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病気の悩みを漢方で

黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
1.黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)名の意味
黄連解毒湯の名は、黄連(オウレン)が主薬であり、解毒は、熱毒症状を冷やして鎮める薬能を意味しています。
黄連は、心熱(シンネツ:心火上炎 シンカジョウエン)症状(のぼせ、いらだち、焦り)を冷ます清心瀉火(セイシンシャカ)解毒薬です。
心熱は、熱性疾患、脂肪や辛味の過食、ストレスなどで発現します。心熱は、心(シン)に宿る神(シン)の機能を不安定にして心神不安(シンシンフアン)症状(不安、動悸、不眠)を誘発します(図1)。心神不安は、疲労感(1)を参照してください。

この心(シン)は、漢方医学の五臓(肝・心・脾・肺・腎)の心(シン)です。
神(シン)は、意識と思考、睡眠、精神活動を担います。現代用語の失神(シッシン:意識消失)で用いられている神(シン)に相当します。
黄連解毒湯は、黄連を含めて4種の清熱薬を含みます(図2)。

黄連と黄芩(オウゴン)の組み合わせは、瀉心湯類(シャシントウルイ:芩連剤 ゴンレンザイ)の骨格です 。瀉心は、心熱・心火上炎や、心窩部薬の痞え感(心下痞)を瀉する(移動する、少なくする)薬能です。
山梔子(サンシシ:清熱瀉火除煩)も心熱・心火上炎の抑制に寄与しています。
配合4生薬は心熱を冷やし鎮めて心神不安症状を軽減する作用もあります。
以上から本方の名は、本方が、熱毒症状(のぼせ、顔面紅潮、いらだち、焦り、もやもや感、興奮、頭痛、冷水を好む口渴)を冷やして鎮める清熱性の方剤であることを示唆しています。
2.黄連解毒湯の適応
2.1)熱証:高血圧、脳卒中後遺症、婦人更年期に随伴する熱性の症状:のぼせ、顔面紅潮、いらだち、焦り、めまい、動悸、不眠。
本方は、赤字で表記した清熱薬だけで構成された方剤なので、熱証を確認して使用することが大切です。
のぼせ、顔面紅潮、頭痛、高血圧に対する黄連解毒湯の応用例
・脳梗塞患者ののぼせ、頭痛、肩こり、四肢の冷感やしびれを非投与群より有意に改善。ランダム化比較試験。
Geriatric Medicine, 1991; 29: 303-313
・高血圧症患者の顔面紅潮、のぼせをプラセボ群より有意に軽減。興奮、精神不安、不眠も軽減。ランダム化比較試験。
臨床と研究, 2003; 80: 354-372
・赤ら顔の脳出血後遺症の不機嫌、易怒性を軽減。降圧剤を減薬。
脳神経外科と漢方, 2015; 1: 1–6.
・婦人更年期障のホットフラッシュ、中途覚醒、不眠を軽減。
日漢方の臨床, 2015; 62: 2057-2060
黄連解毒湯の脳血管障碍性認知症の興奮傾向の行動・心理症状(BPSD)への応用は、認知症(5)を参照してください。
2.2)炎症性皮膚疾患に対する黄連解毒湯の応用例
・アトピー性皮膚炎の顔面の紅斑を軽減(桔梗石膏と併用)。
西日本皮膚科, 1993; 55: 323-326
・酒皶を軽減(大柴胡湯と併用)。
日東医誌., 2011; 62: 38-44
・高齢者湿疹性紅皮症の掻痒と全身のほてり、いらだち、不安、不眠を軽減
(皮疹にはステロイド薬治療)。
日病総合診療医会誌., 2025; 21: 53-58
皮膚科領域には4項目に示した黄連解毒湯の関連方剤が活用されています。
2.3)出血傾向に対する黄連解毒湯の応用例
・51歳女性の継続する鼻血を止血。
漢方の臨床, 2015; 62: 2057-2060
・内視鏡止血術で止血困難な消化管出血を止血。
日東医誌., 2017; 68:47-55
2.4)消化器症状(心窩部の痞え)に対する黄連解毒湯の報告例
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)抵抗性の胃食道逆流症(GERD)を改善。PPIも
中止(一時半夏瀉心湯と併用)。
日東医誌., 2017; 68: 222-226
(基礎研究)エタノールおよびアスピリンで誘発した胃粘膜障碍を有意に軽減。
日薬理誌., 1988; 91: 319-324
3.熱証の不定愁訴に用いられる黄連解毒湯の関連方剤
3.1)三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)は、黄連解毒湯の熱性症状に便秘を伴う病態に適します。黄芩、黄連と瀉下薬の大黄(ダイオウ)を含む瀉心湯類です(図3)。
漢方薬名の意味:三黄瀉心湯を参照してください。

3.2)女神散(ニョシンサン)は、心火上炎を冷ます黄連-黄芩と、気逆を鎮める桂皮-甘草(降衝鎮悸)と、理気薬の香附子(コウブシ)を含む清熱安神、理気、補気補血剤です。漢方薬名の意味:女神散や動悸(2)を参照してください。
本方は、のぼせとめまい(心火上炎、気逆)と、抑うつ、胸苦しさ(気滞 キタイ)や月経不順などの不定愁訴に適します。
4.皮膚疾患に用いられる黄連解毒湯の関連方剤
4.1)温清飲(ウンセイイン)は、黄連解毒湯と四物湯(シモツトウ)の合剤です。乾燥病態を伴う熱証に用いられます(皮膚, 1984; 26: 1166-1173)。漢方薬名の意味:温清飲を参照してください。
4.2)一貫堂方(荊芥連翹湯 ケイガイレンギョウトウ、柴胡清肝湯 サイコセイカントウ)は、温清飲の加味方です。炎症を繰り返す皮膚科や耳鼻科疾患に用いられています。湿疹・皮膚炎(4)やアトピー性皮膚炎(6)や漢方薬名の意味:柴胡清肝湯を参照してください。
荊芥連翹湯は、炎症性の耳鼻咽喉科疾患にも用いられています。副鼻腔炎(2)を参照してください。
4.3)清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)は、顔面の熱感を伴う発赤したにきび(尋常性痤瘡)に用いられています(皮膚., 1985; 27: 328-332)。にきびを参照してください。
本方は、黄連解毒湯の3生薬と、連翹(レンギョウ:清熱消瘡)と解表薬を含む清熱解表剤です(図4)。祛風解表排膿薬を含むことが黄連解毒湯との相違点です。漢方薬名の意味:清上防風湯を参照してください。

5.消化器症状に用いられる黄連解毒湯の関連方剤
半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)は、心熱を冷やし心窩部の痞えを除く黄芩、黄連と、脾胃(ヒイ:消化器)を調える人参、半夏と、冷えを温める乾姜(カンキョウ)を含む瀉心湯類です(図5)。

本方は、黄連解毒湯より熱症状の軽微な消化器症状(吐き気、食欲不振、心窩部の痞え、下痢)に用いられます。胃食道逆流症(2)や過敏性腸症候群(2)を参照してください。

黄連解毒湯の口訣(抜粋)
・煩悶、不眠、身熱が目標です。高血圧傾向のいらだち、不安や、皮膚のかゆみにも適します(三谷和合)。
・顔面紅潮、上半身の熱感、興奮、気分が落ち着かない、不眠、心窩部のモヤモヤ感が運用の勘所(檜山幸孝)。
・熱感、顔面紅潮、のぼせ、いらだち、眼の充血、皮膚赤色腫脹、熱毒がこころの安定を乱した心神不安による不眠、不安にも用いられる(三浦於菟)。
2025年12月1日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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