漢方を知る

きぐすり.com は、漢方薬、女性の健康、サプリメント、ハーブの情報を専門家がやさしく解説しています。

病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

脳梗塞と脳出血の漢方

1.脳卒中(脳梗塞と脳出血)の概要

 血管が詰まる脳梗塞(ノウコウソク)と、血管が破れる脳出血(脳溢血ノウイッケツ)をまとめて脳卒中と称します(図1)。これらは、ともに脳の血流が悪くなって脳神経細胞が機能しなかった疾患です。

 脳卒中の初期治療は、異変に早く気づいて血流を確保する現代科学の救命救急医療の領域です。また脳卒中後遺症の身体麻痺や言語障害を回復させるリハビリテーション治療が必要です。

 漢方方剤は、軽度の脳卒中後遺症の軽減やリハビリテーション治療を補完する領域で使用されます。

2.脳卒中(脳梗塞、脳出血)の後遺症の軽減に用いられる主な方剤

 脳卒中後遺症の諸症状を軽減する治療には漢方医療も有用です(図2)。

 柴胡加竜骨牡蛎湯に関しては、認知症の漢方(4)軽度認知障碍を参照してください。

3.黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)・・・のぼせ、顔面紅潮、いらだち

 黄連解毒湯は、脳卒中後の交感神経緊張状態に用いられる方剤です。のぼせ、めまい、顔面紅潮、いらだち、興奮、気分が落ち着かない、動悸、頭痛、不眠(入眠障碍)、心窩部のつかえ感を訴える人に適します。

 黄連解毒湯の配合4生薬(図3)は、高脂血症を改善し血小板凝集を抑制して血流改善に寄与しています。

 医療用の黄連解毒湯製剤は、脳梗塞後の症状を軽減するために応用されています。

 黄連解毒湯(12週間投与)は、脳梗塞 (脳血栓、脳塞栓症) 患者の頭重回転性めまいのぼせ四肢しびれ肩こりを非投与群より有意に改善。血液凝固線溶系の検査値も非投与群より改善した。

ランダム化比較試験 Geriatric Medicine. 1991; 29: 303-313.

 黄連解毒湯清熱薬(セイネツヤク)のみで構成されています。
そのため冷え症傾向で体力の余力のない高齢者に連用するのは適切ではありません。

4.釣藤散(チョウトウサン)・・・頭痛、めまい、肩こり、のぼせ

 釣藤鈎は、高血圧に伴う早朝の頭痛、のぼせ、めまい、肩こりに用いられてきました。気むずかしい傾向の中高年の人に適します。

 医療用の釣藤散製剤は、脳梗塞後遺症の症状軽減に応用されています。

 釣藤散(12週間投与)は、脳血管障碍後遺症、慢性脳循環不全、高血圧症患者の頭痛頭重めまい肩凝りうつ状態不安焦燥を対照群(血管拡張剤ジラゼプ塩酸塩)より有意に改善。血圧も対照群より有意に低下した。

ランダム化比較試験 Geriatric Medicine. 1995; 33: 1333-1341.

 本方に関しては認知症の漢方(4)軽度認知障碍を参照してください。

 釣藤散の主薬の釣藤鈎(チョウトウコウ)は頭痛や動悸、めまいに用いられる生薬です(図4)。血管拡張作用や脳神経細胞保護作用があります。
 本方は、図4の水色で囲んだ生薬を含むので、黄連解毒湯より胃腸虚弱傾向の人にも適し連用出来る内容になっています。

5.抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)・・・神経の高ぶり、怒り

 抑肝散加陳皮半夏は、神経の高ぶり、怒り、いらだちなど興奮傾向の脳卒中後遺症に適します。
 本方は、抑肝散とともに認知症に伴う怒りや暴言などの行動・心理症状(BPSD)に用いられています。
 認知症の漢方(3)アルツハイマー型認知症を参照してください。

 抑肝散加陳皮半夏は、脳血流測定のための課題遂行時の脳酸素代謝を改善することが明らかにされています。

 抑肝散加陳皮半夏(4週間投与)は、不眠や軽い精神症状が認められる者の脳血流測定課題 (標準注意検査)の総回答数が非投与群より有意に高値であり、左脳の酸素化ヘモグロビン変化量 (ΔO2Hb) が有意に高値を示した。

準ランダム化比較試験 精神科. 2013; 23: 130-138.

ちょっと一言:(トピックス)

(トピックス)術後の硬膜下血腫に五苓散(ゴレイサン)

 五苓散を未破裂脳動脈瘤クリッピング術後翌日から服用すると慢性硬膜下血腫の発症を軽減できることが報告されています。

 五苓散(術翌日から1週間内服)は、未破裂脳動脈瘤クリッピング術後の慢性硬膜下血腫発生率を対照群(術1週間後から1週間内服)より有意に低下。

ランダム化比較試験 脳神経外科と漢方. 2019; 5: 63-5.

