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病気の悩みを漢方で
1.疲労感と不眠
疲労感が溜まれば睡眠が障碍されます。不眠が続くと疲労感が回復しません。
ここでは、長引く疲労感を伴う虚弱病態(虚労 キョロウ)に伴う不眠に用いられる方剤を紹介します(図1)。
虚労は正氣(セイキ:生命維持活動)の低下、とくに気虚(キキョ)血虚(ケッキョ)腎虚(ジンキョ)で発現します。
虚労の不眠には心神不安(シンシンフアン)も関与し、安神薬(アンシンヤク)の適応になります。疲労(1)を参照してください。
図1には安神薬を含む方剤を例示しました。これらの中では二重線で囲んだ3方剤が頻用されます。
2.酸棗仁湯(サンソウニントウ)
酸棗仁湯は虚労と一過性にいらだちや興奮傾向になる虚煩(キョハン)を伴う不眠に用いられる方剤です。
虚労の軽減には主薬の補血安神薬の酸棗仁と補気薬の甘草と茯苓(ブクリョウ)が寄与します(図2)。
虚煩は、胸苦しさ、いらだち、悪夢を見て夜間に目が冴えて眠れない一過性の興奮状態です。虚煩の軽減には酸棗仁と、知母(チモ:清虚熱)が寄与します。
不眠(3)も参照してください。
3.帰脾湯(キヒトウ)と加味帰脾湯(カミキヒトウ)
3.1)帰脾湯は、虚労状態の眠りが浅い、夜間に目覚めるなどの不眠、不安、抑うつ感などに用いられます。
本方は補気剤の四君子湯(シクンシトウ 6味)と補血安神薬を含む補気補血安神剤です(図3)。疲労感(3)を参照してください。
本方は、酸棗仁湯より胃腸虚弱と顔色不良、倦怠感を伴う人に適します。
3.2)加味帰脾湯は、帰脾湯の適応病態に、気滞(胸苦しさ)と気逆(のぼせ、いらだち)が加わった場合に適します。漢方薬名の意味:帰脾湯を参照してください。
酸棗仁湯、帰脾湯、加味帰脾湯は、不眠(3)でも解説しています。
4.人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
人参養栄湯は、虚労状態の補気補血安神剤として注目されています。 COPDや認知症(6)を参照してください。
本方は、補気補血剤の十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ 10味)の9味を含む関連方剤です。十全大補湯との相違点は、安神薬の遠志(オンジ)と五味子(ゴミシ)を含み不安、意欲低下、不眠、咳嗽に適することです。漢方薬名の意味:人参養栄湯を参照してください。
5.桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)
桂枝加竜骨牡蛎湯は、冷え傾向の人の倦怠感、不安、動悸、不眠(悪夢)に用いられます。朝の調子が良くない人に適します。疲労感(4)を参照してください。
本方は桂枝湯(図4の黄色で囲んだ5生薬)に竜骨(リュウコツ)と牡蛎(ボレイ)を加味した方剤です。桂枝湯は虚弱状態(≒気血両虚)を整える方剤です。
竜骨と牡蛎は動悸や不安、煩驚(物音に敏感で驚きやすい)不眠を軽減する安神薬です。さらに遺精など体液の漏出病態を止める固渋(コジュウ≒補腎 ホジン)作用もあります。
6.酸棗仁湯、帰脾湯、桂枝加竜骨牡蛎湯の使い分け
図5に体力の低下者の疲労感と不眠に用いられる3方剤を比較しました。
7.柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
柴胡桂枝乾姜湯は、柴胡と牡蛎を含む理気安神剤です。本方は、神経過敏で取り越し苦労傾向の人の心煩(不安、抑うつ、いらだち、焦り、胸苦しさ)、動悸、頭部発汗、口渴を伴う疲労感や不眠に用いられます。断り切れずに引き受けて過剰に適応した後にがっくり疲れる状態に用いられます。
本方の適応は桂枝加竜骨牡蛎湯と類似しますが、冷えと体力低下の程度は軽微で、脱毛や性的な悪夢は少ないようです。
本方と桂枝加竜骨牡蛎湯は、疲労感(4)でも比較しています。
不眠を軽減する工夫:朝日と朝食
漢方製剤は西洋薬のような即効性の強い睡眠導入作用はありません。全身機能を調えて「眠りやすい状態」にする薬です。
そのため不眠を軽減するには生活習慣を見直しながら服用してください。
1)朝起きれば朝陽を浴びる、2)朝食を摂ることです。
これらは体内時計を調整(リセット)するためです。
3)昼寝は30分程度に抑える、などを工夫してください。
また、寝る直前の飲酒は控えるのがよいでしょう。
(2022年9月21日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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