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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

大柴胡湯(ダイサイコトウ)

1.大柴胡湯(ダイサイコトウ)の意味

 大柴胡湯は、柴胡(サイコ:清熱理気疎肝)を主薬とする方剤です。方剤名のは、小柴胡湯(ショウサイコトウ)に比べて闘病反応が大いに強い病態に用いることを示唆しています。
 闘病反応の顕著な病態に用いられる大柴胡湯の適応イメージは、図1の右上のイラストです。日本漢方では陽実証(ヨウジツショウ)と言われます。
 一方、小柴胡湯の適応病態は図1の座標の中央付近に相当します。

 なお大柴胡湯は、大黄(ダイオウ)を含むことも示唆しています。なお、古典には大黄を含まない大柴胡湯も記載されており、大柴胡湯去大黄のエキス製剤もあります。

2.大柴胡湯の適応

 本方は、飽食による宿食(シュクショク:食積 ショクシャク)を大黄瀉下(シャゲ)しのぼせ腹部膨満感便秘を軽減する方剤です。
 本方は、メタボ肥満のような生活習慣病に使用されます。肥満(2)を参照してください。

 大柴胡湯が脂質改善薬との併用で中性脂肪を低下させた報告があります。

 は、高脂質血症患者の中性脂肪を有意に低下。総コレステロールは低下見られず。
HDLコレステロールは有意に上昇。

新薬と臨牀. 1993; 42: 373-377.

 大柴胡湯単独では脂質異常を改善しない報告もあります。脂質異常や肥満の軽減には、脂質改善薬との併用や食事療法運動療法を併用するのが現実的です。

 本方は、気滞(キタイ:抑うついらだち胸脇苦満 キョウキョウクマン)を軽減する理気剤でもあります。胸脇苦満は、柴胡の適応となる気滞による季肋部・脇腹のつかえ感です。腹部膨満感は、大黄枳実(キジツ)の適応となる気滞症状です。

3.大柴胡湯の配合生薬

 大柴胡湯小柴胡湯の配合生薬を比較しました(図2)。両方剤は5生薬が共通です。

 大柴胡湯は、小柴胡湯から補気薬(ホキヤク:図2黄色枠内の人参甘草)を除き、芍薬(シャクヤク)枳実大黄を加味して少陽病から陽明病(ヨウメイビョウ)への移行期に適するように加減された方剤です。
 この3生薬(図3)が、本方と小柴胡湯との使い分けを考える指標になります。

 芍薬柔肝(ジュウカン)は、肝血虚を補い柴胡理気疎肝を支援する薬能です。芍薬柴胡枳実は、四逆散(シギャクサン)の基本骨格です。漢方薬名の意味:四逆散を参照してください。
 枳実理気消積)と大黄瀉下攻積理気活血)は、気滞症状(腹部膨満感便秘)の軽減に寄与します。この両生薬は、陽明病に用いられる承気湯類(ジョウキトウルイ)の構成生薬です。漢方薬名の意味:大承気湯を参照してください。

4.大柴胡湯の関連方剤

(ダイジョウキトウ)は、腹部が硬く緊張し膨満感痞満裏実)、便秘煩躁(いらだち、のぼせ、不安、焦燥、興奮、不眠)に用いられる瀉下剤です。

 本方は、枳実大黄に、芒硝(ボウショウ)と厚朴(コウボク:理気除満)を加味した方剤です(図4)。漢方薬名の意味:大承気湯を参照してください。
 方剤名の承気は、の流れを整える理気(とくに降気下気)に相当します。

(ボウフウツウショウサン)は、大柴胡湯と同様に固太りのメタボ肥満に用いられます。両方剤の配合生薬は肥満(2)で比較しています。

 本方は大黄以外に、防風(ボウフウ)などの祛風(キョフウ)補血活血薬(ホケツカッケツヤク)の当帰(トウキ)川芎 (センキュウ)も含む表裏病理の実証を軽減する方剤です。これが大柴胡湯との相違点です。
漢方薬名の意味:防風通聖散を参照してください。

(サイコカリュウコツボレイトウ)は、大柴胡湯の5生薬を含み、精神神経症状を軽減する桂皮(ケイヒ)や安神薬(アンシンヤク)の竜骨(リュウコツ)牡蛎(ボレイ)を加味した方剤です。安神に関しては、疲労感(1)を参照してください。

 本方は、大柴胡湯より抑うつ不安、物音に驚きやすい(煩驚)、夢が多い不眠などの精神神経症状の顕著な病証に適します(図5)。

 両方剤の配合生薬は、漢方薬名の意味:柴胡加竜骨牡蛎湯を参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

大柴胡湯の口訣(抜粋)

・此方少陽の極地に用ゆるは勿論にして、心下急鬱々微煩を目的にして癇症の鬱塞に用ゆる(浅田宗伯)。

大柴胡湯小柴胡湯より筋肉の厚みがあって緊張度が全身的にも胸脇部や心窩部においても強い(龍野一雄)。

胸脇部に緊張感痞塞感があり、バンドや帯をしめると苦しいと訴える。精神的には癇癪を起こしやすい傾向がある(矢数道明)

(2024年10月24日 改訂公開)


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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