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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

高齢者の漢方

(1)基礎知識
(2)胃腸虚弱

1.高齢者の正氣(セイキ) の失調

 高齢になると、1)かぜを引きやすく長引く易感染性2)口腔内や粘膜や皮膚の乾燥傾向3)関節が拘縮し固くなる4)足腰が衰えて転倒しやすくなります。
 このような虚弱病態を漢方では正氣(セイキ:生命維持活動と自然治癒力)が低下した病理の虚証(キョショウ)と考えます。高齢者(1)を参照してください。

 今回は高齢者の病理の虚証における脾胃気虚(ヒイキキョ:消化吸収機能の低下)を整える方剤を考えます。漢方医療には快食快便を維持する目標があります。

2.食欲不振など上腹部愁訴

 食欲不振など上腹部愁訴に用いられるのは、補気薬(ホキヤク)の人参(ニンジン)を主体にして化痰薬(ケタンヤク)や利水薬(リスイヤク)を含む方剤群です(図1)。

(サイコケイシトウ)は、消化管の絞るような痛み疝痛 センツウ)を伴う食欲不振吐き気に使用されます。芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ:緩急止痛)の方意を含みます。胃食道逆流症(3)を参照してください。
 本方は、広い領域で活用できる方剤です。胃腸かぜを参照してください。

(ハンゲシャシントウ)は、げっぷ胸やけ呑酸口苦口内炎など熱証を伴う食欲不振吐き気心窩部の痞えに適します。 胃食道逆流症(GERD)に頻用されます。胃食道逆流症(2)を参照してください。

(ブクリョウイン)は、半夏瀉心湯げっぷ胸やけ)と六君子湯(リックンシトウ:食欲不振吐き気胃もたれ)の中間領域のGERDに用いられます。本方と半夏瀉心湯は、胃もたれ(3)で比較しています。

は、食欲不振胃もたれ早期の満腹感などの上腹部愁訴の第一選択薬です。機能性ディスペプシア漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
 本方の上腹部愁訴を軽減する効果が検証されています。

 (1週間投与)は、上腹部不定愁訴患者のげっぷ吐き気、腹部膨満感
胃排出能を対照群(消化異常改善薬投与群)より有意に改善した。

ランダム化比較試験 Aliment. Pharmacol. Ther., 1993; 7: 459-62.

 本方は、加齢に伴う慢性的食欲不振(AOA)に活用されています。腸から脳への脳腸相関を整える方剤です。

3.胃腸虚弱を伴う全身倦怠感

 (ホチュウエッキトウ)は、胃腸虚弱(脾胃気虚)を伴う全身倦怠感だるさ易感染性に用いられます。疲労感(2)を参照してください。

 が、急性期の免疫不全患者の栄養状態を改善させ、免疫機能が向上させた報告があります。

 (3週間投与)は、救急搬送された免疫不全患者の免疫栄養指数(PNI:アルブミン値と末梢血リンパ球数から算出)をプラセボ群より有意に上昇。

ランダム化比較試験 Prog. Med., 2002; 22: 1362-1363.

 は、脾胃気虚に加えて、易感染性(肺気虚)にも適します。本方が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の感冒罹患回数と増悪回数を改善した報告があります。COPDを参照してください。

 本方は、六君子湯に含まれる人参などの主な補気薬に、昇提(ショウテイ)に関わる柴胡(サイコ)升麻(ショウマ)黄耆(オウギ)を加味した方剤です(図2)。
 昇提は、気虚によっての上昇力が低下し倦怠感だるさ内臓下垂を引き上げる薬能です。漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。

4.便通異常と腹部愁訴

 便秘下痢腹痛腹部膨満感など腹部愁訴には、建中湯類(ケンチュウトウルイ)や人参配合剤や補腎陽剤(ホジンヨウザイ:附子 ブシ剤)も用いられます(図3)。漢方薬名の意味:建中湯類疲労感(6)を参照してください。

(ショウケンチュウトウ)は、腹痛腹部膨満感便秘に使用されています。過敏性腸症候群(3)を参照してください。桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)の関連方剤です。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
 小児の胃腸虚弱を整える目的で使用されます。チックを参照してください。

(ダイケンチュウトウ)は、腹部術後の便通異常腸管癒着予防で頻用されています。漢方薬名の意味:大建中湯を参照してください。
 本方は、術後以外の便秘にも用いられています。

 (と一般的な便秘治療併用:4週間投与)は、脳卒中後患者の便秘腹腔内のガス貯留を対照群(一般的な便秘治療群)より有意に改善した。

ランダム化比較試験 漢方と最新治療. 2015; 24: 145-52.


 高齢者に多い弛緩性便秘は、漢方薬名の意味:潤腸湯便秘(4)を参照してください。

5.下痢傾向

(ケイヒトウ)は、胃腸虚弱による(炎症の軽微な)慢性下痢に用いられる方剤です。霍乱を参照してください。
 本方は、六君子湯山楂子(サンザシ:消食化積)、山薬(サンヤク:補脾止瀉)、蓮肉 (レンニク:補脾止瀉)を加味して下痢に適するように改変した方剤です。漢方薬名の意味:啓脾湯を参照してください。

(ニンジントウ)と(シンブトウ)は、冷えを伴う泥状軟便下痢に用いられます。疲労感(6)を参照してください。


 (ハンゲシャシントウ)や(イレイトウ)は、過敏性腸症候群(3)を参照してください。
 (カッコウショウキサン)は、胃腸かぜを参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

胃腸虚弱を改善する食養生

よく噛む(食材を細かくし、唾液や胃液など消化液の分泌を高める)
推奨食材
 ・消化の良い食材:だいこん、たまねぎ、バナナ、魚の白身や豆腐、ヨーグルト
 ・胃粘膜を守る食材:(ビタミンU含有)キャベツ、セロリ、レタス
朝食をしっかり取る夕食が遅くならないように

 今回、このような食養生を支える方剤を考えました。

(2023年7月24日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
谿 忠人先生のプロフィール
谿 忠人先生

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生理痛(冷えのぼせ症)
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動悸
凍瘡
糖尿病
(な行)
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