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病気の悩みを漢方で
1.低血圧傾向のめまい発現期に用いられる主な3方剤
めまい(低血圧)の漢方治療では発現期と寛解期に分けて考えます。
発現期の標治(ヒョウチ)では、薬味の少ない即効性の方剤を選びます(図1)。
標治は、疾病の病態に応じた対症療法に相当する漢方用語です。アトピー性皮膚炎(5)を参照してください。
図1の中では苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)が頻用されます。顔色不良で貧血傾向であれば、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、冷えと全身倦怠感が顕著な場合は真武湯(シンブトウ)が適します。
1.1)苓桂朮甘湯は、めまい、立ちくらみ、起立性調節障碍(OD)に適した利水降気補気剤(リスイコウキホキザイ)です。
本方は、冷え症傾向ですが発作性に動悸や頭痛やのぼせが発現します。午前中の体調が良くない「遅寝、遅起き」の人に適します。この適応病態はふくろう症候群と称されています。起立性調節障碍のちょっと一言を参照してください。
本方の配合生薬を図2に示しました。桂皮(ケイヒ)と甘草(カンゾウ)が発作性の動悸や頭痛やのぼせ(気逆 キギャク)の軽減に寄与すると考えられています。
1.2)当帰芍薬散は、顔色不良、貧血傾向で、手足の冷え、頭重感や動悸、耳鳴りを伴うめまいに用いられる補血利水剤(ホケツリスイザイ)です。
疲れやすく午後になると足がむくむ人に適します。月経痛や月経不順を伴う女性に用いられることの多い方剤です。冷え症(1)や婦人更年期障碍(2)を参照してください。
本方のめまい軽減効果には、補血薬の当帰(トウキ)芍薬(シャクヤク)と利水剤の沢瀉湯(白朮 ビャクジュツ、沢瀉 タクシャ)の2生薬(図3)が関与しています。
1.3)真武湯は、体力が低下し冷えが顕著で動悸や下痢を伴うめまいや動揺感に用いられます。疲労感(6)や冷え症(2)を参照してください。
本方の主薬は附子(ブシ)です。低下した生命維持活動機能を温めて活性化する補腎陽薬(ホジンヨウヤク)です。
2.めまい(低血圧)の寛解期に用いられる主な方剤
めまい(低血圧)の寛解期には、背景となる低血圧傾向や虚弱状態を整える補益剤で本治(ホンチ)を目指します。本治は、疾病の背景にある全身の病態(生命維持活動の不調和)を調整する根治治療に相当する漢方用語です。
半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)は発現期から寛解期にかけて頻用されます。また寛解期には、図1の方剤を他剤との併用して対処します。
2.1)半夏白朮天麻湯は、胃腸虚弱で食が細く、吐き気や乗り物酔いに悩む人のめまいに用いられます。起立性調節障碍に用いられる主要方剤です。起立性調節障碍を参照してください。
本方は、曇天や雨天で悪化する頭痛(低気圧頭痛)に適します。頭痛(6)を参照してください。
本方は、胃腸虚弱、食欲不振、胃もたれに用いられる六君子湯(リックンシトウ)の関連方剤です(図4)。虚労(2)を参照してください。
本方のめまいの軽減には、沢瀉湯と半夏(ハンゲ)や陳皮(チンピ)などの化痰薬と天麻(テンマ:図5)が寄与します。
天麻はめまい、頭痛などの肝風(カンフウ)を鎮める熄風薬(ソクフウヤク)です。明代の薬物書『本草綱目』には天麻は「治風之神薬」と記載されています。
肝風は、のぼせ、頭痛、めまいを伴う病態です。気逆(キギャク)と気滞(キタイ)に相当します。漢方薬名の意味:抑肝散を参照してください。
2.2)図1の3方剤と併用される方剤
めまいの寛解期には、めまいの背景になる胃腸虚弱症状や抑うつ、不安などの不定愁訴に応じて図1の3方剤に他剤を併用します(図6)。
とくに長引くめまいには抑うつや不安を伴うことが多く、香蘇散(コウソサン)や半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)の併用が有用です(図6)。
長引くめまいには抑うつや不安を伴うことが多く、香蘇散(コウソサン)や半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)など理気剤(リキザイ)の併用が有用です。
2.3)連珠飲(レンジュイン)は、苓桂朮甘湯に補血剤の四物湯(シモツトウ)を組み合わせた方剤です。起立性調節障碍で当帰芍薬散と比較しています。
エキス製剤では苓桂朮甘湯と四物湯を併用して代用されます。この併用で、ふらつき、耳鳴り、冷え症、疲れを軽減した例が報告されています。
めまい(低血圧)寛解期の全身病態を調整する補益剤は、起立性調節障碍に用いられる方剤とほぼ共通します。起立性調節障碍を参照してください。
めまいの漢方相談
めまいに関わる漢方病理は多様です。そのため「めまいに●▲湯」のように一つの方剤に絞り込むことは困難です。
漢方医療では、血圧の変動以外にめまいの随伴症状(頭痛、動悸、のぼせ、冷え、疲労、睡眠不足)から漢方病理を想定して方剤を選びます。
めまいの漢方相談ではめまい以外の違和感や、症状が悪化する状況(疲れ、ストレス、曇天、冷えなど)を詳しく話してください。
(2022年11月15日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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