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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

平胃散(ヘイイサン)

1.平胃散(ヘイイサン)名の意味

 平胃散平胃は、胃の機能失調を平常状態に戻す(安定させる)薬能を示しています。は、生薬粉末の散剤の意味です。

 本方の適応となる胃の機能失調を配合生薬から考えます(図1)。

 図1の左3生薬は、胃もたれ痰飲 タンイン)を軽減する化痰薬(ケタンヤク)です。
 厚朴(コウボク)と陳皮(チンピ)は、胃部膨満感を軽減する理気薬、右側の黄色枠内の4生薬は、消化吸収機能を調える健脾薬(ケンピヤク)です。

 本方の主な配合生薬は、蒼朮厚朴陳皮です(図2)。本方の蒼朮が適切だと考えられています。

 方剤名だけでは適応となる胃の不調が明確ではありませんが、配合生薬の薬能から考えると、本方は気滞(キタイ)と痰飲(タンイン)で低下した胃腸機能を平常状態に戻す方剤であることを示唆しています。

2.平胃散の適応

 平胃散は、胃腸の消化吸収機能を調えて、胃もたれ胃部膨満感消化不良食欲不振を改善する方剤です。
 平素は胃腸虚弱ではない人が暴飲暴食して発症する急性胃腸障碍による下痢にも用いられます。

 平胃散の応用例

・透析患者の胃部停滞感食思不振を軽減。

日東医誌., 2011; 62: 584-588


逆流性食道炎を伴う口内炎を軽減。

漢方研究, 2024; No.633: 276-279


3.平胃散を含む関連方剤

(イレイトウ)は、平胃散吐き気下痢頭痛むくみを軽減する利水剤五苓散(ゴレイサン)の合剤です。霍乱漢方薬名の意味:胃苓湯を参照してください。

(コウシャヘイイサン)は、平胃散理気薬香附子(コウブシ)と、芳香性健胃生薬の縮砂(シュクシャ:理気化湿藿香(カッコウ:化湿止嘔)を加味して平胃散の胃腸調整機能を高めた方剤です。

(カッコウショウキサン)は、夏かぜ胃腸かぜに伴う吐き気胃もたれ食欲不振下痢に用いられます。夏かぜ胃腸かぜを参照してください。
 本方は、平胃散の6生薬を含みます(図3)。漢方薬名の意味:藿香正気散を参照してください。

(ゴシャクサン)も、平胃散の6生薬を含みます(図3)。漢方薬名の意味:五積散を参照してください。
 本方は、胃腸虚弱者のかぜ症状をはじめ冷えで悪化する症状食欲不振月経痛関節痛腰痛日東医誌., 1979; 30: 247-252)に用いられています。この多様な不定愁訴に適することが本方の特徴です。胃腸かぜを参照してください。

4.その他の平胃散の関連方剤

(アンチュウサン)は、冷えで増悪する胃痛を軽減する延胡索(エンゴサク)と、芳香性健胃生薬の茴香(ウイキョウ)と桂皮(ケイヒ)や縮砂(シュクシャ)を含む漢方胃腸薬です(図4)。漢方薬名の意味:安中散を参照してください。

 本方は、胃腸を温めてを巡らせ痛みを止める散寒理気止痛剤です。平胃散より胃腸虚弱、冷え症傾向胃痛心窩部痛)、腹痛食欲不振に適します(日病総診誌., 2023; 19: 361-366)。平胃散と併用されることもあります。

(ハンゲコウボクトウ)の特徴的な適応症状は、咽喉頭異常感です。これは、配合生薬の理気薬蘇葉(ソヨウ:理気和中)と厚朴、および小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ:生姜半夏茯苓)の適応になります。
 主薬の半夏厚朴は、連携して湿性咳嗽肺気逆)を軽減します。漢方薬名の意味:半夏厚朴湯を参照してください。

(リックンシトウ)は、胃腸虚弱者の食欲不振食後早期の満腹感胃もたれ吐き気を主訴とする機能性ディスペプシアの第一選択薬です。機能性ディスペプシアを参照してください。

 本方は、補気利水剤四君子湯(シクンシトウ)と、化痰利水補気剤二陳湯(ニチントウ)を含みます。漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
 本方は、平胃散より平素から胃腸虚弱冷え症傾向の病態に適します。

第4項目で記載した3方剤と平胃散との比較(図5)。

ちょっと一言:(トピックス)

平胃散口訣(抜粋)

食毒水毒が停滞した心窩部の不快感腹鳴下痢を軽減する方剤。急性胃腸炎の下痢には胃苓湯平胃散五苓散)が適する(三谷和合)。

・胃に宿食が停滞し、心窩部の痞え腹部膨満感消化不良症状胃もたれ食欲不振)、食後の腹鳴下痢を治す理気化湿剤(髙山宏世)。

・胃に停滞した湿を除き、の流れを調整して消化を高める燥湿健脾行気和胃剤胃もたれ胃の痞えげっぷ下痢に用いる(三浦於菟)。

(2026年6月10日 改訂公開)


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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