病気の悩みを漢方で

１．鼻水と鼻づまり（鼻閉）の病期と寒熱

　鼻水･鼻汁と鼻づまり（鼻閉）は､かぜに伴う急性鼻炎､アレルギー性鼻炎や花粉症､副鼻腔炎に共通する症状です。鼻炎（１）や後鼻漏を参照してください。
　アレルギー性鼻炎は気管支喘息と､副鼻腔炎は副鼻腔気管支症候群と併発するので咳嗽を伴う場合もあります。

　鼻水と鼻閉の漢方医療では､鼻水の性状に注目します。水様性鼻水は寒証､粘稠性鼻汁は熱証と考えます。多くの病態は､寒証と熱証が併発した錯雑病態です。このような病態の経時変化（病期）に応じて､麻黄（ﾏｵｳ）をはじめ各種の生薬を含む方剤を選び､時には併用します（図１）。

２．水様性鼻水に用いられる麻黄（ﾏｵｳ）配合剤

2.1）小青竜湯（ｼｮｳｾｲﾘｭｳﾄｳ）は､急性鼻炎や花粉症に伴う水様性鼻水､くしゃみ､鼻閉治療の第一選択薬です。かぜ（５）や漢方薬名の意味：小青竜湯を参照してください。

　小青竜湯の鼻アレルギー改善効果が臨床的に明らかにされています。

　小青竜湯の臨床効果を裏付ける抗アレルギー作用が報告されています（耳鼻咽喉科展望. 1991; 34:補4: 289-293.）。

　小青竜湯は､眠気を起こさない漢方の抗ヒスタミン薬です。

　主薬の麻黄（図２）成分エフェドリンは交感神経を刺激して鼻閉を軽減します。

※ 小青竜湯の展開応用：小青竜湯は､花粉飛散が多量になって粘稠性鼻汁を伴う病態になる､麻黄ｰ石膏剤の五虎湯（ｺﾞｺﾄｳ）と併用されます。この併用は､虎龍湯（ｺﾘｭｳﾄｳ）と称されています（日東医誌., 2009; 60: 611-616.）。
　これは､麻黄の服用量を増やし､清熱薬を加味して寒熱錯雑病態に対応するエキス製剤療法の工夫です。ただし､この併用は麻黄の服用量が多くなるので､高齢者では食欲不振､動悸､不眠､排尿障碍の発現に注意する必要があります。

2.2）越婢加朮湯（ｴｯﾋﾟｶｼﾞｭﾂﾄｳ）は､小青竜湯より熱証傾向で鼻閉を伴う病態に適した麻黄ｰ石膏剤です。目の痒みも使用目標になります。本方は､関節腫痛に用いられますが､耳鼻科領域では花粉症に頻用されています。

３．水様性鼻水に用いられる細辛（ｻｲｼﾝ）配合剤

3.1）麻黄附子細辛湯（ﾏｵｳﾌﾞｼｻｲｼﾝﾄｳ）は､小青竜湯より寒証傾向の鼻汁､鼻閉に適した方剤です。かぜ（1）を参照してください。

　本方の3生薬は､寒証を温める散寒薬（ｻﾝｶﾝﾔｸ）です（図3）。

3.2）苓甘姜味辛夏仁湯（ﾘｮｳｶﾝｷｮｳﾐｼﾝｹﾞﾆﾝﾄｳ）は､胃腸虚弱者の寒証の鼻水や咳嗽に適します。麻黄を含まない細辛を配合した散寒化痰（ｹﾀﾝ）剤です。
　本方と小青竜湯は､かぜ（４）で比較しています。

４．鼻水と鼻閉に用いられる柴胡（ｻｲｺ）配合剤

4.1）柴苓湯（ｻｲﾚｲﾄｳ）が､アレルギー性鼻炎の鼻粘膜浮腫と鼻閉を軽減した報告があります（耳展., 1990; 33:補1: 61-66.）。

4.2）柴胡桂枝乾姜湯（ｻｲｺｹｲｼｶﾝｷｮｳﾄｳ）は､疲労感と冷えを伴う鼻アレルギーの鼻水や鼻閉に用いられています（耳鼻臨床., 1996; 補89: 41-44.）。

５．粘稠性鼻汁に用いられる辛夷（ｼﾝｲ）方剤

　粘稠性鼻汁を伴う鼻閉には､通鼻薬（ﾂｳﾋﾞﾔｸ）の辛夷（ｼﾝｲ：図４）を含む方剤が用いられます。

5.1）葛根湯加川芎辛夷（ｶｯｺﾝﾄｳｶｾﾝｷｭｳｼﾝｲ）は､頭重､肩こりを伴う粘稠傾向の鼻汁､鼻閉に用いられる麻黄-辛夷剤です。鼻炎（２）を参照してください。

　慢性病態では､本方と活血剤（ｶｯｹﾂｻﾞｲ）の桂枝茯苓丸（ｹｲｼﾌﾞｸﾘｮｳｶﾞﾝ）が併用されます（耳鼻臨床., 1996; 補89: 41-42.）。

5.2）辛夷清肺湯（ｼﾝｲｾｲﾊｲﾄｳ）は､膿性鼻汁で後鼻漏が多く､鼻茸合併例に適した辛夷と清熱薬を含む方剤です。

　辛夷清肺湯は､抗菌薬が効きにくい難治性の好酸球性副鼻腔炎にも使用されています（日耳鼻., 2017; 120: 1108-1111）。副鼻腔炎（２）を参照してください。

６．粘稠性鼻汁に用いられる清熱剤

6.1）荊芥連翹湯（ｹｲｶﾞｲﾚﾝｷﾞｮｳﾄｳ）は､皮膚が浅黒く､湿疹､にきび､掌蹠膿庖症を伴う慢性副鼻腔炎に用いられます。

　慢性副鼻腔炎の治療において､
・荊芥連翹湯は､顔面の炎症､扁桃炎などの炎症性疾患の合併が多い場合に適し､
・辛夷清肺湯は､気道炎症による後鼻漏､痰が多い場合や副鼻腔気管支症候群を伴う場合に適します（日鼻誌., 2008; 47: 88-90.）。
　両方剤の配合生薬は､副鼻腔炎（２）で比較しています。

6.2）清上防風湯（ｾｲｼﾞｮｳﾎﾞｳﾌｳﾄｳ）は､顔面のほてりを伴う粘性鼻汁と鼻閉に用いられています（日東医誌., 2001; 52: 191-205.）。
　本方に関しては､にきびを参照してください。