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病気の悩みを漢方で

コロナ後遺症の漢方
1.コロナ後遺症とSickness behavior
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の主な症状には、
・発熱悪寒、頭痛、咳嗽、節々の痛みなどインフルエンザと同様の初期症状と、
・亜急性期以降の後遺症(倦怠感、だるさ、味覚や嗅覚の障碍)があります。
COVID-19の初期治療は主に医療機関の発熱外来で、感染拡大と重症化に注意しながら慎重に行われます。薬局漢方では、検査陰性後の亜急性期以降の症状軽減が主な領域になります。
コロナ後遺症の発症原因の一つとして、ウイルス感染後のSickness behavior(意欲・行動変化)が関係すると考えられています。
Sickness behaviorは、1)ウイルス感染を修復するために産生されたサイトカインが、2)ウイルス消滅後も過剰に反応して倦怠感や意欲低下などの行動変化を引き起こす病態です。この病態がコロナ後遺症に含まれます(図1)。

Sickness behaviorは、ウイルス感染がきっかけになる慢性疲労症候群の原因でもあります。慢性疲労症候群(1)を参照してください。
なおサイトカインは体内で分泌される免疫反応を担う生理活性物質です。このサイトカインを利用しているインターフェロン製剤による副作用(抑うつ、意欲低下、全身倦怠感、不眠など)は、この Sickness behaviorに類似しています。
2.コロナ後遺症(≒ Sickness behavior)に用いられる和解剤
Sickness behavior は、漢方の外感病(ガイカンビョウ)の少陽病(ショウヨウビョウ)の諸症状に相当します。外感病は、かぜ(感冒)のように体外から外邪(発病誘因)が侵襲して引き起こされる感染症に相当します。その亜急性期が少陽病です。
少陽病の炎症と食欲不振、吐き気、倦怠感などは、小柴胡湯(ショウサイコトウ)などの和解剤(ワカイザイ)の適応になります。
病状が長引き、倦怠感、だるさが顕著になれば、補益(ホエキ)の薬能を持つ和解剤の補中益気湯(ホチュウエッキトウ)が適します。かぜ(2)を参照してください。
コロナ後遺症(倦怠感)に用いられ和解剤と補益剤を図2に示します。

日本では、コロナ後遺症に対する漢方製剤療法は報告されつつありますが、多施設での症例集積研究はこれからです。
今回はコロナ後遺症の倦怠感やだるさに用いられている方剤を解説します。
3.小柴胡湯関連の和解剤
3.1)柴葛解肌湯(サイカツゲキトウ)は、急性期から亜急性期の悪寒と発熱、頭痛、口渴、食欲不振、吐き気、倦怠感に適します。エキス剤では葛根湯(カッコントウ)と小柴胡湯加桔梗石膏を併用します。
3.2)柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)は、和解剤の小柴胡湯と体力低下者のかぜに用いられる桂枝湯(ケイシトウ)の合剤です。本方は、微熱、頭痛、食欲不振や吐き気など消化器症状を伴う亜急性期のかぜに適します。胃腸かぜを参照してください。
さらに本方は、Sickness behaviorに類する抑うつ、いらだち、不安、倦怠感にも適します。人参(ニンジン)や桂枝湯の補気に加えて、柴胡(サイコ)と芍薬(シャクヤク)の組み合わせによる理気(リキ)の効能を有します。漢方薬名の意味:四逆散を参照してください。
3.3)竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)は、微熱、湿性咳嗽を伴う夜間咳嗽、抑うつ傾向に用いられます。かぜ(3)を参照してください。
本方は、小柴胡湯(7味)の柴胡を含む5生薬と、理気化痰剤(リキケタンザイ)の二陳湯(ニチントウ)を含みます。
竹筎温胆湯は、インフルエンザ感染後の怯え、不眠、不穏、興奮、せん妄などのSickness behavior症状を軽減した報告があります。
4.補益剤

4.1)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、感染症後の疲労倦怠感、だるさ、虚弱状態に用いられる第一選択薬です。
本方は補気を強化した虚証用の和解剤です。
本方は、言葉が弱々しく、目に力のない状態が目標です(図3)。漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
頭痛や微熱など感染症状が残っている時には桂枝湯や香蘇散(コウソサン)を併用します。
4.2)十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は、補中益気湯と並ぶ重要な補益剤です。
本方は補気剤の四君子湯(シクンシトウ)と補血剤の四物湯(シモツトウ)に補気薬の黄耆(オウギ)と散寒薬の桂皮(ケイヒ)を加えた補気補血剤です。
漢方薬名の意味:十全大補湯や虚労(1)を参照してください。参照してください。
医療用の両方剤には「病後の体力増強」という適応があり、コロナ後遺症の虚弱状態の軽減に適します。
補中益気湯と十全大補湯の使い分けを図4にまとめました。十全大補湯の方が虚弱の程度が進み、顔色不良、皮膚乾燥傾向、冷え症傾向に適します。

十全大補湯の関連方剤で心神不安に(シンシンフアン)による抑うつ、不安など精神神経症状に適する安神剤(アンシンザイ)は、別の機会に解説します。
5.補腎剤(ホジンザイ)
顕著な冷えを伴う倦怠感には補腎剤の適応になります。
5.1)真武湯(シンブトウ)は、顕著な冷え、めまい、身体動揺感、動悸を伴う倦怠感、重だるさに用いられます。疲労(6)を参照してください。
本方は温腎散寒薬(オンジンサンカンヤク)の附子を含む補腎剤です。
5.2)八味地黄丸(ハチミジオウガン)と牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は、加齢や長患いによる足腰の衰え・冷え、腰痛、排尿異常を伴う倦怠感に用いられます。フレイル(4)を参照してください。
5.3)清心蓮子飲(セイシンレンシイン)は八味地黄丸に類似する排尿異常、冷え、倦怠感を伴う胃腸虚弱者に適した人参と黄耆を含む参耆剤(ジンギザイ)です。漢方薬名の意味:清心蓮子飲を参照してください。

新型コロナウイルス感染症に罹ったら
かかりつけ医で「発熱外来」に対応してもらえるかどうか、確認しておきましょう。
新型コロナウイルス感染症の後遺症に関しては、地域の保健所に相談窓口があります。近くの保健所や厚生労働省のホームページで検索してください。
後遺症の受診可能医療機関の紹介も受けられます。
コロナ感染症に対する医療対応は見直しを重ねながら進められています。保健所のホームページや新聞の医療欄で最新の状況を確認してください。
(2022年11月24日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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