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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)

1.茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)

 茵蔯蒿湯の名は、茵蔯蒿(インチンコウ)が主薬であることを示しています。
 日本の茵蔯蒿は、カワラヨモギの頭花です。100粒で50mg弱の軽い小さな花です。
 なお日本薬局方では茵蒿と草冠のないを使用しています。
 茵蔯蒿は、黄疸(オウダン)や炎症を伴ったむくみ湿熱 シツネツ)を軽減する生薬です。

 このことから方剤名は、本方の主な適応が、肝臓・胆道系の疾病であることを示唆しています。

2.茵蔯蒿湯の配合生薬

 茵蔯蒿湯の配合3生薬を図1に示します。

 本方は、赤字で表記する清熱性の3生薬からなる方剤です。口苦感、冷たい飲み物を好む口渴などの熱証を確認して使用します。
 冷え症傾向で体力の低下した病態には慎重に投与します。

3.茵蔯蒿湯の適応

 茵蔯蒿湯は、清熱瀉下薬(セイネツシャゲヤク)の大黄(ダイオウ)を含む方剤です。
 本方は、口苦感口渴口内炎上腹部の膨満感不快感便秘、尿量減少傾向を伴う以下の病態に用いられます。

 茵蔯蒿湯の古典の適応症状には身発黄と記載されています。配合生薬の茵蔯蒿J. Clin. Invest., 2004; 113: 137-143)と山梔子(サンシシ:Hepatology. 2004; 39: 167-178)の利胆作用が明らかにされています。

 茵蔯蒿湯は、術後の黄疸高ビリルビン血症肝機能障碍にも応用されています。

胆道閉鎖症の胆道再建手術1ヶ月後の黄疸消失率を高めた。

 日外科系連会誌., 2012; 37: 724–729


・肝切除後の肝機能検査値(AST値、ALT値、LDH値)を非投与群より有意に低下。 

 ランダム化比較試験 HPB., 2015; 17: 461-469


・術前投与が閉塞性黄疸症手術や肝切除後の高ビリルビン血症を予防。

 外科と代謝・栄養. 2022; 56: 65-68


 茵蔯蒿湯の肝機能に対する基礎研究があります。

・術前投与は、肝切除後動物のトランスアミラーゼ値、総胆汁酸、総ビリルビンの値を改善した。残存肝臓/身体の重量を増加し、生存期間を延長。

 Hepatology Research. 2008; 38: 818-824


・高脂肪飼料摂取マウスの肝細胞内の脂肪小滴の蓄積を減少。

 産婦人科漢方研究のあゆみ. 2014; 31: 144-149


・門脈圧軽減、肝線維化抑制、肝細胞保護。

 外科と代謝・栄養. 2022; 56: 65-68


茵蔯蒿湯五苓散の併用)は、非代償性肝硬変に伴う(利尿薬のフロセミドやアルブミン補充に抵抗性の)難治性腹水を軽減。

 日東医誌., 2015; 66: 337-341


 茵蔯蒿湯は、口内炎に使用されています。口渴尿量減少を伴う病証に適します(歯薬療法., 2012; 31: 67-82. 漢方の臨床. 2024; 71: 393-396)。

4.茵蔯蒿湯の関連方剤

 茵蔯五苓散(インチンゴレイサン)は、むくみ吐き気頭痛を伴う蕁麻疹に適します(日東医誌., 2011; 62: 256-261)。

 茵蔯五苓散清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)を併用して蕁麻疹を軽減した症例報告もあります(日東医誌., 2021; 72: 159-165)。
 本方と四逆散(シギャクサン)を併用して再発性肝内結石を長期寛解維持できた報告があります(日東医誌., 2024; 75: 138-143)。

 本方は、五苓散図3の水色枠内の5生薬)に茵蔯蒿を加味した方剤です。湿証(シツショウ:水滞)に使用されます。

ちょっと一言:(トピックス)

茵蔯蒿湯口訣(抜粋)

本方は、発黄を治する聖剤なり。黄疸初発にこの方を用いて下を取りて後、茵蔯五苓散を用う可し(浅田宗伯)。
本方は、実証咽の渇きを訴える皮膚のかゆみに偉功を発揮する(藤平健)。
本方は、陽明病位の薬です。腹満便秘小便不利です。心下の訴えが強い場合は大柴胡湯小柴胡湯を兼用します(三谷和合)。
本方は、黄疸の聖薬であるが、利胆作用だけでなく利尿作用もある(花輪壽彦)。

(2024年7月8日 公開)


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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