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病気の悩みを漢方で
六君子湯(リックンシトウ)
1.六君子湯(リックンシトウ)名の意味と配合生薬
六君子湯の名は六種の君子のように重要な生薬を含む方剤を意味しています。
六君子は、人参(ニンジン)白朮(ビャクジュツ)茯苓(ブクリョウ)甘草(カンゾウ)と陳皮(チンピ)半夏(ハンゲ)の6生薬です。黄色で囲んだ4生薬は補気剤(ホキザイ)の四君子湯(シクンシトウ)の配合生薬です。
なお、日本で現在使用されている六君子湯エキス製剤は、6生薬に大棗(タイソウ)と生姜(ショウキョウ)を含めた8生薬からなります(図1)。現在の四君子湯製剤も大棗と生姜を含む6生薬です。
六君子湯の薬能や適応は配合8生薬を以下のように分割して考えます。
1)胃腸虚弱(脾胃気虚 ヒイキキョ)を補う補気剤の四君子湯(6生薬)と
2)胃もたれ(痰飲 タンイン)を軽減する化痰剤(ケタンザイ)の二陳湯(ニチントウ)
の合剤だと考えます。
結局、六君子湯は四君子湯(6味)に化痰薬の陳皮と半夏を加味した補気化痰、利水剤(ホキケタン、リスイザイ)ということになります。食欲不振に用いられる第一選択薬です。
2.六君子湯の適応:食欲不振、食後の胃もたれ、吐き気
六君子湯は補気化痰剤です。すなわち、
・気虚(キキョ)症状の胃腸虚弱、疲労倦怠感、冷え(四君子湯の適応病態)と
・痰飲症状の食欲不振、食後の胃もたれ(陳皮と半夏の適応病態)に適します。
本方は疲労倦怠感を伴う機能性ディスペプシアや非びらん性胃食道逆流症に伴う食後の胃もたれに用いられています。機能性ディスペプシアを参照してください。
・六君子湯は、不安から2次的に派生した神経性無食欲症 (食欲不振・疲労倦怠・不眠、抑うつ感など) を軽減。
日東医誌. 1994; 45: 381-386
・六君子湯は、機能性ディスペプシア患者の心窩部痛と食後の胃もたれを対照群(プラセボ群)より有意に改善。 プラセボ対照二重盲検比較試験。
Neurogastroenterol. Motil., 2014; 26: 950-961
・六君子湯(胃酸分泌抑制薬との併用:3ヶ月投与)は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)患者の上腹部痛と胸焼けを軽減。胃酸分泌抑制薬の投与を中止できた症例もある。
新薬と臨牀. 2015; 64: 1474-1484
3.六君子湯と配合生薬の薬理
六君子湯の胃もたれ軽減効果には白朮、人参、茯苓、陳皮の胃排出能改善作用が関与していいます。胃排出能は胃の内容物を十二指腸へ移動させる機能です。
本方の食欲不振軽減効果はグレリン(食欲亢進ホルモン)を介しています(図2)。
・六君子湯は、機能性ディスペプシア患者の血中活性グレリン量を増加させて上部消化管症状を改善。
Hepato-Gastroenterology. 2012; 59: 62-66
4.六君子湯の関連方剤
4.1)六君子湯の加味方(図3)
柴芍六君子湯(サイシャクリックンシトウ)は六君子湯にいらだちを軽減する理気薬の柴胡(サイコ)と腹痛を軽減する芍薬(シャクヤク)を加味した方剤です。神経性胃炎に適します。エキス剤では六君子湯と四逆散(シギャクサン)を併用して代用します。
香砂六君子湯(コウシャリックンシトウ)は六君子湯に抑うつ感や気分のふさぎを軽減する理気薬の香附子(コウブシ)を加味した方剤です。
エキス剤では六君子湯と香蘇散(コウソサン)を併用して代用します。
4.2)胃もたれや上腹部症状に用いられる関連方剤
平胃散(ヘイイサン)は食べ過ぎによる胃もたれ、膨満感、腹痛に適します。膨満感の軽減は理気薬の厚朴(コウボク)の関与です(図4)。漢方薬名の意味:平胃散を参照してください。
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は抑うつ、不安を伴う胃もたれ、吐き気に用いられます。化痰剤の小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ:生姜、半夏、茯苓)を含みます。 胃食道逆流症(3)理気化痰剤を参照してください。
上腹部症状に用いられる3方剤の使い分けをまとめました(図5)。
なお、六君子湯に関連する半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)と茯苓飲(ブクリョウイン)は胃もたれ(3)胃腸虚弱を参照してください。
4.3)めまいに用いられる六君子湯の関連方剤(図6)
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)は頭重感、吐き気、疲労倦怠感を伴うめまいや起立性調節障碍に用いられる補気化痰剤です。気圧の変動で誘発される胃弱者のめまい、頭重に適します。めまい(2)低血圧傾向を参照してください。なお本方には配合生薬の異なる製剤があります。
めまいの軽減には本方に含まれる沢瀉湯(タクシャトウ 沢瀉、白朮)と天麻(テンマ)が寄与しています(図6)。天麻は頭痛・頭重感の軽減にも関係します。
4.4)虚弱状態に用いられる六君子湯の関連方剤
補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は疲れやすく、かぜを引きやすく長引く、病中病後の虚弱状態に使用されます。漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
本方はだるさと易感染性を目標に、六君子湯は胃もたれ、吐き気、食欲不振に注目して使い分けます。
両方剤の比較はフレイル(2)胃腸虚弱を参照してください。
六君子湯の最近の応用展開
医療用の六君子湯製剤は、
・術後の消化器症状を軽減する周術期医療や、
・抗がん剤による吐き気を軽減する支持療法でも活用されています。
がん(3)術後の諸症状やがん(5)治療薬の副作用を参照してください。
(2022年7月5日 改訂公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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