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病気の悩みを漢方で
二陳湯(ニチントウ)
1.二陳湯 (ニチントウ)の意味
二陳湯の二陳は、陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を意味します(図1)。古い陳久なものが良いとされている生薬です。
半夏の化痰(ケタン)と降逆(コウギャク)は、胃もたれ(痰飲 タンイン)を除き、嘔吐(胃気上逆 イキジョウギャク)や喀痰を伴う咳嗽(肺気逆)を軽減する薬能です。
陳皮の薬能は、化痰、理気(リキ)、補気(ホキ)です。陳皮の名は陳久の橘皮(陳橘皮 チンキッピ)の略称です。現在の陳皮はウンシュウミカンの果皮を採取後約1年間乾燥させて調製されています。
この2生薬は、生姜(ショウキョウ)と組み合わせて使用されます。
以上のことから二陳湯の名は、温性の陳皮と半夏を主薬にした温める傾向の化痰理気剤であることを示しています。
痰飲は、津液(シンエキ)が停滞し変性した病理産物です。停滞する要因は、津液の運行を担う気(キ)が失調した気虚(キキョ)や気滞(キタイ)です(図2)。
2.二陳湯の適応
二陳湯は、吐き気、胃もたれ、食欲不振、心窩部の痞え、めまい、動悸に用いられます。
本方は、胃腸や呼吸器病態に用いられる他剤と併用されます。併用の狙いは、化痰降逆と補気理気の薬能を付与することです(図3)。
3.二陳湯の配合生薬
二陳湯の配合生薬を図4に示しました。
二陳湯の配合生薬を薬能ごとに整理すると、痰飲治療に必要な利水、化痰、理気、補気薬を含んでいることがわかります(図5)。
4.消化器系の痰飲(胃もたれ)に用いられる二陳湯の関連方剤
4.1)半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は、化痰剤の小半夏加茯苓湯(図6の黄緑で囲んだ3生薬)に理気薬の蘇葉(ソヨウ)と厚朴(コウボク)を含みます(図6)。
半夏厚朴湯は、二陳湯より精神神経症状(抑うつ、不安、咽喉頭異常感)と咳嗽の顕著な場合に適します。胃食道逆流症(3)を参照してください。几帳面で神経質な人に適します。
二陳湯は、半夏厚朴湯より胃腸虚弱傾向に適します。
4.2)六君子湯(リックンシトウ)は、胃腸虚弱、食欲不振、食後の胃もたれ(胃内停水・痰飲:図7)、吐き気を軽減する第一選択薬です。
漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
本方の構成は、補気剤の四君子湯(シクンシトウ:図8の白枠の6生薬)と二陳湯の合剤です。六君子湯は、
・四君子湯(6味)+化痰薬(陳皮、半夏)であり、
・二陳湯(5味)+補気薬(白朮、人参、大棗)です。
5.呼吸器系の痰飲(咳嗽)に用いられる二陳湯の関連方剤
5.1)竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)は、かぜの微熱が残り、粘稠痰を伴う湿性咳嗽に用いられます。気分がさっぱりせず、抑うつ感、胸苦しさ、怯え、不眠を伴う病証に適します。漢方薬名の意味:竹筎温胆湯を参照してください。
本方には二陳湯の5生薬が含まれています。粘稠痰(熱痰 ネツタン)に適するように清熱化痰薬の竹筎(チクジョ)などの清熱薬が多く含まれています。
5.2)藿香正気散(カッコウショウキサン)や参蘇飲(ジンソイン)や五積散(ゴシャクサン)など胃腸症状を伴うかぜに用いられる方剤にも二陳湯が含まれています。胃腸かぜを参照してください。
6.二陳湯を含むその他の方剤
6.1)釣藤散(チョウトウサン)は、中高年の高血圧随伴症状(頭痛、のぼせ、めまい)に頻用されます。頭痛(2)や認知症(5)を参照してください。
6.2)二朮湯(ニジュツトウ):冷えと湿度で誘発される肩こりや重だるい痛みを伴う五十肩(肩関節周囲炎)に適します。五十肩を参照してください。
久病有痰
「久病(慢性の疾病)には痰飲がある」そのため慢性の疾病治療は、痰飲の有無を確認しながら治療薬を考えよ、という口訣(先達の経験談)です。
長引く疾病は気虚や気滞を伴い、その結果津液が停滞して痰飲や水滞症状も発現します。
痰飲の治療は化痰に加えて利水、理気、補気を考えます。
二陳湯はこの4種の薬能を有しています。
(2022年12月19日 改訂公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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