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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

1.婦人更年期障碍(腰痛)の概要

 婦人更年期障碍に伴う腰痛には、
 1)加齢による脊椎変性のような特異的腰痛と、
 2)冷えや筋肉量低下などによる非特異的腰痛が含まれます。
特異的腰痛の治療は神経ブロック療法のような科学医療が優先されます。

 非特異的腰痛が漢方医療の適応になります。女性ホルモン減少やストレスが誘因となった血流不良や冷えで誘発され悪化する腰痛です(図1)。

2.婦人更年期障碍(腰痛)に用いられる主な方剤

 婦人更年期障碍(腰痛)の漢方医療では、腰痛に伴う全身症状から、漢方独自の病理を見て方剤を選びます。
 漢方独自の病理とは、腰痛のような痛みは、生命維持活動を担う(キ)・(ケツ)・(スイ、津液 シンエキ)の流れが停滞すると発症するという考え方です。

 婦人更年期障碍には瘀血(オケツ)のように(ケツ)の停滞と冷えを伴う病態が関与することが多いので、それら改善する方剤が用いられます(図2)。

 なお図2積冷(シャクレイ)は気血水津液)の流れを阻害する寒冷刺激の停滞です。積冷に関しては、婦人更年期障碍の漢方(1)基礎知識を参照してください。

3.瘀血(オケツ)と腎虚(ジンキョ)を調整する方剤

 図2上段の3方剤は血流不良(瘀血 オケツ)を調整する方剤です。

(ケイシブクリョウガン)は、図1の右側のイラストのような婦人更年期障碍に用いられる基本方剤です。本方は月経不順、月経痛・下腹痛など内蔵炎症に伴う腰痛を軽減します。
 本方は瘀血 (オケツ)を調整する活血薬の(カッケツヤク)の桃仁(トウニン)と牡丹皮(ボタンピ)を含みます(図3)。

(ソケイカッケツトウ)は、寒さや湿度によって気血水の循環が阻害されて発現する腰痛や筋肉痛に用いられます。
 方剤名の疎経活血は、不通則痛(通じざれば痛む )を改善する薬能を示しています。漢方薬名の意味:疎経活血湯を参照してください。

(ゴシャジンキガン)は、加齢による腰痛や下肢のしびれや痛みなどの運動器の機能低下と排尿異常に用いられます。
 本方は、附子(ブシ)と熟地黄(ジュクジオウ)を含む補腎剤(ホジンザイ)ですが、図3に示すようにと牡丹皮(ボタンピ)と牛膝(ゴシツ:図4)という瘀血 (オケツ)を調整する活血薬を含みます。
 本方に関しては、漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。

4.冷えを温める方剤

 寒さや湿度は気血水の循環を阻害し腰痛を引き起こします。これには温めて痛みを軽快する方剤を選びます。

(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)は、当帰(トウキ)や細辛(サイシン)や呉茱萸(ゴシュユ)で温めて(ケツ)の流れを整え冷えによる痛みを改善させる方剤です(図5)。
 本方は腰痛の他に、頭痛(片頭痛)や腹痛、月経痛に悩む人にも適します。
 婦人更年期障碍の漢方(2)手足の冷えを参照してください。

(ゴシャクサン)は、補血活血利水剤当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)の沢瀉(タクシャ)以外の5生薬を含み、冷えで悪化する腰痛、下腹部痛、婦人更年期障碍に用いられます。
 さらに、気血を整える桂枝湯調和営衛)や胃腸を調える二陳湯(ニチントウ)や平胃散(ヘイイサン)の配合生薬を含むので長期の服用に適します(図5)。
 本方に関しては漢方薬名の意味:五積散を参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

非特異的腰痛の漢方治療

 非特異的腰痛は、画像診断などの検査で異常が確認できない腰痛です。これが全腰痛の85%を占めると言われています。

 婦人更年期障碍の腰痛の要因には、エストロゲン減少によって自律神経が失調し血行が悪くなることが含まれます。このような機能性の腰痛は、漢方医療の適応になります。
 全身症状から瘀血(オケツ)や気滞(キタイ)や水滞(スイタイ)を想定して血行を改善する適切な漢方方剤を選びます(図2)。

 腰痛の漢方相談では、腰痛以外の症状や、腰痛の誘因や悪化要因(冷え、疲れ、夜、低気圧などとの関係)なども詳しく話してください。

(2023年9月26日 改訂公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
谿 忠人先生のプロフィール
谿 忠人先生

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