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病気の悩みを漢方で
小柴胡湯(ショウサイコトウ)
1.小柴胡湯(ショウサイコトウ)の意味
小柴胡湯の名は、柴胡(サイコ:図1)が主薬であることを意味しています。
柴胡は、気(キ)を巡らせて欝熱、抑うつ感、膨満感を去る理気清熱薬(リキセイネツヤク)です。寒熱往来(カンネツオウライ:悪寒と熱感が交互に出現する熱型)、胸脇苦満(キョウキョウクマン:上腹部・脇腹の痞え)、心煩(シンパン:いらだち、胸苦しさ)を軽減します。
方剤名は、本方がこれらの症状・病態に用いることを示唆しています。
これらは、少陽病(ショウヨウビョウ:熱性疾患の亜急性期)に特徴的な病態です。少陽病は、かぜ(2)を参照してください。
方剤名の小は、本方の適応病態が関連する大柴胡湯(ダイサイコトウ)より穏やかであることを意味しています。両方剤の適応病態のイメージと配合生薬は、漢方薬名の意味:大柴胡湯を参照してください。
2.小柴胡湯の適応
小柴胡湯は、
・亜急性期以降の慢性期の炎症性疾病と(かぜ、気管支炎、慢性肝炎など)、
・発熱が顕著ではない胃腸症状や不定愁訴症候群にも広く用いられます。
適応病態は、熱証傾向、気滞(キタイ)痰飲(タンイン)および気虚(キキョ)です。
小柴胡湯は、発病後5日以上経過した感冒患者の食欲低下、痰の切れ、関節痛・筋肉痛をプラセボ群より有意に改善した。口の粘り、頭痛、痰の量も改善傾向であった。
二重盲検群間比較試験 臨牀と研究. 2001; 78: 2252-2268.
この臨床試験で対象にした発病後5日以上経過した感冒の病態は、亜急性期の少陽病に相当します。
食欲が低下して舌に厚い黄苔を認めた亜急性期の甲状腺炎を少陽病と判断して小柴胡湯を投与し軽減した報告があります(日東医誌., 2022; 73: 409-413.)。
※ 小柴胡湯と慢性肝炎と“小柴胡湯事件”
小柴胡湯を慢性肝炎に用いる療法は、昭和後半期(1980年代)の漢方保険診療の主要な話題でした。本方の慢性活動型肝炎への有用性は多施設二重盲検比較試験で明らかにされていました(肝胆膵. 1992; 25: 551-558.)。
ところが小柴胡湯を慢性肝炎に用いる「病名漢方」が暴走して“小柴胡湯事件”が起きました。現在ではその反省を踏まえて小柴胡湯製剤を慢性肝炎に適正に使用する指針が整備されています。ちょっと一言を参照してください。
3.小柴胡湯の配合生薬
小柴胡湯の配合7生薬を図2に示します。
上段と中段の4生薬は、病邪(熱邪、気滞、痰飲)を除去する=祛邪薬です。下段の3生薬は、正氣(セイキ:生命維持活動)の不足を補う扶正薬です。
本方の特徴的な生薬は、柴胡と半夏(ハンゲ)と人参(ニンジン)です。
主薬の柴胡は、黄芩(オウゴン)と共に少陽病の熱証を冷まします。半夏は生姜(ショウキョウ)と共に吐き気(痰飲 タンイン)を除きます。
人参は、大棗(タイソウ)甘草と共に正氣を整えます。
小柴胡湯は、病理の虚実が併発した錯雑(サクザツ:挟雑 キョウザツ)病態を=祛邪と扶正の両面から整える方剤です。このような方剤を和解剤(ワカイザイ)と称します。かぜ(2)を参照してください。
4.小柴胡湯の関連方剤
4.1)小柴胡湯を含む関連方剤群
小柴胡湯の7生薬を含む関連方剤を図3にまとめました。図3の右側の赤字をクリックすれば当該項目を参照できます。これらは、気管喘息、肝臓病、腎臓病、皮膚疾患、不定愁訴症候群に活用されています。
柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)と小柴胡湯と大柴胡湯を比較しました(図4)。
柴胡桂枝湯は、太陽病と少陽病の移行期に用いられます。かぜ(2)を参照してください。大柴胡湯は、少陽病と陽明病の移行期に用いられます。
4.2)大柴胡湯は、生活習慣病のメタボ肥満や高血圧症に伴うのぼせ、いらだち、膨満感に用いられます。肥満(2)を参照してください。
本方は、小柴胡湯から補気薬(人参と甘草)を除き、芍薬(シャクヤク)枳実(キジツ)大黄(ダイオウ)を加味して清熱と理気と瀉下(シャゲ)を強化した方剤です。
本方と小柴胡湯の配合生薬は、漢方薬名の意味:大柴胡湯で比較しています。
4.3)柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)は、抑うつ、不安、動悸、不眠などに用いられます。小柴胡湯の甘草以外の6生薬に、桂皮(ケイヒ)と安神薬(アンシンヤク)の竜骨(リュウコツ)牡蛎(ボレイ)を加味した方剤です。漢方薬名の意味:柴胡加竜骨牡蛎湯を参照してください。
安神は、疲労感(1)を参照してください。
4.4)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、かぜ後期の倦怠感や、病中病後の体力低下を改善する補剤(ホザイ)です。小柴胡湯より虚弱状態が顕著な病態に適します。漢方薬名の意味:補中益気湯やフレイル(2)を参照してください。
本方と小柴胡湯の配合生薬は、かぜ(2)で比較しています。本方は、小柴胡湯の柴胡と人参など5生薬を共通して含みます(図5)。
本方中の柴胡は、黄耆や升麻と連携して、気の上昇力が低下した倦怠感、四肢のだるさ、内臓が下垂する病態を引き上げる昇提(ショウテイ)を担います。補中益気湯の昇提の薬能が、小柴胡湯との相違点です。
4.5)半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)は、柴胡-黄芩の代わりに黄連(オウレン)-黄芩を含み心窩部の痞え感や下痢に用いられる芩連剤(ゴンレンザイ)です(図6)。胃食道逆流症(2)や過敏性腸症候群(2)を参照してください。
本方は、心窩部が主たる適応部位です。一方小柴胡湯の適応は、脇腹部です。
いわゆる“小柴胡湯事件”
“小柴胡湯事件”は小柴胡湯服用患者の死亡例です。 1996年の3月に一般紙に報道されたので話題になりました。
この事件は、慢性肝炎という病名に「一律に」小柴胡湯を用いるのは適切でないことを反省する材料になりました。
現在の小柴胡湯製剤には、インターフェロン(IFN)製剤との併用禁忌、肝硬変傾向を見逃さないように血小板数の少ない患者への使用禁忌などが明記されています。
漢方製剤にも(適正に使用しなければ)副作用のあることを認識させてくれた事案でした。
(2024年2月20日 公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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