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病気の悩みを漢方で
慢性疲労症候群の漢方
1.慢性疲労症候群(ME/CFS)における虚労(キョロウ)
ME/CFSの疲労倦怠感は、漢方の虚労に相当します。虚労の主な病理は、
・気虚(キキョ:脾胃気虚:主に胃腸虚弱・消化吸収機能の低下病態)と、
・血虚(ケッキョ:気虚と併発した栄養や顔色の不良病態)、さらに
・腎虚(ジンキョ:加齢や慢性病による生命維持活動の機能低下病態)です。
虚労(1)を参照してください。
2.ME/CFS(倦怠感)の漢方治療の基本方針
ME/CFSの症状は、ウイルス感染後のSickness behavior(疾病行動)が関係します。慢性疲労症候群(1)を参照してください。
この病態は、漢方の少陽病(ショウヨウビョウ)に相当するので和解剤(ワカイザイ)の適応になります。病態が長引けは補益剤(ホエキザイ)の適応になります(図1)。
3.柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
柴胡桂枝湯は、和解剤の小柴胡湯(ショウサイコトウ)と虚弱者のかぜの初期に用いられる桂枝湯(ケイシトウ)と組み合わせた方剤です。桂枝湯(5味)に柴胡(サイコ)黄芩(オウゴン)半夏(ハンゲ)人参(ニンジン)を加味した補益性のある和解剤です。
本方は適応範囲が広く、微熱、頭痛、食欲不振、吐き気、腹痛、疲労倦怠感や不定愁訴にも適します。感染防御を含めて小児や高齢者にも活用されています。胃腸かぜやチックを参照してください。
4.補気剤
4.1)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、胃腸虚弱(気虚)による疲労倦怠感やだるさに用いられる第一選択薬です。かぜがこじれた時期や病中病後・術後の虚弱状態や易感染性にも活用されています。かぜ(2)を参照してください。
本方は、声に張りがない、眼に力がない状態と内臓下垂のような筋緊張低下が投薬目標になる補気昇提剤(ホキショウテイザイ)です。漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
医療用の補中益気湯製剤はME/CFSに応用されています。
補中益気湯は、慢性疲労症候群(ME/CFS)患者の、疲労・倦怠感、微熱、筋肉痛、集中力低下、思考力低下、まぶしくて眼がくらむ を改善した。
4.2)六君子湯(リックンシトウ)は、食欲不振に用いられる第一選択薬です。
本方は食欲を亢進させてME/CFSの食事療法を支えます。本方の効果は、食欲増進ホルモンのグレリンを介することが明らかにされています。
漢方薬名の意味:六君子湯や機能性ディスペプシア参照してください。
4.3)小建中湯(ショウケンチュウトウ)は、病中病後や虚弱児の疲労倦怠感、腹痛、腹部膨満感に使用されています。漢方薬名の意味:建中湯類やチックを参照してください。
本方と補中益気湯の比較は、漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
本方は、人参を含まない補気剤です。補気薬の膠飴(コウイ:麦芽糖を主成分とする水飴)を桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)に加味した補気緩解剤です。
上記3種の補気剤の使い分けの目安をまとめました。
・六君子湯は、食欲不振、胃もたれ、吐き気(むくみ、冷え、下痢傾向)。
・補中益気湯は、元気がない、倦怠感、手足や全身のだるさ、易感染性。
・小建中湯は、腹痛、腹部膨満感、便秘傾向(兎糞のようなコロコロ便)。
上記の2方剤は筋緊張低下傾向、小建中湯は筋緊張に伴う腹痛に適します。
5.補気補血剤
5.1)十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は補気補血の基本方剤です。補気剤の四君子湯(シクンシトウ)と補血剤の四物湯(シモツトウ)に補気薬の黄耆(オウギ)と散寒薬の桂皮(ケイヒ)を加えた方剤です。漢方薬名の意味:十全大補湯を参照してください。
本方は、補中益気湯と同様に疲労倦怠感に用いられます。本方は補中益気湯より栄養状態が低下し顔色不良、皮膚乾燥、やせ、冷え傾向などの虚弱が進んだ病態に適します。また、傷口の治りが遅い褥瘡(ジョクソウ)にも用いられています。
本方と十全大補湯は、コロナ後遺症(1)で比較しています。
5.2)人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)は、十全大補湯の適応で乾性咳嗽、不安、意欲低下を伴う病態に適した補気補血安神剤(アンシンザイ)です。
新型コロナウイルスの後遺症の倦怠感を軽減した報告があります。
本方は、十全大補湯から川芎(センキュウ)を除き、咳嗽を軽減する遠志(オンジ)と五味子(ゴミシ)を加味した内容です。漢方薬名の意味:人参養栄湯を参照してください。
5.3)帰脾湯(キヒトウ)は、熟地黄を含まない補気補血安神剤です。心身が疲れて血色の悪い人の不安感、意欲低下、動悸、抑うつ傾向に用いられます。入眠障碍や中途覚醒など睡眠に関連する愁訴に適します。
漢方薬名の意味:帰脾湯や不眠(3)を参照してください。
上記3種の補気補血剤の使い分けの目安をまとめました(図2)。
3方剤の配合生薬は、漢方薬名の意味:人参養栄湯も参照してください。
6.補腎剤(ホジンザイ)
補腎剤は腎虚(ジンキョ)を補う方剤です。腎虚の病態は加齢や慢性疾患による疲労倦怠感、乾燥病態など全身機能が低下とくに、運動器と泌尿生殖器系の機能低下です。漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。
6.1)八味地黄丸(ハチミジオウガン)は、腎虚の症状に加えて、腰下肢の冷え、しびれ、痛み、むくみなど腎陽虚(ジンヨウキョ)に伴う虚寒(キョカン)を温める附子(ブシ)と桂皮(ケイヒ)を含みます(図3)。疲労感(6)を参照してください。
6.2)牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は、八味地黄丸の適応に下肢のむくみ、しびれ、痛みが顕著な時に用いられます。漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。
6.3)真武湯(シンブトウ)は、腎陽虚(新陳代謝の衰え)による顕著な冷え、倦怠感、脱力感、めまい(ふらふらする身体浮遊感)下痢に用いられる附子剤です。
虚労(2)や疲労感(6)を参照してください。
6.4)清心蓮子飲(セイシンレンシイン)は、胃腸虚弱者に適した補腎剤です。八味地黄丸の適応で胃腸虚弱、不安、いらだち、不眠を伴う腎虚症状に適します。
補腎補気薬の蓮肉(レンニク)に加えて補気薬の人参、黄耆を含みます。漢方薬名の意味:清心蓮子飲を参照してください。
疲労倦怠感の食養生
慢性疲労症候群の養生は、五大栄養素を偏食しないことです。
とくにエネルギー生産系(TCAサイクル)を円滑に回す栄養素の
・ビタミンB1(豚ヒレ肉)・パントテン酸(納豆)
・α-リポ酸(トマト、ピーマン)・クエン酸(柑橘類)
・コエンザイムQ10(イワシ、ホウレンソウ)などを摂取しましょう。
食材の消化吸収を高めるのが六君子湯のような補気剤です。
(2022年12月8日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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