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病気の悩みを漢方で

葛根湯加川芎辛夷(カッコントウ カ センキュウシンイ)
1.葛根湯加川芎辛夷(カッコントウ カ センキュウシンイ)名の意味
葛根湯加川芎辛夷の名は、葛根湯(図1下段の7生薬)に川芎(センキュウ)と辛夷(シンイ)を加味した方剤であることを示しています。

葛根湯は、かぜ初期の悪寒、発熱、頭痛に、首筋・背中・肩のこりが加わった病態に用いられます。漢方薬名の意味:葛根湯を参照してください。
川芎(図2)は、風邪(フウジャ)を発散させて痛みを軽減する祛風止痛薬(キョフウシツウヤク)であり、気血(キケツ)を巡らせて頭痛を軽減する理気活血薬(リキカッケツヤク)でもあります。頭痛を軽減する重要な生薬の一つです。
辛夷は、粘稠性鼻汁を伴う鼻閉と頭痛を軽減する通鼻薬(ツウビヤク)です。祛風薬でもあります。鼻閉を軽減する重要な生薬の一つです。

以上から葛根湯加川芎辛夷の名は、本方の適応が、葛根湯の適応病態に伴う頭重や粘稠傾向の鼻汁、鼻閉に用いられることを示唆しています。
2.葛根湯加川芎辛夷の適応
葛根湯加川芎辛夷は、かぜなどの急性上気道感染後に粘稠鼻汁を伴う鼻炎、鼻閉に用いられます。鼻水・鼻づまりを参照してください。
首筋のこり、頭痛、頭重感を伴う病態に適します。
葛根湯加川芎辛夷は、急性期から亜急性期の鼻炎や副鼻腔炎の第一選択薬です(図3)。副鼻腔炎の標準的な鼻処理やネブライザー治療および抗菌薬と併用されます。

鼻閉、後鼻漏に用いられた葛根湯加川芎辛夷の報告例
・感冒後の鼻閉塞を服用後70分で改善。
日東医誌., 1995; 46: 83-89
・慢性副鼻腔炎の嗅覚障碍、鼻汁、頭痛、項背部のこわばりを軽減(桂枝茯苓丸と併用)。
カレントテラピー, 1992; 10: 1270-1273
・急性副鼻腔炎で抗菌薬と併用すれば、抗菌薬の単独投与より早期に改善。
日鼻誌., 2008; 47: 88-90
・急性期副鼻腔炎の頭重感、肩こりを軽減。
日耳鼻., 2013; 116: 1093-1099
・抜歯後の感染から波及した副鼻腔炎の膿性鼻漏を軽減(桔梗石膏と併用)。
日鼻誌., 2022; 61: 105-109
葛根湯加川芎辛夷は、小柴胡湯(ショウサイコトウ)、小柴胡湯加桔梗石膏、荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)と併用されています(耳鼻臨床,1996; 補89: 21-24)。
本方は、副鼻腔気管支症候群の咳嗽にも用いられています。
・副鼻腔気管支症候群の慢性副鼻腔炎と下気道症状を軽減(抗菌薬と併用)。
呼吸, 1998; 17: 919-926
副鼻腔気管支症候群は、慢性副鼻腔炎症状(粘稠鼻汁、鼻閉)と後鼻漏による下気道炎症症状(喀痰を伴う湿性咳嗽)を合併した病態です。
3.葛根湯加川芎辛夷の関連方剤
3.1)辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)は、清熱薬の黄芩(オウゴン)や知母(チモ)石膏、咳嗽を軽減する麦門冬(バクモンドウ)や枇杷葉(ビワヨウ)などが主体です。漢方薬名の意味:辛夷清肺湯を参照してください。
本方は、頭痛や鼻根部や咽頭の痛み、鼻周辺に熱感など葛根湯加川芎辛夷より熱性の亜急性期以降の病態に適します。副鼻腔炎(2)や花粉症(2)を参照してください。
鼻閉、後鼻漏に用いられた辛夷清肺湯の報告例
・慢性副鼻腔炎の鼻閉、鼻漏を蛋白分解酵素製剤より有意に改善。
ランダム化比較試験。
耳展, 1984; 27補3: 301-310
・マクロライド療法効果不十分な慢性副鼻腔炎の症状を軽減。
新薬と臨床, 2016; 65: 1052-1063
・好酸球性副鼻腔炎の副鼻腔粘膜浮腫を軽減(ロイコトリエン阻害薬と併用)。
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌, 2024; 4: 61-66
・副鼻腔気管支症候群の後鼻漏、湿性咳嗽を軽減。
医療, 1996; 50: 97-101
3.2)荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ:17味の一貫堂方)は、
・主薬の荊芥(ケイガイ:解表祛風)と連翹(レンギョウ:清熱消瘡)の他に、
・亜急性期の和解剤(ワカイザイ)の四逆散(シギャクサン:柴胡、芍薬、枳実、甘草)と
・慢性の炎症病態を軽減する温清飲(ウンセイイン:四物湯+黄連解毒湯)および、
・排膿散(ハイノウサン:芍薬、枳実、桔梗)の方意も含みます。
本方は、副鼻腔炎だけでなく中耳炎、にきび、皮膚炎などの慢性化膿性疾患で使用されています(耳喉頭頸., 2015; 87: 1094-1100)。
本方は、葛根湯加川芎辛夷より亜急性期以降の慢性炎症を繰り返す熱性の病態に適します。副鼻腔炎(2)やにきびを参照してください。
耳鼻科、皮膚科領域での荊芥連翹湯の報告例
・慢性副鼻腔炎の鼻漏、鼻閉を軽減。
耳鼻臨床, 1993; 86: 1499-1508
・副鼻腔炎の急性増悪期にロキシスロマイシンと併用して治療期間を短縮。
CT上の病的所見を消失。
耳展.,1995; 38補3: 202-208
・副鼻腔炎と中耳炎の併発病態には荊芥連翹湯や辛夷清肺湯が適する。
耳鼻臨床, 2006; 99: 2006; 99: 978-979
・副鼻腔気管支症候群の鼻汁、くしゃみ、頭痛を伴う湿性咳嗽を軽減。
漢方の臨床, 2024; 71: 651-661
・皮膚暗赤色でストレスで悪化する痤瘡を軽減。
日東医誌., 2016; 67: 123-130
葛根湯加川芎辛夷と辛夷清肺湯と荊芥連翹湯を比較しました(図4)。
葛根湯加川芎辛夷は、急性期から亜急性期、辛夷清肺湯と荊芥連翹湯は、亜急性期から慢性期の熱証傾向の鼻炎、副鼻腔炎に用いられます。

図4の3方剤は、耳喉頭頸, 2015; 87: 1094-1100にまとめられています。

葛根湯加川芎辛夷の口訣(抜粋)
・鼻炎、副鼻腔炎の粘稠鼻汁、鼻づまり、頭痛に用いる。葛根湯よりやや慢性期に良い。膿性鼻汁には葛根湯加桔梗石膏が適する(三谷和合)。
・解表と鼻閉を軽減する通鼻の処方。鼻炎、副鼻腔炎だけでなく中耳炎、扁桃炎など首から上の炎症症状に適する(髙山宏世)。
・粘稠鼻汁を伴う急性副鼻腔炎に標準的耳鼻科治療(ネブライザー治療、抗菌薬)と併用する。顕著な膿性鼻漏には辛夷清肺湯が適する(稲葉博司)。
2025年10月28日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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