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病気の悩みを漢方で
血の道症
1.月経(生理)周期が長い短い
月経は初経から5年程度で安定し、月経周期は約28日(25~35日)、月経期間は3~7日程度になります。たまに1週間程度の前後があるのは普通にあることです。
周期が長く、平均の28日より遅れて39日以上の間隔があく場合を稀発(キハツ)月経といいます。周期が短く、28より7日以上早まるのを頻発(ヒンパツ)月経といいます。
また周期が一定しない月経不順もあります。
2.四物湯(シモツトウ)・・・婦人の聖薬
月経不順を調整する基本生薬は地黄(ジオウ)、芍薬(シャクヤク)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)です。この4生薬からなる方剤が四物湯(シモツトウ)です。
四物湯は婦人の聖薬と称されています。冷え症で皮膚が乾操し色つやが悪い血虚(ケッキョ)という病態に適します。本方は主に月経の遅れに適しますが、単独で用いられることは少なく、他の方剤や生薬を組み合わせて月経の遅れや早まりを含めて血の道症の諸症状に用いられています。
- 周期が長い稀発月経で冷えを伴う場合には人参(ニンジン)や黄耆(オウギ)を加味して十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)として用いられます。
(中国製剤の婦宝当帰膠フホウトウキコウも四物湯を含む製剤です) - 周期が短く経血量が多くのぼせを伴う場合には黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)を加味した温清飲(ウンセイイン)として用いられます。
3.十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)と温清飲(ウンセイイン)
温清飲の「温」は四物湯の温めて血流を改善する作用に由来し、「清」は黄連解毒湯ののぼせやイラダチを軽減する作用(清熱除煩セイネツジョハン)に由来します。
十全大補湯は、四物湯に胃腸を調える人参(ニンジン)や黄耆(オウギ)や白朮(ビャクジュツ)などを加味した処方です。食が細く倦怠感やめまい感を有する人の体力をつけて月経を調える内容になっています。
4.十全大補湯と温清飲の使いわけ
十全大補湯は、胃腸虚弱な食が細い人で、疲労倦怠、食欲不振、動悸、めまい、手足の冷え、貧血、冷え症が顕著で、周期が長く、経血量が少ない傾向の月経不順に用います。
温清飲は皮膚の色つやが悪くのぼせ傾向で(胃腸に障害のない人の)周期が短い傾向の月経不順に適します。
両処方はともに皮膚の乾燥傾向の人に用いられますが、温清飲は皮疹患部に熱感があり、のぼせ・イラダチを伴う傾向があります。
5.その他の四物湯関連方剤
月経不順に頻用される温経湯(ウンケイトウ)は、四物湯の中の当帰、川芎、芍薬を含みます。本方には血の流れをよくする牡丹皮ボタンピも配合されており、月経の遅れにも早まりにも適する内容になっています。血の道症(2)月経不順(1)を参照してください。
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)も、四物湯の中の当帰、川芎、芍薬を含み月経不順に適します。本方には、むくみ傾向を軽減する沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)が含まれています。
当帰芍薬散の適応病態は、浮腫、頭重感、立ちくらみなど水滞(スイタイ:体内の水分停滞)に由来する症状を伴います。この点で温経湯の「乾燥傾向」と異なっています。
月経不順の漢方医療では、周期の乱れ以外に、経血量の色や量、さらに全身症状(のぼせや冷え、疲れ、イラダチ、むくみ、皮膚の湿潤、日頃の食欲)などを参考にして「その時点」で「適切な」方剤を決めます。
漢方相談では、月経不順に伴ういろいろな症状をできるだけ詳しく話してください。
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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