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病気の悩みを漢方で
がんの漢方
1.がんの現代科学医療の概要
がんに対する現代の科学医療には、図1に示すように、
1)がん検診(早期発見)
2)がんの標準治療(疾患の制御:がんの切除や増殖抑制)
3)緩和ケア(病いの軽減:がん性疼痛や治療に伴う苦悩軽減)
があります。
標準治療は、疾患(disease:増殖したがん細胞)を切除、抑制する治療です。標準という意味は「効果と安全性」が臨床科学的に確認された現時点で「最良の」治療法のことです。
がんの部位、広がり、患者の体力の程度に応じて手術、放射線、薬物(抗がん剤)を組み合わせた多様な標準治療があります。
緩和ケアは、虚弱状態、苦悩(痛み、不安:病い:illness)を軽減する医療です。図1に示したように標準治療と並行して実施されます。
ここでは緩和ケアに、
・手術前後の患者の虚弱状態や苦悩を軽減する周術期医療や、
・抗がん剤の副作用を予防軽減する支持療法を含めます。
2.がん患者の虚弱状態と漢方医療
がん患者が虚弱になるのは二つの要因が考えられます(図2)。
1)がん自体とがんに対する抵抗反応によって脂質やたんぱく質が分解されて痩せた
消耗状態になります。
やせと栄養失調の漢方(3.がん)を参照してください。
2)がん細胞の切除や抗がん剤などの傷害性の標準治療が生体も傷害し、虚弱状態や
苦痛や苦悩が起きます。
がんとその治療による虚弱状態や苦悩を予防軽減する緩和ケアの中で症状に応じて漢方製剤も「補助的」に活用されています。
患者さんは具体的な苦痛を主治医の先生に詳しく話してください。
3.がん患者の虚弱状態に用いられる補気剤(ホキザイ)
虚弱状態は、病中病後・術後の体力低下、消化吸収機能の低下、疲労倦怠感、だるさ、血色が悪い貧血傾向、冷え症、などを伴う病態です。
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、虚弱状態を軽減する人参(ニンジン)と黄耆(オウギ)を含む代表的な補気剤(ホキザイ)です。
漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
がん患者の胃腸虚弱を伴う虚弱状態には補中益気湯を中心にして、貧血傾向が伴えば補血薬(ホケツヤク)の熟地黄(ジュクジオウ)を含む十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)とその関連方剤が使い分けられます(図3)。
補中益気湯と十全大補湯との比較は、夏やせの漢方を、
人参養栄湯と帰脾湯は漢方薬名の意味:人参養栄湯を参照してください。
4.がん患者の虚弱状態に用いられる温裏剤(オンリザイ)
がん患者の中には冷えによる痛みやしびれを伴う虚弱状態に悩む人には、温める生薬を含む温裏剤(オンリザイ)を胃腸虚弱の有無を考慮しながら、使い分けます(図4)。
小建中湯と大建中湯に関しては、夏やせの漢方を、
牛車腎気丸に関しては、フレイルの漢方(4.足腰の衰え)を
参照してください。
図3と4に例示した漢方製剤は補剤(ホザイ)と総称され、次回以降に解説する個別の症状を軽減する漢方製剤と併用されます。
がんの集学的治療(シュウガクテキチリョウ)
集学は、専門の学識や技術を集めて治療するという意味です。がん治療では、外科医、麻酔科医、放射線科医、腫瘍内科医、緩和ケア医、腫瘍精神科医に加えて看護師、薬剤師、臨床心理士、栄養士など多様な専門家チームで実施されます。
日本では、この専門家チームに漢方医療の知識を有する医師が参画します。これを日本型集学的治療と称します。
(2020年8月28日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
漢方医療とは
- (1)現代医療における漢方製剤
- (2)漢方薬局における診察
- (3)漢方薬局における診断(1)虚実と寒熱
- (4)漢方薬局における診断(2)気血水
- (5)漢方薬局における診断(3)病期
- (6)漢方薬局における診断(4)五臓
- (7)漢方処方の剤形
- (8)漢方医療と民間療法
- (9)セルメと健康相談
症状と漢方薬
- (あ行)
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- 足腰の衰え(虚弱)
- 足のむくみ
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- 胃食道逆流症
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- 胃腸虚弱(高齢者)
- 胃腸虚弱(フレイル)
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- 胃もたれ
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- 意欲低下(虚弱)
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