病気の悩みを漢方で

１．婦人更年期障碍の概要と治療

　婦人更年期障碍は、閉経前後の40代後半から50代に現れるさまざまな症状によって日常生活に支障を来す疾患です。

　婦人更年期障碍の主な原因は、加齢による女性ホルモン（卵胞ホルモン・エストロゲン）の低下です。このホルモン濃度の低下に加えて、更年期に特有の心理的・生活環境変化がストレスとなって自律神経失調を誘発し多様な症状が現れます（図１） 。

　更年期障害に対する薬物治療は、少なくなった女性ホルモンを補うホルモン補充療法（HRT）です（図１） 。HRTは、のぼせ（hot flush）や発汗に効果があります。
　その他に対症療法として、向精神薬や抗うつ薬や睡眠導入薬も使用されます。

２．婦人更年期障碍の漢方医療

　漢方医療は「どのような人の、どのような症状か」を診て漢方医学独自の病理観で分類し、それを調整する生薬や方剤を選びます。

　図２は、婦人更年期障碍に頻用される桂枝茯苓丸（ｹｲｼﾌﾞｸﾘｮｳｶﾞﾝ：Aさん）、加味逍遙散（ｶﾐｼｮｳﾖｳｻﾝ：Bさん）、当帰芍薬散（ﾄｳｷｼｬｸﾔｸｻﾝ：Cさん）の適応病態のイメージ図です。

　図２の横軸（X軸）は寒熱（ｶﾝﾈﾂ）という物差し。右側は「のぼせ」、左側は「冷え」の強い状態を示します。縦軸（Y軸）は虚実（ｷｮｼﾞﾂ）という物差し。上側は体力（抗病力）に余裕があり、下側は余裕が乏しい状態です。
　３種類の方剤は、このような「のぼせと冷えの状態」と「体力の余裕の状態」という漢方医学の病態論を判断して使い分けられるのです。

３．婦人更年期障碍の病理を調整する主な生薬

　漢方医学では婦人更年期障碍には、結気（ｹｯｷ）、虚（ｷｮ）、積冷（ｼｬｸﾚｲ）が関与していると考えています。

　結気は、ストレスのうっ積状態（気滞 ｷﾀｲ、気逆 ｷｷﾞｬｸ）です。これに対する主な生薬は気を巡らせる柴胡（ｻｲｺ）です。なお結気は循環障害の（瘀血 ｵｹﾂ）や水滞（ｽｲﾀｲ）の原因になります。

　虚は、消化吸収機能の低下（気虚 ｷｷｮ）、加齢による機能低下（腎虚 ｼﾞﾝｷｮ）や栄養不足（血虚 ｹｯｷｮ）です。血虚 は当帰（ﾄｳｷ）の適応になります。

　積冷（ｼｬｸﾚｲ）は、虚（エネルギーや栄養不足状態）や気温の低下や不摂生（過剰な冷房、冷たい飲食の摂りすぎ）などによって冷えが重積している状態です。附子（ﾌﾞｼ）や呉茱萸（ｺﾞｼｭﾕ）で温めます（図３）。

４．婦人更年期障碍の病理を調整する主な漢方方剤

　図４に婦人更年期障碍の原因となる結気（ｹｯｷ）、虚（ｷｮ）、積冷（ｼｬｸﾚｲ）を調整する主な生薬と方剤をまとめました。

　婦人更年期障碍に頻用される各種の方剤は図２と図４の分類（診断）を経て使い分けられます。
　これらを踏まえて、次回から婦人更年期障碍の症状ごとに用いられる方剤を解説します。