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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

糖尿病の漢方

1.2型糖尿病の病期(ビョウキ)

 糖尿病治療では、病態の経時変化(病期)に応じて方剤を選びます(図1)。

 インスリン非依存型糖尿病(NIDDM:2型糖尿病)患者141例に用いられた漢方方剤群と病期とを対比した報告(日東医誌., 2000; 50: 841-850)では、
・大柴胡湯(ダイサイコトウ)のような柴胡剤(サイコザイ)は、罹病年数の短い時期に多く処方され、
・牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)のような地黄剤(ジオウザイ)附子剤(ブシザイ)は、罹病年数が長くなると処方され、
・桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)のような活血剤駆瘀血剤 クオケツザイ)は、全ての罹病年数に処方されています。

 今回は、脂ぎった固太りのメタボ肥満期(実証熱証)の糖尿病に用いられる方剤を考えます。メタボ肥満は、肥満(1)を参照してください。

2.メタボ肥満期の糖尿病に用いられる瀉下剤

 メタボ肥満期の糖尿病の漢方病理は、体力病理の実証ですから瀉剤(シャザイ)の適応になります。病理の実証は、 瘀血(オケツ)と痰飲(タンイン)です(日東医誌., 1997; 48: 335-340)。糖尿病(1)を参照してください。

(ボウフウツウショウサン)の高脂質血症の痰濁(タンダク)と飽食による食積(ショクシャク)を少なくする瀉下剤です。漢方薬名の意味:防風通聖散を参照してください。
 医療用防風通聖散には、食事療法と併用すれば耐糖能異常を伴う肥満を軽減できることが報告されています。

(24週間投与:低カロリー食運動療法と併用)は、耐糖能異常を有する肥満女性のウエスト周囲径と腹部内臓脂肪面積を対照群(低カロリー食と運動療法群)より有意に減少。

ランダム化比較試験 J. Trad. Med., 2007; 24: 115-127


と糖尿病治療薬(ピオグリタゾンPIO)を糖尿病病態動物に併用すると、PIOによる体重増加を抑制し、血糖コントロールを維持できた基礎研究報告があります(J. Trad. Med., 2010; 27: 157-165)。

(ダイサイコトウ)は、心窩部から脇腹にかけての膨満感いらだち抑うつを軽減する理気薬(リキヤク)の柴胡(サイコ)を含む理気瀉下剤です。漢方薬名の意味:大柴胡湯を参照してください。
 本方と防風通聖散は、肥満(2)で比較しています。

の併用が、糖尿病に伴ういらだち便秘を改善し体重と尿糖も減少

 日東医誌., 1997; 48: 335-340


(丸剤)の併用が、糖尿病、高血圧・高脂質血症に伴う閉塞性動脈硬化症の間欠跛行下肢の疼痛を軽減。

 日東医誌., 2009; 60: 365-369


が、高脂肪食を負荷した先天性の糖尿病モデルの耐糖能を改善した基礎研究があります(日薬理誌., 1992; 100: 353-358)。

(トウカクジョウキトウ)は、メタボ肥満に伴う冷えのぼせ頭痛いらだちに用いられる活血瀉下剤(カッケツシャゲザイ)です。漢方薬名の意味:桃核承気湯を参照してください。

の併用が、境界型糖尿病に伴う高血圧、肥満便秘を軽減。

 日東医誌., 1997; 48: 335-340


 メタボ肥満の糖尿病に用いられる大黄(ダイオウ)を含む3種の瀉下剤を使い分ける目安をまとめました(図2)。

(マシニンガン)も大黄を含みます。本方が、インスリン治療中の高齢者の便秘を軽減し血糖値を安定化した報告があります( 日東医誌., 2001; 51: 733-739)。

3.肥満期の糖尿病に用いられる利水剤

(ボウイオウギトウ)が、非インスリン依存型糖尿病の内臓脂肪/皮下脂肪の面積比を改善した報告があります(日東医誌., 1998; 49: 249-256)。
 本方は、上記4方剤と異なり病理の虚実錯雑病態水太りに用いられる補気利水剤です。肥満(2)を参照してください。

4.糖尿病メタボ肥満期の口渴に用いられる方剤

(ビャッコカニンジントウ)は、食事療法と併用して糖尿病患者の口渴下肢の煩熱腹部湿疹を軽減した報告があります( 日東医誌., 1960; 11: 82-85)。
 本方が、糖尿病病態マウスの飲水量及び尿量を減少させた基礎研究があります(薬学雑誌. 2002; 122: 163-168)。

 本方は、肥満を軽減する瀉下薬を含みませんが、ほてり口渴を軽減する石膏(セッコウ)と知母(チモ)を含む清熱生津剤(セイネツセイシンザイ)です(図4)。熱中症と夏ばて(2)を参照してください。

(チクヨウセッコウトウ)は、体力が低下し皮膚乾燥傾向の人の口渴に適します(日東医誌., 1993; 43: 533-538)。
 本方は、白虎加人参湯より体力が低下し、ほてりの軽微口渴に適します。

(ゴレイサン)や猪苓湯(チョレイトウ)は、大柴胡湯の適応で口渴を伴う時に併用されます。本方は、口腔乾燥症に用いられています(歯科療法. 2012; 31: 67-82)。

5.その他の方剤

(ケイシブクリョウガン)は、防風通聖散大柴胡湯と併用されます。本方は、 瘀血(オケツ)を軽減する目的で糖尿病による足病変のような血管傷害に用いられます(日東医誌., 2014; 65: 13-22)。漢方薬名の意味:桂枝茯苓丸を参照してください。
 生活習慣病において血管系の「くすぶり」炎症(瘀血)を活血化瘀剤で治療することが漢方医療現代的な意義の一つだと考えています。肥満(2)ちょっと一言も参照してください。
 本方は、高脂肪食を負荷した病態モデルの肝臓中の総コレステロールや脂質過酸化物の増加を抑制した基礎研究があります(Exp. Biol. Med., 2008; 233: 328-337)。

(シャクヤクカンゾウトウ)は、糖尿病患者に頻発するこむら返りに用いられています(神経治療学. 1995; 12: 529-34)。こむら返りも参照してください。

(ケイシカシャクヤクトウ)は、食後過血糖改善薬(アカルボース)による腹部症状を軽減することが報告されています。

(とアカルボース併用4週間)は、インスリン非依存性糖尿病患者のアカルボース単独群による下痢腹痛を軽減。

 基礎と臨床. 1997; 31: 3179-86


ちょっと一言:(トピックス)

メタボ肥満を伴う糖尿病病態の血管

 過剰な荷物の運搬を頑張っているイラストの「馬」は、メタボ肥満を伴う糖尿病の血管や心臓、肝臓、腎臓に相当します。

 この「馬」を助けるには「ムチで打つ」よりも、荷物を軽くすること、すなわち肥満を軽減する(減量する)ことが大切です。

(2024年9月9日 改訂公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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谿 忠人先生

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