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病気の悩みを漢方で
かぜ(風邪)の漢方
1.かぜの亜急性期(少陽病 ショウヨウビョウ)
今回はかぜの亜急性期(こじれた時期:少陽病 ショウヨウビョウ)の症状(病態)に応じた方剤を使い分けを解説します。急性期に関しては前回を参照してください。
かぜの亜急性期(少陽病)では、食欲不振、吐き気のような消化器症状や口苦感や舌の白苔などの熱証傾向の病態が発現します(図1)。
今回は小柴胡湯(ショウサイコトウ)などの和解剤(ワカイ・ワゲザイ)を解説します。
かぜ治療において漢方製剤の特徴が生かせる領域(病期、stage)は、少陽病以降のこじれたかぜの食欲不振や疲労倦怠感を軽減することです。
Sickness behaviorは感染症など疾患後に伴う食欲不振、倦怠感、抑うつ感、不安などの心身の変化です。これは少陽病の症状に相当し、後述する柴葛解肌湯(サイカツゲキトウ)などの適応になります。
2.小柴胡湯:少陽病の基本方剤(和解剤)
小柴胡湯は少陽病の熱感、吐き気、食欲不振、倦怠感、抑うつを調整する基本方剤です。胸脇苦満 キョウキョウクマン:季肋部や脇腹のつかえ感)が目標になります。
本方は清熱(セイネツ)化痰(ケタン)補気(ホキ)理気(リキ)の7生薬からなります(図2)。 本方の主な生薬は清熱理気薬の柴胡(サイコ)と化痰薬の半夏(ハンゲ)と補気薬の人参(ニンジン)です(図3)。胃腸障碍を起こさないように配慮された消炎剤に相当します。
小柴胡湯は発病後5日経過した感冒患者の自覚症状を改善する効果が報告されています。発病後5日は少陽病に相当する時期です。
小柴胡湯製剤投与群は、咽頭痛、痰の切れ、倦怠感、食欲不振においてプラセボ群より有意に改善した。
3.少陽病の小柴胡湯を中心にした方剤群
かぜの少陽病の咳嗽治療では、小柴胡湯は、本方を含む柴陥湯(サイカントウ)や柴朴湯(サイボクトウ)として使用されています。
本方は、かぜ後の長引く咳嗽では麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)と併用されます。
図4に小柴胡湯と太陽病期の方剤と組み合わせた方剤を含めて関連方剤を紹介します。
3.1)柴葛解肌湯(サイカツゲキトウ)は、太陽病期の葛根湯と少陽病期の小柴胡湯の適応病態に使用する方剤です。本方は悪寒と発熱、頭痛、口渴、食欲不振、吐き気、倦怠感を伴う病態に適します。(新型コロナ感染の後遺症も含まれます)
エキス剤では葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用して代用します。
3.2)柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)は、かぜ初期の頭痛、寒け、発熱を軽減する桂枝湯と亜急性期の食欲不振、吐き気を軽減する小柴胡湯を組み合わせた方剤です。
かぜで薬局へ相談に来る人(とくに小児)は太陽と少陽の併病段階の柴胡桂枝湯の適応病態のことが多いようです。
胃腸虚弱傾向の人のかぜに適します。夏かぜ(1)を参照してください。
4.小柴胡湯の関連方剤
4.1)柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)は、小柴胡湯の適応と類似しますが、吐き気がなく、頭部の発汗、心煩(いらだち、不安、落ち着かない、胸苦しい)、口渴、手足の冷え、動悸、不眠のあるときに用いられます。
本方はかぜの亜急性期症状に加えて自律神経失調症でも使用されます。小柴胡湯より倦怠感や神経過敏(心煩)、動悸が顕著な病態に適します。
4.2)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、かぜがこじれて寝込むほどに体力が低下し、目がとろんとして、倦怠感や脱力感、寝汗のある時に適します(図5)。手足のだるさが重要な投薬目標です。漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
本方は人参と黄耆(オウギ)を主薬とし小柴胡湯の虚証病態に適する補気剤です(図6)。
一方、小柴胡湯は補中益気湯の適応より口苦感や熱感と吐き気のある時に適します。
補中益気湯はかぜ後の倦怠感だけでなく、病中病後の体力低下による易感染性や沈んだ気持ちを引き上げて抑うつ傾向を改善する補剤(ホザイ)です。
関節リウマチ(2)、がん(1.虚弱状態)、アトピー性皮膚炎(3)、COPDを参照してください。
漢方では、かぜの症状(病態)の経時変化を診る
現代科学医療の病名診断では、
かぜ(感冒様症候群)の病名は、1週間程度では変化しません。
一方、漢方のかぜの病態診断(証 ショウ)では、
急性期の太陽病から、ほぼ数日後には少陽病に漢方の病名が変化します。
証は治療薬を選ぶ医療診断ですから、使用方剤も変わります。
(2021年12月13日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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