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病気の悩みを漢方で

鼻副鼻腔炎(蓄膿症)の漢方
1.亜急性期以降の慢性鼻副鼻腔炎に用いられる漢方方剤
日本鼻科学会が公表した「鼻副鼻腔炎診療の手引き」には、慢性鼻副鼻腔炎に用いられる漢方方剤として、葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)の3方剤が例示されています(日鼻誌., 2024: 63: 1-85)。
これらは鼻副鼻腔炎の病期に対応して使い分けられます(図1)。

今回は、亜急性期以降の慢性鼻副鼻腔炎に用いられる辛夷清肺湯と荊芥連翹湯を中心にして考えます。
葛根湯加川芎辛夷と十味敗毒湯は、鼻副鼻腔炎(1)を参照してください。
2.辛夷清肺湯
2.1)辛夷清肺湯の辛夷(シンイ)は、鼻汁、鼻閉を軽減する祛風寒(キョフウカン)通鼻竅薬(ツウビキョウヤク)です。清肺は、肺熱症状(粘稠性鼻汁・喀痰を伴う鼻閉や咳嗽)を冷ます薬能です。漢方薬名の意味:辛夷清肺湯を参照してください。
辛夷清肺湯は、辛夷以外は、赤字で表記する黄芩(オウゴン)山梔子(サンシシ)知母(チモ)石膏(セッコウ)などが主体の清熱解毒・通鼻剤です(図2)。

辛夷清肺湯は、粘稠性鼻汁、鼻閉、後鼻漏を伴う亜急性期以降の慢性鼻炎、鼻副鼻腔炎、鼻茸(ハナタケ)に用いられます。頭痛や湿性咳嗽を伴うこともあります。鼻の周りに熱感のある病態に適します。後鼻漏も参照してください。
辛夷清肺湯の鼻副鼻腔炎への応用研究例
・慢性鼻副鼻腔炎の自覚症状(鼻閉、鼻漏、後鼻漏、頭痛・頭重)と他覚的所見(粘膜の発赤・腫脹、鼻汁)を軽減。改善率は消炎酵素剤と同等。
ランダム化比較試験。
耳展., 1984; 27(3): 301-310
・小児鼻副鼻腔炎の鼻漏と鼻閉の改善率70%。
耳鼻臨床, 1997; 補92: 47-50
・臨床薬理: 鼻副鼻腔炎患者の鼻粘膜粘液繊毛輸送能を改善。
耳鼻臨床, 1992; 85: 1333-1340
・好中球の活性酸素生産能を抑制。
耳鼻臨床, 1992; 85: 1975-1980
・副鼻腔気管支症候群の後鼻漏、湿性咳嗽を軽減。
医療, 1996; 50: 97-101
副鼻腔気管支症候群は、慢性鼻副鼻腔炎症状の後鼻漏、鼻閉と、下気道炎症の喀痰を伴う湿性咳嗽を合併した病態です(日本内科学会誌, 2020; 109; 2132-2136) 。
2.2)辛夷清肺湯と他剤との併用剤
辛夷清肺湯は、鼻症状の対症療法(標治 ヒョウチ)では、葛根湯加川芎辛夷や越婢加朮湯、小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコウトウカキキョウセッコウ)、化膿性炎症が顕著な場合には黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)と併用されます(図3)。
本方は、さらに、鼻副鼻腔炎の全身病態の調整療法(本治 ホンチ)では、各種の補益剤と併用されます(MB ENT, 2015; No.185: 37-46)。
標治と本治は、アトピー性皮膚炎(5)を参照してください。

