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病気の悩みを漢方で

十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)
1.十全大補湯 (ジュウゼンタイホトウ)名の意味
十全大補湯の十全は「完全な、欠点のない」という意味です。大補は、大いに補う薬能です。本方が、どのように完全な補益剤なのかを配合生薬で考えます。
本方は補気剤(ホキザイ)の四君子湯(シクンシトウ)と、補血生津活血剤(ホケツセイシンカッケツザイ)の四物湯(シモツトウ)に、補気昇陽薬(ホキショウヨウヤク)の黄耆(オウギ)と散寒通経薬(サンカンツウケイヤク)の桂皮(ケイヒ)の10生薬からなります(図1)。

本方は、めまい、動悸に用いられる苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ:利水補気、降衝鎮悸)や、連珠飲(レンジュイン:苓桂朮甘湯+四物湯)の方意を含みます。
十全大補湯の薬能を特徴つける配合生薬は、補気薬の人参と補血薬の熟地黄(ジュクジオウ)です(図2)。

以上から方剤名は、本方が、倦怠感、顔色不良を伴う虚弱状態(気血両虚 キケツリョウキョ)を大いに補う補気補血剤であることを示唆しています。
2.十全大補湯 の適応

十全大補湯は、消化吸収機能を調えて全身の倦怠感と乾燥病態を伴う冷え症傾向の虚弱状態を補う補気補血剤です。
顔色不良、傷口や褥瘡が治りにくいことも使用目標になります。虚労も参照してください。
2.1)虚弱状態への十全大補湯の応用例を示します。
医療用十全大補湯製剤は、がんや治療中の虚弱状態に使用されています。フレイル(3)やがん(1)を参照してください。
・消化器がん術後の易疲労感、不安感を軽減して精神的安定感を高めた。
日消外会誌., 1995; 28: 971-975
・抗がん剤の有害事象(全身倦怠感、食思不振、白血球と好中球減少)を軽減。
日外科系連会誌, 2013; 38: 62-66
2.2)反復感染の防御や創傷治癒の促進への十全大補湯の応用例を示します。
・周術期の感染性合併症の軽減に有用。
外科と代謝・栄養, 2022; 56:73-76
・抗菌薬管理が困難な小児反復性中耳炎の急性中耳炎罹患頻度を減少。
小児耳鼻咽喉科, 2024; 45: 27-32
・褥瘡患者の肉芽形成を促進。
漢方と最新治療, 2009; 18: 143-149
・外傷後の静脈うっ滞性皮膚潰瘍を軽減。
漢方の臨床, 2024; 71: 755-764
2.3)その他の領域への十全大補湯の応用例を示します。
・易疲労を呈する老人性皮膚瘙痒症を軽減。
日東医誌., 2000; 50: 877-881
・アトピー性皮膚炎の外用ステロイド剤のリバウンドを軽減
(白虎加人参湯と猪苓湯と併用。)
日東医誌., 2000; 51: 279-285
・透析療法に伴う食欲不振、消耗感を軽減。
透析会誌., 2005; 38: 273-278
3.十全大補湯 の関連方剤(1.補気補血安神剤)
十全大補湯と関連する補気補血安神剤(ホキホケツアンシンザイ)を図3に示します。フレイル(3)を参照してください。

3.1)人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ 12味)は、十全大補湯と9生薬が共通です。抑うつ感、不安を伴う虚弱状態に適します。とくに咳嗽とやせを伴う慢性期の閉塞性肺疾患(COPD)に適します。COPDを参照してください。
本方は、化痰安神薬(ケタンアンシンヤク)の遠志(オンジ)と五味子(ゴミシ)を含むことが十全大補湯との相違点です。漢方薬名の意味:人参養栄湯を参照してください。
3.2)帰脾湯(キヒトウ 12味)は、心身の疲れ、動悸を伴う虚弱状態に適します。とくに不眠に適します。補血安神薬の竜眼肉(リュウガンニク)と酸棗仁(サンソウニン)を含むのが特徴です。フレイル(6)や漢方薬名の意味:帰脾湯を参照してください。
3.3)加味帰脾湯(カミキヒトウ 14味)は、帰脾湯に、理気薬の柴胡(サイコ)と除煩薬(ジョハンヤク)の山梔子(サンシシ)を加味した方剤です。帰脾湯の適応と症状にのぼせ、いらだち、胸苦しさを伴う病態(気滞 キタイや気逆 キギャク)に適します。
4.十全大補湯 の関連方剤(2.補気剤)
4.1)補中益気湯(ホチュウエッキトウ 10味)は、気虚(キキョ)による重だるい虚弱状態に用いられる基本方剤です。本方が、サルコペニア悪化のリスクを負った高齢者の身体活動性を維持改善した報告があります(脳神経外科と漢方, 2022; 7: 61-67)。
フレイル(2)や漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
本方は、気(キ)を引き上げる補気昇陽薬(ホキショウヨウヤク)の黄耆(オウギ)と昇提薬(ショウテイヤク)の柴胡(サイコ)と升麻(ショウマ)を含むのが特徴です(図4)。筋肉の緊張が低下した内臓下垂や四肢のだるさに適することが十全大補湯との相違点です。

4.2)黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ 7味)は、小建中湯(ショウケンチュウトウ:図5の◎を付した6生薬)に黄耆(補気昇陽)を加味した方剤です。
体力の低下した人の腹痛、腹部膨満感、便通不定、創傷患部の回復遅れに用いられています。建中湯類を参照してください。
本方が、疲労感を伴う起立性調節障碍(日東医誌., 2017; 68: 362-365)や、アトピー性皮膚炎患者の全身状態を改善する目的で活用されています(京府医大誌., 2016; 125: 135-143)。アトピー性皮膚炎(5)を参照してください。

黄耆建中湯は、芍薬の配合量が多いので、倦怠感以外に筋緊張による引きつるような腹痛、腹部膨満感、便通異常など下腹部愁訴に適する点が十全大補湯との相違点です。

十全大補湯の口訣(抜粋)
・諸虚不足、久病虚損、五労(運動と休養の失調)六極(重篤な疲労)など精神的肉体的に疲れ切った病態に用います(三谷和合)。
・気血がともに虚し、虚寒を伴う病態(裏寒虚証)に用いる。全身消耗し倦怠感が著しい(気虚)、顔色が悪い、皮膚枯燥(血虚)がポイント(髙山宏世)。
・気血両虚と陽虚病態を気血を補って元気をつける温補気血剤。食べたい気持ちが起こらない、午後以降の疲れ、傷が治り難いが目標になる(三浦於菟)。
(2025年7月15日 改訂公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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