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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)

1.半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)の意味

 半夏厚朴湯の名は、半夏(ハンゲ)と厚朴(コウボク)が主薬であることを意味しています(図1

 
 

 両生薬の薬能から本方の適応は、胃もたれ抑うつ感だと類推できます。

2.半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)の適応

 半夏厚朴湯の適応は、
胃もたれ心窩部の痞え吐き気痰飲胃気上逆)、
咳嗽痰飲肺気逆
抑うつ不安動悸咽喉食道部の異物感腹部膨満感などのストレスうっ積による気滞です。

 日本漢方では半夏厚朴湯喉元の痞え感異物感咽中炙臠 インチュウシャレン)心窩部の痞え心下痞鞭 シンカヒコウ)、さらに動悸腹部膨満感を指標に選んできました。

 最近の口訣(クケツ:先達が後輩に伝える使用上の秘訣)では、症状を詳しくメモに書いて来る用意周到さ完璧性引っ込み思案取り越し苦労、人に会うのが億劫で神経質な人などに本方が適することが述べられています。⇒ちょっと一言

 本方には、高齢の認知症患者の誤嚥性肺炎を予防する臨床報告があります。化痰降逆(ケタンコウギャク)の効果だと考えられます。

 医療用の半夏厚朴湯は、高齢の認知症患者(アルツハイマー病、パーキンソン病、脳血管障碍)の誤嚥性肺炎発症(4/47、死亡1名)を、乳糖投与対照群(14/48、死亡6名)より有意に低下させた。
 半夏厚朴湯投与群の食事の自己摂取量は 対照群より有意に維持された。
International Journal of Stroke. 2010; 5 suppl 2: 38-9.

 半夏厚朴湯は多くの場合、他剤と併用して使用されます(図2)。

 半夏厚朴湯を併用する狙いは、抑うつ不安を軽減する理気の薬能と、胃もたれ吐き気を軽減する化痰の薬能を加味強化することです。

 本方は、甘草を含まないので、連用しても甘草による副作用発現の危険性が少なく併用剤として適しています。

 抑うつ不安における併用例は、コロナ後遺症(2)疲労感(4)を、胃もたれ吐き気における併用例は、胃食道逆流症(3)を参照してください。

3.半夏厚朴湯の配合生薬

 半夏厚朴湯の配合5生薬を図3に示します。

 左の3生薬は、小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)の構成生薬です。胃もたれ吐き気心窩部の痞えを軽減する化痰降逆止嘔薬(ケタンコウギャクシオウヤク)です。
 右の蘇葉(ソヨウ)と厚朴がストレスうっ積による気滞抑うつ不安腹部膨満感咳嗽)を軽減する理気薬です。厚朴化痰にも寄与します。

4.半夏厚朴湯の関連方剤

(ニチントウ)は、化痰剤の基本方剤です。半夏厚朴湯と同様に吐き気胃もたれ食欲不振心窩部の痞えめまい動悸に用いられます。
 二陳湯半夏厚朴湯の比較は、漢方薬名の意味:二陳湯を参照してください。

(コウソサン)は、半夏厚朴湯とともに日本漢方で頻用される気剤です。本方の主な用途は以下の3領域です。
 1)発熱が軽度なかぜ初期に用いられる辛温解表剤(シンオンゲヒョウザイ)です。胃腸虚弱頭重を伴う場合に適します。夏かぜ(1)を参照してください。
 2)抑うつ意気消沈を軽減する理気剤として使用されます。
 3)魚介類のアレルギー性食中毒にも使われてきました。

 本方は辛温解表薬蘇葉生姜(ショウキョウ)、理気薬蘇葉香附子(コウブシ)と陳皮(チンピ)を含みます(図4)。

 香蘇散は、半夏厚朴湯より冷え症胃腸虚弱傾向倦怠感を伴い意欲の低下傾向に適します。訴える症状の部位が不明確です。

 半夏厚朴湯は、香蘇散より胃もたれ吐き気心窩部腹部膨満感浮腫傾向に適します。症状の部位が具体的です。咳嗽にも用いられます。

 香蘇散も他剤と併用して使用されます(図5)。狙いは香附子蘇葉理気の薬能を加味することと、胃腸薬としての薬能を活用することです。

ちょっと一言:(トピックス)

半夏厚朴湯と香蘇散の病態イメージ

引用元:花輪壽彦先生の口訣(使用上の秘訣)『漢方診療のレッスン』
 半夏厚朴湯神経質表情が硬い几帳面な字理路整然とした文章
 香蘇散鬱鬱悶々悲哀感かぼそい声小さな字味覚に敏感

(2023年2月1日 公開)


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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