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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)

1.麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)の名前

 麻杏甘石湯の名は、配合4生薬の麻黄(マオウ)杏仁(キョウニン)甘草(カンゾウ)石膏(セッコウ)を示しています(図1)。

 麻黄は、ゼーゼーと喘ぐ呼吸困難呼吸促迫肺気の閉塞による ゼン)を軽減する宣肺平喘(センパイヘイゼン)薬です。
 杏仁は、肺気上逆による咳嗽を軽減する止咳平喘(シガイヘイゼン)薬です。
 甘草は、麻黄杏仁止咳平喘を支える補気止咳薬です。
 石膏は、麻黄杏仁止咳平喘を支え、熱感口渴を軽減する清熱薬です。
 このことから方剤名は、本方が熱証呼吸困難咳嗽に適することを示唆しています。

2.麻杏甘石湯の適応

 は、
かぜ日東医誌., 2000; 50: 655-663)
インフルエンザ日東医誌., 2013; 64: 289-302)
新型コロナウイルス感染症漢方の臨床, 2020; 67: 993-998)で使用されています。

 本方は、かつては気管支喘息の発作に単独で用いられていました(日東医誌., 1964; 15: 147-148)。現在では、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬と併用して発作後の咳嗽に用いられています(『呼吸器疾患漢方治療の手引き』, 2005; 64-65)。

・小児マイコプラズマ肺炎治療において抗菌薬単独群より咳嗽消失日数を短縮(抗菌薬と併用)。

日東医誌., 1994; 44: 535-540


春季アレルギー性鼻炎花粉症)症状を軽減(桂枝湯と併用:大青竜湯の代用)。

Ther. Res., 1998; 19: 3299-3307


 麻杏甘石湯桂枝湯の併用は、3.4)項目も参照してください。

3.麻杏甘石湯の関連方剤

 麻杏甘石湯の関連方剤と、その使い分けの目安を図2に示しました。

 かぜ(4)も参照してください。

(ゴコトウ)は、麻杏甘石湯清熱性桑白皮(ソウハクヒ:瀉肺平喘)を加味した方剤です(図3)。麻杏甘石湯より熱証でやや粘性のある喀痰を伴う咳嗽の強い病態に適します。
 最近では、本方は小青竜湯と併用して花粉症に用いられています(虎龍湯日東医誌., 2009; 60: 611-616)。
 鼻水と鼻づまり漢方薬名の意味:小青竜湯を参照してください。

(マオウトウ)は、麻杏甘石湯石膏の代わりに桂皮(ケイヒ)を含む関連方剤です(図3)。桂皮石膏が両方剤を区別する指標生薬です。
 桂皮麻黄との組み合わせは、かぜやインフルエンザの急性期症状(太陽病 タイヨウビョウ)に用いられる基本的な薬対です。かぜ(1)を参照してください。
 麻黄湯は、かぜ急性期の悪寒発熱頭痛無汗節々の痛みを伴う(呼吸困難)に適します。本方は、麻杏甘石湯より薄い喀痰を伴う咳嗽に適します。

 本方は、抗インフルエンザ薬と併用されています(治療学, 2006: 40(4): 37-40)。漢方薬名の意味:麻黄湯を参照してください。

(ショウセイリュウトウ)は、桂皮麻黄を含み、半夏(ハンゲ)細辛(サイシン)乾姜(カンキョウ)で水様性無色泡沫喀痰寒痰 カンタン)を除く方剤です。漢方薬名の意味:小青竜湯を参照してください。
 本方は、麻杏甘石湯より水様性喀痰を伴う湿性咳嗽や、水様性無色鼻水を伴う花粉症鼻アレルギーに頻用されます。鼻水と鼻づまりを参照してください。

(ダイセイリュウトウ:7味)は、熱が高く口渴があり、重だるく、座っておれないほどのつらい症状のある病態に適します。
 本方は、桂枝去芍薬湯(ケイシキョシャクヤクトウ)の4生薬に麻黄杏仁石膏を加味した方剤です(図4)。
 エキス製剤では麻杏甘石湯桂枝湯を併用して代用する場合もあります(日東医誌., 2010; 61: 59-62)。漢方薬名の意味:麻黄湯を参照してください。

(シンピトウ)は、麻杏甘石湯より喀痰が少ない乾性咳嗽傾向の呼吸困難咳嗽に適します。不安抑うつ感を伴う太陽病少陽病かぜ症候群の咳嗽に用いられています(医学と薬学, 2013; 70: 813-816)。かぜ(4)を参照してください。
 本方は、理気薬(リキヤク)の厚朴(コウボク)柴胡(サイコ)を含み、麻杏甘石湯麻黄湯柴朴湯(サイボクトウ)の方意を加味した方剤です(図5)。

ちょっと一言:(トピックス)

麻杏甘石湯の口訣(抜粋)

・本方は、麻黄湯と違ってかぜの初期(表証)からの一定の治療経過後に投与する処方。小青竜湯は、薄い水のような喀痰を出すので、本方と異なる。小青竜湯と合方すると小青竜湯加石膏杏仁となって幅広く使える(三谷和合)。

肺熱を冷まし、肺気の流れをスムーズにして呼吸困難、やや粘性の痰の絡む咳嗽口渴発汗を治める(三浦於菟)。

咳き込み汗をかく口渴を伴う強い咳に用いる。頓服として使用してもよい。慢性状態では小柴胡湯と併用する(巽浩一郎)。

2024年10月22日 公開


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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