、発熱、頭痛、関節痛)と亜急性期の少陽病(ショウヨウビョウ)の症状(吐き気、食欲不振、心窩部の痞え)に用いられます(漢方と最新治療. 2000; 9: 69-74)。かぜ(2)や胃腸かぜを参照してください。
柴胡桂枝湯は、胃腸虚弱、反復する腹痛、易感染性を伴う虚弱小児の体調管理に用いられます。チックを参照してください。
本方が、易感冒児の発熱、食思を改善し易感冒状態を改善した報告があります(日東医誌., 1991; 41: 149-155.)。
4.3)麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)と桂枝湯を併用した報告があります。
桂枝湯合麻黄細辛附子湯が、アレルギー性鼻炎の急性期だけでなく小青竜湯で効果の得られなかった症例にも有効
(日東医誌., 1995; 45: 547-550.)
桂枝湯合麻黄細辛附子湯が、悪寒や悪風を伴う全身の冷えと頭痛を軽減
(日東医誌., 2010; 61: 897-905.)
この併用は、桂姜棗草黄辛附湯(ケイキョウソウソウオウシンブトウ)をエキス製剤で代用する試みです(日東医誌., 1995; 46: 105-107.)。
5.桂枝湯の5生薬を含む加味方
桂枝湯の5生薬を含む加味方が各種の領域で使用されています(図4)。
5.1)桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)は、桂枝湯の芍薬を増量して、腹痛、腹部膨満感、便通異常に適するように改変された方剤です。過敏性腸症候群(IBS)に用いられる基本方剤です。過敏性腸症候群(3)を参照してください。
5.2)小建中湯(ショウケンチュウトウ)は、桂枝加芍薬湯に膠飴(コウイ:補中緩急止痛)を加味した方剤です。小児便秘症に有用です(日小外会誌., 1999; 35: 11-15.)。
本方の関連方剤は、建中湯類(ケンチュウトウルイ)として小児科領域で活用されています。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
5.3)桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)は、桂枝湯に安神薬(アンシンヤク)の竜骨(リュウコツ)と牡蛎(ボレイ)を加味した方剤です。安神薬は、疲労感(1)を参照してください。虚弱者の神経過敏症や動悸、悪夢、不眠に使用される漢方の精神安定剤です。疲労感(5)やコロナ後遺症(2)を参照してください。
5.4)桂枝加黄耆湯(ケイシカオウギトウ)は、桂枝湯に黄耆(オウギ:補気固表、生肌)を加味した方剤です。体力低下者の皮膚科領域で使用されます。掌蹟膿庖症の手掌や足底に水痕を軽減した報告があります(日東医誌., 1989; 40: 43-50.)。
5.5)桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)は、桂枝湯に蒼朮(ソウジュツ:燥湿健脾、祛風散寒)と附子(ブシ:散寒止痛、利水)を加味した方剤です。
本方は、こわばり、むくみを伴い冷えると悪化する関節痛に用いられます。変形性膝関節症(2)を参照してください。
本方に茯苓(ブクリョウ)を加味した桂枝加苓朮附湯(ケイシカリョウジュツブトウ)も同様の領域で使用されます。
6.その他の桂枝湯類
6.1)五積散(ゴシャクサン 16味)は、桂枝湯の5生薬や麻黄、桔梗(キキョウ)など多くの生薬を含みます。症状の軽微な長引くかぜや頭痛、腰痛や不定愁訴に用いられます。漢方薬名の意味:五積散や婦人更年期障碍(8)を参照してください。
6.2)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)は、桂枝湯の5生薬と散寒薬の呉茱萸(ゴシュユ)細辛(サイシン)と補血薬の当帰(トウキ)を含む補血温経通脈剤(ホケツオンケイツウミャクザイ)です。
本方は、冷えと痛み(頭痛、腰痛、下腹部痛、月経痛)としもやけに使用されています。桂皮の通脈の薬能が寄与します。腰痛(2)や片頭痛やしもやけを参照してください。
桂枝と桂皮と桂(カツラ)とニッキ
桂枝と桂皮の規格と薬能(原材料:桂 ケイ:Cinnamomum cassia)
中国の薬局方
・桂枝:桂の小枝(発表解表)
・肉桂:桂の樹皮(温経散寒)
日本薬局方
・桂皮:(中葯の肉桂に相当する規格)
中葯学では桂枝(小枝)と肉桂(樹皮)の薬能は少し異なりますが、日本では両生薬の薬能を桂皮が担うと考えています。
以下の植物は、桂皮の原材料の桂(ケイ)とは、異なる植物です。
・桂(カツラ):日本に自生する樹木(Cercidiphyllum japonicum)です。
家具、碁盤、将棋盤に加工されます。
・ニッキ :和菓子の香辛料として使用される
日本産のニッケイという植物(Cinnamomum sieboldii)の根の皮です。
(2024年2月27日 公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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