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釣藤散(チョウトウサン)
1.釣藤散(チョウトウサン)の意味

釣藤散の釣藤は、釣藤鈎(チョウトウコウ)という主薬の名前です。
釣藤鈎は、カギカズラという植物の仲間の茎から分かれた鈎状のトゲ(図1)から調製されます。
この植物は日本にも自生しますが生薬は中国からの輸入品です。
釣藤鈎の適応は、のぼせ、頭痛、めまい、目の充血、耳鳴りなどの肝陽上亢(カンヨウジョウコウ:肝風 カンフウ:体内で生じた風邪 フウジャ)です。
釣藤鈎の平肝熄風(ヘイカンソクフウ)は、肝風を鎮める薬能です。
2.釣藤散の適応

釣藤散の適応は、
1)頭痛です。朝に血圧が急激に上昇するモーニングサージ型の頭痛です。高血圧・動脈硬化傾向の中高年の頭痛に適します。
脳梗塞と脳出血(1)や緊張型頭痛を参照してください。
2)のぼせ、めまい、耳鳴り、眼瞼痙攣に用いられます。ストレス過多による肝陽上亢の症状です。気逆(上衝 ジョウショウ)気滞(キタイ)に相当します。
3)認知機能の低下による行動・心理症状(BPSD)に用いられています。
釣藤散は、脳血管性認知症患者の症状を軽快する有効性が二重盲検比較試験が1997年に公表されて以来、注目されてきました。
釣藤散(12週間投与)は、脳血管性認知症患者の会話の自発、表情の乏しさ、計算力の低下、知力全般、夜間せん妄、睡眠障碍、幻覚もしくは妄想をプラセボ群よりも有意に改善した。
二重盲検ランダム化比較試験 Phytomedicine. 1997; 4: 15-22.
その後、釣藤散はアルツハイマー型を含め認知症の頭痛、のぼせを伴うBPSDに用いられています。認知症(5)を参照してください。
本方の臨床上の有用性(エビデンス)がメタ解析されています。
釣藤散の3件のランダム化比較試験 (血管性認知症2件とアルツハイマー型認知症1件)をメタ解析した結果、釣藤散群の3~12ヵ月の期間での認知機能は、対照群(プラセボ群)より有意に高かった。
Psychogeriatrics. 2017; 17: 466-78.
メタ解析は、過去に独立して行われた複数の臨床研究データを評価基準を統一して客観的・科学的に評価してエビデンスを検証する研究手法です。
本方は、軽度認知障碍(MCI)の進行を遅らせる効果もあるようです。認知症(4)を参照してください。
釣藤散の薬効を担う薬理研究も集積されています(図2)。

3.釣藤散の配合生薬
釣藤散は、平肝熄風薬の釣藤鈎を含む11生薬からなります(図3)。

上段の釣藤鈎と菊花(キクカ)が主薬です。
中段の5生薬は、化痰理気剤(ケタンリキザイ)の二陳湯(ニチントウ)です。痰飲による頭痛やめまいの軽減に寄与します。漢方薬名の意味:二陳湯を参照してください。
下段の麦門冬(バクモンドウ:生津)は、人参とともに津液不足(シンエキフソク)を伴う肝陽上亢の軽減に寄与します。
4.釣藤散の関連方剤
4.1)抑肝散(ヨクカンサン)は熄風薬の釣藤鈎に加えて理気薬の柴胡(サイコ)と補血薬の当帰(トウキ)を含みます(図4)。

抑肝散は、神経の昂ぶり、興奮、怒り、攻撃性、易刺激性、いらだち、焦燥感、不眠などの肝陽上亢(肝風)の症状に用いられる方剤です。高齢の認知症患者の興奮傾向のBPSDに応用されています。漢方薬名の意味:抑肝散や認知症(5)を参照してください。
本方は、小児の夜泣きやチック(小児癇症)に用いられていました。夜泣きやチックを参照してください。
抑肝散と釣藤散の使い分けの目安を図5にまとめました。

抑肝散は怒り、いらだち、興奮、釣藤散は頭痛、のぼせが主要な症状です。
4.2)抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)は、抑肝散の適応病態に痰飲症状(吐き気、腹部膨満感)が加わった病態に使用されます。認知症(4)を参照してください。
陳皮と半夏が加味されたので釣藤散との関連が深まり、六君子湯(リックンシトウ)と5生薬が共通します。本方と釣藤散の配合生薬は漢方薬名の意味:抑肝散で比較しています。

4.3)七物降下湯(シチモツコウカトウ)は、補血生津剤の四物湯(シモツトウ)を含む熄風剤です(図6)。
顔色悪く疲れやすい高齢者の高血圧随伴症状(頭重、のぼせ、肩こり、耳なり)に用いられます。脳梗塞と脳出血(2)を参照してください。
本方は、釣藤散の適応より皮膚が乾燥し胃腸障碍のない人に適します。めまい(1)を参照してください。

釣藤散に関する口訣(クケツ:先達が伝える使用上の要領)
・浅田宗伯『勿誤薬室方函』(抜粋)癇症の人、気逆甚だしく、頭痛、目弦、肩背拘急、心気鬱塞。
・大塚敬節『症候による漢方治療の実際』(抜粋)中年以後の神経症、上衝、めまい、朝方から午前の頭重、不眠、横臥時の動悸、肩から背にかけてのこり。
(2023年6月26日 公開)
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