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漢方薬名の意味

柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)

1.柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)

 柴胡加竜骨牡蛎湯の方剤名は、柴胡湯(サイコトウ)に竜骨(リュウコツ)と牡蛎(ボレイ)を加味したことを示しています(図1)。

 加味される元の柴胡湯は定かではありませんが、配合生薬から推測して、
 ・大黄(ダイオウ)を含む柴胡加竜骨牡蛎湯製剤では、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、
 ・大黄を含まない製剤では、小柴胡湯(ショウサイコトウ)とされています。

 竜骨牡蛎は、抑うつ不安いらだち動悸物音に驚きやすい多夢不眠などの心神不安(シンシンフアン)を軽減する安神薬(アンシンヤク)です。この両安神薬柴胡加竜骨牡蛎湯の特徴になります。疲労感(4)を参照してください。

2.柴胡加竜骨牡蛎湯の適応

 柴胡加竜骨牡蛎湯は、大柴胡湯小柴胡湯の適応(季肋部・脇腹のつかえ感:胸脇苦満 キョウキョウクマン)に加えて、竜骨牡蛎の適応となる過緊張による種々の精神症状に用いられます。
 とくに、抑うつ感、腹部の動悸物音に驚きやすい不安不眠煩驚 ハンキョウ)が目標になります。

 柴胡加竜骨牡蛎湯は、自律神経失調症や心身症の領域で活用されています。自律神経失調症(3)不眠(2)を参照してください。本方は、みかけによらず気が小さく几帳面な人に適します。この神経質が心神不安の背景です。

 柴胡加竜骨牡蛎湯エキス製剤は、大黄を含む11味の製剤と含まない10味の製剤があり、病態に応じて使い分けることができます。

 本方は、加齢男性性機能低下 (LOH) 症候群の抑うつ不安を軽減した報告があります。

 (アンドロゲン補充療法と12週併用投与)は、加齢男性性機能低下 (LOH) 症候群の自己評価式症状尺度 、自己評価式抑うつ性尺度、自己評価式勃起尺度をアンドロゲン補充療法単独群より有意に改善。

ランダム化比較試験 日本性機能学会雑誌. 2009; 24: 349-53.

3.柴胡加竜骨牡蛎湯の配合生薬と関連方剤

柴胡(サイコ)、黄芩(オウゴン)、大黄などの6生薬は、柴胡加竜骨牡蛎湯大黄を含む11味製剤)と共通です(図2)。

 本方は、メタボ肥満に伴う腹部膨満感便秘抑うついらだち頭痛を軽減する瀉下理気剤です。肥満(2)を参照してください。
 一方、柴胡加竜骨牡蛎湯は、安神薬図2の黄緑で囲んだ2生薬)の適応となる驚きやすさ不安抑うつ不眠腹部動悸に適します。これが大柴胡湯との相違です。

甘草以外の6生薬が、柴胡加竜骨牡蛎湯大黄を含まない10味製剤)と共通です(図3)。
 本方は、かぜの亜急性期の熱症状と胃腸症状に用いられる和解剤(ワカイザイ)の基本方剤です。かぜ(2)を参照してください。驚きやすさ不眠腹部動悸があれば柴胡加竜骨牡蛎湯の適応になります。

(サイコケイシカンキョウトウ)は、大黄を含まない柴胡加竜骨牡蛎湯と4生薬が共通です。動悸を鎮める桂皮甘草薬対があります(図4)。

 本方は、冷えを温める甘草乾姜(カンキョウ)の薬対を含みますので、柴胡加竜骨牡蛎湯より体力の低下した冷え症傾向の人に適します。本方は、他者に過剰適応した後に疲労する人に用いられます。
 両方剤は不眠(2)で比較しています。

(ケイシカリュウコツボレイトウ)は、桂皮甘草薬対を含む桂枝湯(ケイシトウ:図5の黄色枠の5生薬)に竜骨牡蛎を加味した安神剤です(図5)。

 本方は、柴胡加竜骨牡蛎湯より体力低下傾向の人の多夢性的な悪夢)や朝の調子が悪い病証に適します。不眠(3)を参照してください。

(カミキヒトウ)は、柴胡加竜骨牡蛎湯より倦怠感、顔の色艶の良くない人の抑うつ感不眠に適し補気補血安神剤です。

 本方は、補気剤四君子湯(シクンシトウ:図6の黄色枠の6生薬)と補血薬虚証用の安神薬図6の黄緑枠の3生薬)を含む点が柴胡加竜骨牡蛎湯との相違です。漢方薬名の意味:帰脾湯を参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

柴胡加竜骨牡蛎湯の口訣(抜粋)

小柴胡湯の証で、胸腹の動悸驚きやすく精神不安の人に与える(三谷和合)。
大柴胡湯小柴胡湯の中間の程度。心下部の膨満感、臍上の動悸、上衝、不眠、煩悶驚きやすい、いらだち、落ち着きを欠くもの(矢数道明)。
・本方を使用する目標は、胸脇苦満、煩驚(不眠、いらだち、不安、驚きやすいなどの精神症状)、臍上の動悸である(高山宏世)。

(2023年10月16日 公開)


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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