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病気の悩みを漢方で
肥満の漢方
1.肥満に用いられる主な方剤
漢方では、肥満を固太り(カタブトリ)と水太りに分けます。これらは医学用語ではありませんが、どちらも病理産物が体内に停滞した病理の実証(ジツショウ)です。停滞する病理産物が相違するので治療方剤が異なります(図1)。
1)固太りの多くは生活習慣病の内臓脂肪型肥満(メタボ肥満)です。飽食によって食物が停滞した食積(ショクシャク)と瘀血(オケツ)を伴います。脂質異常(高脂血症)は痰濁(タンダク:痰飲)と考えられています。肥満(1)を参照してください。
この食積には大黄(ダイオウ)を含む瀉下剤が用いられます。メタボ肥満が長引くと瘀血が絡みます(日東医誌., 1999; 50: 11-19.)。活血剤(カッケツザイ)の桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)が併用されます。⇒ちょっと一言。
2)水太りは、むくみ(津液 シンエキ の停滞:水滞 スイタイ と痰飲 タンイン)を伴う肥満です。気(キ)の機能低下(気虚 キキョ)が水滞に関与しますので、多くの場合病理の虚実錯雑病態になります。病理の虚実錯雑は、虚実と寒熱を参照してください。
水太りには、大黄の適応ではなく、利水薬(リスイヤク)と補気薬(ホキヤク)の適応になります。
2.固太りのメタボ肥満:大黄剤
固太り肥満に用いられる主な大黄剤を図2に示しました。
2.1)防風通聖散(ボウフウツウショウサン)は、臍を中心とした太鼓腹、便秘、腹部膨満感を伴うメタボ肥満に頻用されています。下剤に耐えられる体力の余力のある人が対象になります。漢方薬名の意味:防風通聖散を参照してください。
本方の適応病態を日本の一貫堂医学では臓毒証(食毒証)と称しています。食積によるメタボ肥満に相当します。
本方は食事・運動療法と併用して内臓脂肪量を減少させた報告があります。
防風通聖散(低カロリー食と運動療法併用)は、耐糖能異常を有する肥満女性(BMI 平均 36.5)の24週後の内臓脂肪量を対照群(低カロリー食と運動療法のみ)より有意に減少。
ランダム化比較試験 Clinical and experimental pharmacology and physiology. 2004; 31: 614-9.
本方は食事・運動療法と併用して体格指数を改善させた報告があります。
防風通聖散(食事・運動療法併用、6ヶ月)は、肥満した本態性高血圧症患者の24週後の体格指数(BMI)の変化量を対照群(食事・運動療法のみ)より有意に改善。
ランダム化比較試験 Atherosclerosis. 2015; 240: 297-304.
2.2)大柴胡湯(ダイサイコトウ)は、上腹部膨満感を伴う高血圧傾向のメタボ肥満に使用されます。脳梗塞と脳出血(2)や糖尿病(2)を参照してください。
大柴胡湯は食事療法を併用して総コレステロール を低下させた報告があります。
大柴胡湯(6~12ヶ月投与、食事療法併用)は、脂質異常症患者の 総コレステロール (TC)を対照群(エラスターゼ投与と食事療法群)より有意に低下。両群のHDLとTGは有意差なし。
ランダム化比較試験 漢方と最新治療. 1995; 4: 309-13.
本方は、理気薬の柴胡(サイコ)大黄と枳実(キジツ)を含み、心窩部と脇腹の膨満感、いらだち、抑うつ、頭痛、頭重を軽減する理気瀉下剤です。漢方薬名の意味:大柴胡湯を参照してください。
2.3)桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)は、気逆(キギャク:のぼせ、いらだち、頭痛)を軽減する桂皮(ケイヒ)甘草(カンゾウ)と瘀血(暗赤色の歯肉、冷えのぼせ、不眠)を軽減する桃仁(トウニン)と大黄を含みます。
本方は、婦人更年期障碍に限らず、男女のメタボ肥満や便秘を伴う生活習慣病、高血圧の随伴症状にも用いられています。漢方薬名の意味:桃核承気湯や高血圧(2)を参照してください。
メタボ状態の固太り肥満、のぼせ、便秘、高血圧傾向に用いられる3種の大黄剤の使い分けの目安をまとめました(図3)。
この3方剤は「飲めば、すぐにやせる」やせ薬ではありません。やせるためには非薬物療法(減塩、飽食の見直しや運動療法など)との併用が必要です。
3.水太り肥満:防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)
防已黄耆湯は、脾胃気虚(ヒイキキョ:胃腸虚弱)があるために、水滞(スイタイ:むくみ)が発症して肥満した病態です。疲れやすく汗が多く筋肉にしまりのない、重だるく行動が遅い水ぶとり傾向に用いられます(図4の左のイラスト)。
図4の左右のイラストの体格は類似していますが、左は水太り、右はメタボ肥満で便秘と冷えのぼせを伴う固太りのイメージです。左右のイラストは体力の虚実が相違します。虚実と寒熱を参照してください。
防已黄耆湯の適応病態は「身重く、汗出」と古典に例示されています。主薬の防已(ボウイ)は利水薬です。黄耆と白朮は利水と補気の薬能があります。
防已黄耆湯は、非インスリン依存型糖尿病の内臓脂肪/皮下脂肪の面積比を改善した。
日東医誌., 1998; 49: 249-256.
本方の主たる適応領域の関節腫痛への応用は、変形性膝関節症(1)で解説しています。
生活習慣病治療を支える桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
桂枝茯苓丸は、メタボ肥満などの生活習慣病治療において大柴胡湯や防風通聖散などの主剤と併用されています。
桂枝茯苓丸は、血管内皮保護や過酸化脂質減少による動脈硬化予防作用が明らかにされています。本方は、生活習慣病に伴う粥状動脈硬化の形成機序に関与するくすぶり炎症(Smoldering Inflammation)を抑制する作用が含まれています。これが活血という薬能の一部です。
(2024年1月17日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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