3.荊芥連翹湯
荊芥連翹湯は、温清飲(ウンセイイン:四物湯+黄連解毒湯:補血清熱)と四逆散(シギャクサン:疎肝理気)と排膿薬の桔梗と祛風薬を含みます。図2は、本方が、慢性期の全身病態に適した標治と本治を兼ねた方剤であることを示しています。
漢方薬名の意味:荊芥連翹湯を参照してください。
荊芥連翹湯の鼻副鼻腔炎への応用例
・慢性鼻副鼻腔炎の自覚症状(後鼻漏、鼻漏、鼻閉)、他覚所見(後鼻漏、鼻汁量)のやや有効以上の改善率は73.7%(28/38)。
耳鼻臨床., 1993; 86: 1499-1508
・慢性鼻副鼻腔炎の後鼻漏、膿性鼻汁、鼻根部痛を軽減。小柴胡湯と併用(一部は薏苡仁を加味)。
耳鼻臨床., 1996; 補89: 21-24
・本方と標準治療(抗菌薬マクロライド)の併用群は、慢性鼻副鼻腔炎術後の細菌増殖を抗菌薬単独投与群より抑制。
Trad. Kampo Med., 2023; 10: 253-258
荊芥連翹湯の鼻副鼻腔炎治療で併用される方剤は、図3の辛夷清肺湯と併用される方剤と同様です。
4.辛夷清肺湯と荊芥連翹湯の比較
図2から両方剤の適応の相違が読み取れます。
・辛夷清肺湯は、鼻副鼻腔炎に伴う鼻閉などの鼻症状と咳嗽の軽減に特化した生薬構成になっている。
・荊芥連翹湯は、鼻副鼻腔炎以外ににきびなどの慢性的に繰り返す化膿性病変に対応し、さらに慢性化に伴ういらだち(気滞)や乾燥病態(血虚、津液不足)を整えます。標治と本治を兼ねた方剤である。
この2方剤と葛根湯加川芎辛夷は、漢方薬名の意味:葛根湯加川芎辛夷で比較しています。
5.鼻副鼻腔炎に用いられるその他の方剤
・四逆散: 慢性鼻副鼻腔炎の自覚症状(鼻漏、後鼻漏、鼻閉、頭重)、他覚所見(鼻粘膜発赤、鼻粘膜浮腫、鼻汁性状)の総合的な軽度改善以上は、59.3%。(辛夷清肺湯:55.3%と有意差なし)。
耳鼻臨床., 1992; 85: 1341-1346
・半夏白朮天麻湯: 胃腸虚弱で朝の調子が悪い慢性鼻副鼻腔炎の前額部の痛みを軽減。
漢方の臨床, 2012; 59: 913-918
・六味丸と補中益気湯の併用: 西洋薬に抵抗性の慢性鼻副鼻腔炎の鼻閉感を軽減。
中医臨床, 2017; 38: 77
6.好酸球性鼻副鼻腔炎に用いられる主な漢方方剤
慢性鼻副鼻腔炎の病態には、
1) 好中球が増多しマクロライド系抗菌薬の適応となる化膿性鼻副鼻腔炎と、
2) 好酸球が増多しアレルギー性炎症抑制薬の適応となる好酸球性鼻副鼻腔炎があります(日鼻誌., 2024; 63: 1-85)。
漢方製剤の好酸球性鼻副鼻腔炎への応用例
・辛夷清肺湯: 好酸球性鼻副鼻腔炎の副鼻腔粘膜浮腫を軽減(ロイコトリエン阻害薬と併用)。
日耳鼻免疫アレルギー感染症会誌., 2024; 4: 61-66
・平胃散と桂枝茯苓丸の併用: 好酸球性鼻副鼻腔炎の症状軽減。
Trad. Kampo Med., 2021; 8: 115-118
好酸球性鼻副鼻腔炎は、多発性の鼻茸(ポリ-プ)ができます。
辛夷清肺湯(耳鼻臨床., 1994; 87: 561-568)と越婢加朮湯(日東医誌., 2025; 76: 179-186)が、鼻茸を伴う慢性鼻副鼻腔炎を軽減した報告があります。

好酸球性鼻副鼻腔炎の治療
好酸球性鼻副鼻腔炎は、気管支喘息と併発するなどアレルギー炎症が関与した難治性の鼻副鼻腔炎です。そのため2型炎症を抑制するステロイド薬やロイコトリエン阻害薬が適します。
2020年以降にステロイド薬とは異なる生物学製剤(抗体製剤)が使用できるようになりました。担当の耳鼻科医と相談してください。
好酸球性鼻副鼻腔炎が化膿性鼻副鼻腔炎と併存する病態もあります。その場合の治療は、好酸球性鼻副鼻腔炎に対する治療薬と、膿性鼻漏に対するマクロライド療法を併用します。
(2026年4月2日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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