病気の悩みを漢方で

１．胃食道逆流症（GERD）の漢方医療の概要

　胃食道逆流症（gastroesophageal reflux disease: GERD）は､胸やけ､げっぷ､呑酸（ﾄﾞﾝｻﾝ）など胃から食道への逆流症状を含む機能性胃腸症です。呑酸は胃酸の口腔内逆流による苦みのことです。

　ここではGERDに用いられる方剤を考えます（図1）。

２．半夏瀉心湯（ﾊﾝｹﾞｼｬｼﾝﾄｳ）

　半夏瀉心湯は､げっぷ､胸やけ､呑酸､吐き気､心窩部つかえ感､胃もたれ､食欲不振に用いられてきました。胃もたれ（３）を参照してください。
　これを踏まえて本方は､GERDや非びらん性GERD（NERD）に用いられています。

　GERDの現代科学医療の第一選択薬は､胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤（PPI）です。しかしながらPPIだけでは効きにくいPPI抵抗性GERDがあるので､PPIと併用する治療薬が望まれています。

　半夏瀉心湯は､ PPI抵抗性のGERDにPPIと併用されています。

　半夏瀉心湯とPPIの併用群が倍量のPPI投与と差がないことは費用対効果の観点からも有用です。
　本方の胃排出促進作用がPPIとの併用に寄与したと考えられています。

　半夏瀉心湯は化痰補気､清熱剤（ｹﾀﾝﾎｷ､ｾｲﾈﾂｻﾞｲ）です。
　・吐き気を軽減する化痰薬（ｹﾀﾝﾔｸ）の半夏（ﾊﾝｹﾞ）や乾姜（ｶﾝｷｮｳ）
　・胃腸虚弱症状を軽減する補気薬（ﾎｷﾔｸ）の人参（ﾆﾝｼﾞﾝ）
　・口苦感､口内炎などに対する清熱薬（ｾｲﾈﾂﾔｸ）の黄芩（ｵｳｺﾞﾝ）黄連（ｵｳﾚﾝ）が含まれています（図２）。

３．六君子湯（ﾘｯｸﾝｼﾄｳ）

　六君子湯は食欲不振､胃もたれ､早期の満腹感が主訴となる機能性ディスペプシア（FD）の第一選択薬です。機能性ディスペプシアを参照してください。

　本方は､PPI抵抗性のGERDやNERDにPPIと併用されています。

　本方の胃適応性弛緩や胃排出促進などの消化管運動改善作用がPPIとの併用に寄与したと考えられています。漢方薬名の意味：六君子湯を参照してください。

　六君子湯は補気剤の四君子湯（ｼｸﾝｼﾄｳ）と化痰剤の二陳湯（ﾆﾁﾝﾄｳ）を含む補気化痰利水剤（ﾎｷｹﾀﾝﾘｽｲｻﾞｲ）です（図３）。漢方薬名の意味：六君子湯を参照してください。

　六君子湯と半夏瀉心湯を比較しました（図4）。

　六君子湯と半夏瀉心湯は共に補気化痰剤です。
　六君子湯は化痰理気利水剤の二陳湯（ﾆﾁﾝﾄｳ）の配合生薬､とくに陳皮（ﾁﾝﾋﾟ）白朮（ﾋﾞｬｸｼﾞｭﾂ）茯苓（ﾌﾞｸﾘｮｳ）を含むことが半夏瀉心湯との相違点です。

４．茯苓飲（ﾌﾞｸﾘｮｳｲﾝ）

　茯苓飲の適応は､半夏瀉心湯と六君子湯の中間の領域です。
　・げっぷ､胸やけは､半夏瀉心湯の適応症状に類似し､
　・吐き気､胃もたれ､食欲不振は､六君子湯に類似します。

　茯苓飲（６味）の５生薬が六君子湯と共通です（図５）。

５．痛みを伴うGERD：

5.1）安中散（ｱﾝﾁｭｳｻﾝ）は､心窩部痛型のFDやGERDに用いられます。機能性ディスペプシアを参照してください。本方は､食欲不振､胸やけ､吐き気と冷えによって発症増悪する胃痛や腹痛に適します。漢方薬名の意味：安中散を参照してください。

5.2）その他
・芍薬甘草湯（ｼｬｸﾔｸｶﾝｿﾞｳﾄｳ）は､半夏瀉心湯や六君子湯などの適応で痛みを伴う時に併用（頓用 ﾄﾝﾖｳ）されます。
　但し甘草の配合量が6gと多いので､併用による副作用の発現が高まるので投与後の観察が必要です。

・四逆散（ｼｷﾞｬｸｻﾝ）は､いらだちや抑うつを伴う痛みに併用されます。漢方薬名の意味：四逆散を参照してください。