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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

釣藤散(チョウトウサン)

1.釣藤散(チョウトウサン)名の意味

 釣藤散釣藤は、釣藤鈎(チョウトウコウ)という主薬の名前です。釣藤鈎は、カギカズラという植物の鈎状のトゲです(図1)。

 釣藤鈎の薬能は平肝熄風(ヘイカンソクフウ)です。これは、肝陽上亢(カンヨウジョウコウ:のぼせ頭痛いらだち眼の充血)や肝風(カンフウ:めまいふるえ)を鎮める薬能です。肝陽上亢は、肝血虚(カンケッキョ)を背景にした肝気の昂ぶった病理の虚実錯雑状態です(図2)。気逆(キギャク)と気滞(キタイ)に相当します。

 このことから本方の名は、本方が、のぼせ頭痛いらだちめまい耳鳴りに用いられることを示唆しています。

 肝陽上亢に関しては、漢方薬名の意味:抑肝散も参照してください。

2.釣藤散の適応

 釣藤散の適応は、以下の3領域です。

頭痛:朝に血圧が上昇する頭痛です。高血圧・動脈硬化傾向の中高年の頭痛に適します(日本頭痛学会誌. 2021; 48: 151-154)。
 緊張型頭痛を参照してください。
 

 の適応となる朝の頭痛は、舌下静脈怒張頸肩こりを伴うことが多い。

症例集積研究 日東医誌., 2008; 59: 707-713


 は、頭蓋内腫瘍摘出術後の頭痛肩こりを軽減。

脳神経外科と漢方. 2015; 1: 90-94


2.2)めまい耳鳴り:本方が耳鳴りめまい新薬と臨牀. 1982; 31: 791-798)や耳鳴り(日東医誌., 2011; 62: 638-642)を軽減した報告があります。

2.3)認知機能の低下:軽度認知障碍(MCI)や認知症の行動・心理症状(BPSD)に用いられています。認知症(4)(5)を参照してください。

 (12週間投与)は、脳血管性認知症患者の会話の自発表情の乏しさ計算力低下知力全般夜間せん妄睡眠障碍幻覚妄想をプラセボ群よりも有意に改善。

二重盲検ランダム化比較試験 Phytomedicine. 1997; 4: 15-22

 本方の臨床上の有用性(エビデンス)がメタ解析によって釣藤散群の3~12ヵ月の期間での認知機能は、対照群(プラセボ群)より有意に高いことが検証されています(Psychogeriatrics. 2017; 17: 466-478)。
 メタ解析は、過去に独立して行われた複数の臨床研究データを評価基準を統一して客観的・科学的に評価してエビデンスを検証する研究手法です。

 本方は、認知症以外の高齢者医療で活用されています。

 は、経鼻経管栄養状態の高齢者の嚥下訓練を受ける意欲を高めた結果、経管栄養を離脱できた。

症例報告 日東医誌., 2002; 53: 63-69

 釣藤散および釣藤鈎の脳血管障碍を軽減する基礎研究が集積されています。

J. Trad. Med., 2006; 23: 117-131)


:(ヒト)無症候性脳梗塞患者の眼球結膜の血管内径、血流速度、血流量を増加。


 (実験動物)脳卒中易発性自然発症高血圧ラットの血圧上昇抑制作用、血管内皮保護作用、
  延命作用。
  認知症モデル動物の空間認知や学習記憶障碍を予防、情動障碍を改善。



  釣藤鈎:一過性脳虚血やグルタミン酸による神経細胞死を抑制
   血管弛緩作用抗活性酸素作用など。


3.釣藤散の配合生薬と関連方剤

 釣藤散の配合11生薬を図3に示します。

 上段の釣藤鈎菊花(キクカ)が主薬の熄風薬です。
 中段の5生薬は、化痰理気補気剤(ケタンリキホキザイ)の二陳湯(ニチントウ)です。痰飲による頭痛めまいの軽減に寄与します。
 下段の麦門冬(バクモンドウ:生津)は、虚熱証肝陽上亢の軽減に寄与します。

(ヨクカンサン)は熄風薬釣藤鈎に加えて理気薬柴胡(サイコ)と補血薬当帰(トウキ)を含む平肝熄風剤です。

 抑肝散は、小児の夜泣きチック(小児癇症)にも用いられます(医療. 1989; 43: 700-703) 。夜泣きチックを参照してください。
 現代では、高齢の認知症患者の興奮傾向のBPSDに頻用されています(Dementia Japan. 2012; 26 : 196-205)。認知症(5)を参照してください。

 抑肝散釣藤散の配合生薬を図4で比較しました。
 抑肝散神経の昂ぶり興奮怒り攻撃性いらだち焦燥感に適し、
 釣藤散午前中の頭痛のぼせ頸肩こりと高血圧傾向に適します。抑肝散より熱証傾向に適応します。

(ヨクカンサンカチンピハンゲ)は、抑肝散陳皮半夏を加味した方剤です。抑肝散の適応病態に痰飲症状(吐き気腹部膨満感)に適します。
 本方は、抑肝散とほぼ同様に、小児(日東医誌., 2011; 62: 483-490)や高齢者(精神科. 2011; 18: 108-114)に活用されています。
 漢方薬名の意味:抑肝散を参照してください。

(シチモツコウカトウ)は顔色悪く疲れやすい高齢者の高血圧随伴症状頭重のぼせ肩こり耳なり)に用いられます(日東医誌., 2019; 70: 260-265)。脳梗塞と脳出血(2)を参照してください。
 慢性腎臓病の高血圧にも使用されています(日東医誌., 2013; 64: 10-15)。

 本方は、補血生津剤四物湯(シモツトウ)を含む熄風剤です(図5)。釣藤散の適応より皮膚が乾燥し胃腸障碍のない人に適します。めまい(1)を参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

釣藤散の口訣(抜粋)

癇症の人、気逆甚だしく、頭痛目弦肩背拘急心気鬱塞 (浅田宗伯)。
中年以後の神経症、上衝めまい、朝方から午前の頭重不眠、横臥時の動悸、肩から背にかけてのこり (大塚敬節)。
肝陰虚肝血虚のため肝陽が上昇し動悸めまいのぼせなどの(フウ)症状が出現した病態(肝陽上亢肝風)を緩和し熱を冷ます(三浦於菟)。

(2024年6月10日 改訂公開)


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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