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病気の悩みを漢方で

1.疲労感と冷え
疲労感と冷えには胃腸虚弱の気虚(キキョ)、栄養不足の血虚(ケッキョ)、加齢による機能低下の腎虚(ジンキョ:腎陽虚)が関与します。
さらに、冷えには循環不全の瘀血(オケツ)、むくみの水滞(スイタイ)、胃もたれの痰飲(タンイン)も関係します。冷え症(1)を参照してください。
今回は真武湯(シンブトウ:補腎陽散寒、燥湿)を中心にして冷えを伴う疲労感に用いられる方剤を解説します(図1)。

2.腎虚 (ジンキョ)の冷えと疲労感
2.1)真武湯(シンブトウ)の投薬目標は「新陳代謝の沈衰しているもの」と記載されています。これは、全身の疲労倦怠感などの体力低下、腰や四肢の冷感、脱力感などの腎陽虚(ジンヨウキョ)を示唆しています。
本方の適応となる動揺性のふわふわしためまい、動悸、四肢のむくみや重だるさ、水様性下痢には水滞(スイタイ)も関与します。虚労(2)を参照してください。
本方の主薬は附子(ブシ)です。附子の薬能は補腎陽(ホジンヨウ)と散寒燥湿(日本漢方では逐水)です。補気利水薬の白朮(ビャクジュツ)茯苓(ブクリョウ)も冷えの軽減に寄与します(図2)。

2.2)八味地黄丸(ハチミジオウガン)は、全身倦怠感、腰四肢の冷え、むくみ、しびれ、夜間頻尿など運動器と生殖泌尿器系機能の低下という腎陽虚に特徴的な症状に用いられる附子配合剤です。排尿異常(2)を参照してください。
さらに、冷えだけでなく津液不足(シンエキフソク:腎陰虚 ジンインキョ)による足裏のほてり、口乾などの虚熱(キョネツ)にも適します。滋養腎陰薬(ジヨウジンインヤク)の熟地黄(ジュクジオウ)と山茱萸(サンシュユ)を含むことが真武湯との相違です(図3)。
なお腎陽虚は冷えを伴う腎虚、腎陰虚 はほてりと乾燥を伴う腎虚です。腎虚に関しては、漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。

2.3)牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は、八味地黄丸に牛膝(ゴシツ 活血利水)と車前子(シャゼンシ 利水)を加味した方剤です。八味地黄丸の適応病態で下肢のむくみ、しびれが顕著な時に適します。漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。
3.血虚 (ケッキョ)の冷えと疲労感
当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、体力虚弱で冷え症、顔色不良の人の疲労と頭痛、むくみに用いられます。月経不順、月経痛、更年期障碍、浮腫状の皮膚に用いられる補血利水剤(ホケツリスイザイ)です。冷え症(1)や頭痛(6)を参照してください。
本方は補血薬の当帰(トウキ)と芍薬(シャクヤク)と利水3薬を含みます(図4)。

4.気虚 (キキョ)の冷えと疲労感
4.1)人参湯(ニンジントウ)は、冷え症で胃腸が弱く、冷房下痢のように冷えると下痢になりやすい人の疲労倦怠感に用いられます。本方の下痢は軟便泥状便です。真武湯の下痢は水様性便です。
本方の主薬は補気薬の人参(ニンジン)です。冷えの改善には甘草(カンゾウ)と温中散寒薬(オンチュウサンカンヤク)の乾姜(カンキョウ)の薬対が関与しています(図5)。

人参湯は真武湯と併用されて補腎補気剤の茯苓四逆湯(ブクリョウシギャクトウ)や四逆加人参湯(シギャクカニンジントウ)の代用にされます。
本方と真武湯は、冷え症(2)で比較しています。
4.2)半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ 12味)は、人参湯と同様に人参と白朮と乾姜を含み、化痰剤(ケタンザイ)の小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)を含みます。六君子湯(リックンシトウ)の関連方剤です。漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
本方は冷え症、めまい、天候の悪化と関連する頭痛を伴う疲労倦怠感に用いられます。頭痛(6)を参照してください。
4.3)当帰湯(トウキトウ)は、体力の低下した人の疲労感、冷えと消化管の痛みと膨満感に用いられます。
本方は補気薬の人参と黄耆、温中散寒薬の乾姜と山椒(サンショウ)を含みます。さらに、化痰薬(ケタンヤク)の半夏と厚朴(コウボク)も含みます。

疲労感(冷え):随伴症状を話してください。
今回は、冷えと疲労感に用いられる方剤群を真武湯と比較しながら解説しました。
適切な方剤を使い分けるために、冷える部位、食欲、便通の状態、皮膚の乾燥状態、むくみ、排尿状態などの全身の違和感を詳しく話して下さい。
(2022年10月20日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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