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病気の悩みを漢方で
1.気管支喘息(喘息)寛解期の治療と漢方製剤の役割
喘息の発作がおさまっている時期を寛解期(カンカイキ)といいます。この時期は、ゼーゼー・ヒーヒーという喘鳴(ゼンメイ)がでていなくても気道には炎症があり、咳感受性が高まっています。そのため体調を調え発作を予防する治療が必要です。
科学医療では寛解期には長期管理薬が用いられます。その主体は、気道炎症を抑える吸入ステロイド薬と気管支を拡張する長時間作用性β2刺激薬の吸入剤です。
漢方製剤はこれらの長期管理薬による寛解期を維持する療法を補完する目的で使用されています。さらに、
・心理社会的因子(ストレス)の関与の大きな喘息患者の発作を予防し、
・胃腸虚弱やかぜをひきやすい虚弱状態を補養すること、も漢方製剤の役割です。
2.柴朴湯(サイボクトウ)・・・寛解期の基本方剤
柴朴湯(サイボクトウ)は、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、嘔気、めまい感、かぜをひきやすい人の喘息寛解期を維持するために用いられる方剤です。発作を予防する薬で、発作を止める薬ではありません。
柴朴湯は、
・抗アレルギー作用のある小柴胡湯(ショウサイコトウ)と
・気うつ傾向を軽減する半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)を
合わせた理気剤(リキザイ)です(図3)。
そのためストレスを感じて気うつになっている心身症傾向の喘息患者の寛解期に適します。
(医療用)の柴朴湯製剤には、喘息の寛解期における有用性が多施設の臨床研究で報告されています。なかにはステロイド薬の投与量を節約できた例もあります。
※(医療用)柴朴湯のエビデンス
(臨床研究)
・不安を有する成人気管支喘息: 柴朴湯投与群(6ヶ月)は発作回数減少、気道粘膜内の炎症細胞の減少を認めた。
・成人気管支喘息患者:柴朴湯投与群(4.9月)は発作点数、夜間睡眠点数を改善し、ステロイドの減量効果が認められた例もある。
(基礎研究)
・ステロイド薬の連続投与によるグルココルチコイド受容体の減少を抑制。
・ストレス負荷による気道過敏性の亢進を抑制。遅発型の喘息反応を抑制。
柴朴湯については、かぜの漢方(4.咳治療のまとめ)も参照してください。
3.長引く喘息患者の虚弱状態に用いられる補気剤 (ホキザイ)
喘息が長引くと疲れやすく、だるく、気力が衰え、かぜをひきやすくなります。この体力低下状態には、人参(ニンジン)を含む各種の補気剤(ホキザイ)の適応になります。
3.1)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、喘息患者の消化吸収機能を調えて生体維持活動を高め、かぜをひきやすい虚弱状態を改善する方剤です。
3.2)六君子湯(リックンシトウ)も胃腸虚弱状態を改善する方剤です。食後の停滞感・胃もたれや嘔気を伴う喘息患者の寛解期に適します。
3.3)人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)は、顔色が悪く、咳や呼吸困難を伴う虚弱状態を改善する方剤に適します。
補中益気湯ついてはCOPDの漢方を、六君子湯に関しては、ストレス胃(3.胃もたれ)を参照してください。
3方剤は慢性疲労症候群(2) でも解説しています。
なお、発作後咳嗽で解説した麦門冬湯(バクモンドウトウ)や、寛解維持療法に用いる柴朴湯(サイボクトウ)にも人参が含まれています。
4.長引く喘息の虚弱状態に用いられる補腎剤 (ホジンザイ)
八味地黄丸(ハチミジオウガン)は、加齢に伴う
・冷え症を温める附子(ブシ)と
・乾燥病態を潤す地黄(ジオウ)や山茱萸(サンシュユ)
を含む補腎剤(ホジンザイ)です。
本方も寛解期の体調を維持するために用いられます。高齢者に用いられることが多いようです。
八味地黄丸は補中益気湯などの補気剤と違って食欲不振や胃もたれなどの胃腸虚弱の症状がありません。そのかわり排尿異常・夜間頻尿や足腰の虚弱(長く歩けない、つまずきやすい)、足腰の冷え、皮膚の乾燥傾向などの腎虚(ジンキョ)の症状を目標にして使用されます。
八味地黄丸に関しては、
疲労感の漢方(6.冷えと疲労感) や、
排尿異常の漢方(1.前立腺肥大) で解説しています。
◎長期管理薬を正しく使用する
長期管理薬として処方されるステロイド薬(吸入薬)は発作が起きないように気管支の炎症や過敏性を抑えるために必要な薬です。
(ステロイドは嫌だからと勝手に判断せずに正しく使用してください)
◎体調を整える
寛解期にかぜを引くと発作の引き金になります。かぜひきを予防するために疲食事、睡眠、適度な運動に心がけてください。
漢方医学では「咳は肺の異常だけではなく、全身(五臓六腑)の異常で発現する」と考えています。補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、六君子湯(リックンシトウ)や八味地黄丸(ハチミジオウガン)は、肺(気管支など呼吸機能)だけでなく全身の虚弱状態を整えて喘息発作を予防するための薬です。
寛解期の漢方相談では、これらを適切に選ぶために咳嗽以外の全身の症状を詳しく話してください。
(2016年7月12日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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