 五苓散には脳細胞内への水の流入を抑制する作用のあることが明らかにされつつあり、脳卒中治療を補完する領域での応用が期待されます。

(2019年7月29日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
谿 忠人先生のプロフィール
谿 忠人先生

漢方医療とは

症状と漢方薬

(あ行)
RSウイルス
足腰の衰え(虚弱)
足のむくみ
アトピー性皮膚炎
アルコール性肝炎
アルツハイマー型認知症
アレルギー性鼻炎
胃食道逆流症
胃腸かぜ
胃腸虚弱
胃腸虚弱(高齢者)
胃腸虚弱(フレイル)
胃痛
胃もたれ
意欲の低下
意欲低下(虚弱)
イライラ
イライラ(産後)
インポテンツ
ウイルス肝炎
うつ感
運動器症候群
円形脱毛症
おしっこの悩み(前立腺肥大)
(か行)
顔色不良(虚弱)
過活動膀胱
過換気症候群(過呼吸)
霍乱
かぜ(風邪)
肩・首筋のこり
過敏性腸症候群
下部尿路症状
花粉症
がん
かんしゃく
関節痛(冷え症)
関節リウマチ
感染性胃腸炎
乾燥肌
肝臓病
気うつ
気うつ(産後)
気管支炎
機能性ディスペプシア
虚労
起立性調節障碍
緊張型頭痛
筋肉減少症
軽度認知障碍
月経周期の乱れ
月経痛(冷え症)
月経痛(冷えのぼせ症)
月経不順(周期の長短)
月経不順(血の道症)
月経前症候群(PMS)
げっぷ
下痢
下痢(ゲンノショウコ)
高血圧
高血圧傾向(虚弱)
高血糖
好酸球性副鼻腔炎
口内炎
後鼻漏
高齢者
五十肩
呼吸困難(COPD)
こじれた咳(感冒)
骨粗鬆症
子どもがほしい
こむら返り
コロナ後遺症
(さ行)
サルコペニア
産後の回復不全
残尿感(前立腺肥大)
CFS(慢性疲労症候群)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
湿疹
脂肪肝
しもやけ
しゃっくり
主婦湿疹
暑気あたり
女性不妊
自律神経失調症
脂漏性湿疹
尋常性乾癬
尋常性ざ瘡
頭重感
頭痛
頭痛(しめつける痛み)
頭痛(低気圧)
頭痛(婦人更年期障碍)
ストレス胃
生理痛(冷え症)
生理痛(冷えのぼせ症)
生理不順(血の道症)
精力低下(男性)
せき(咳)
咳(こじれた感冒)
脊柱管狭窄症
喘息
喘息(発作)
喘息(寛解)
前立腺肥大
GERD
(た行)
たん(痰)
男性更年期障碍
男性不妊
蓄膿症
血の道症
チック
痛風
手足口病
手足のしびれ(糖尿病)
低気圧頭痛
天気痛
動悸
凍瘡
糖尿病
(な行)
内臓脂肪症候群(糖尿病)
ながびく咳(感冒)
夏かぜ
NASH
夏バテ
夏やせ
2型糖尿病
にきび
尿意切迫
尿失禁
尿路結石
尿路不定愁訴
妊娠力をつけたい
認知症
脳血管性認知症
熱中症
脳梗塞と脳出血
のぼせ感
ノロウイルス下痢
(は行)
肺気腫(COPD)
排尿異常
鼻アレルギー
鼻かぜ
鼻づまり
鼻水
非アルコール性肝炎
冷え症
冷えのぼせ症
鼻炎
皮膚炎
皮膚瘙痒症
肥満
肥満(糖尿病)
疲労感
頻尿
PMS(月経前症候群)
不安定膀胱
プール熱
腹痛
副鼻腔炎
婦人更年期障碍
不眠
不眠(産後)
フレイル(虚弱)
ヘルパンギーナ
変形性膝関節症
片頭痛
便通異常
便秘
膀胱結石
(ま行)
マタニティー・ブルー
慢性胃炎
慢性気管支炎(COPD)
慢性の咳(COPD)
慢性疲労症候群(CFS)
慢性閉塞性肺疾患
むくみ(足のむくみ)
無月経
胸やけ
メタボ肥満
メタボリック・シンドローム(糖尿病)
めまい
めまい(婦人更年期障碍)
(や行)
夜間頻尿
やせと栄養失調
腰痛
抑うつ感
抑うつ感(虚弱)
夜泣き
(ら行)
冷房下痢
老年症候群
ロコモ

漢方薬名を選ぶ!

TOP