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病気の悩みを漢方で

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の漢方
1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療概要
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は慢性気管支炎と肺気腫(ハイキシュ)を含めた疾患の総称です。気管支の炎症や狭窄、肺胞の破壊により慢性の咳と活動時の呼吸困難と息切れが発現します。喫煙が原因となり「タバコ病」といわれる生活習慣病です。
COPDは呼吸困難が長引き身体の活動性が低下するため心身のフレイル(虚弱状態)になります。フレイル(1)も参照してください。
COPDの治療概要を図1に示しました。

現代科学医療では呼吸を楽にする気管支拡張薬が第一選択薬です。増悪を繰り返す場合には気道の慢性炎症を抑えるステロイド薬が併用されます。
なお呼吸困難が顕著な場合は酸素療法や換気補助療法も必要になります。
COPDの漢方医療では、
1) 咳や喀痰を軽減する対症治療の標治(ヒョウチ)と、
2) 疲労倦怠感、体重減少や易感染性などの心身の虚弱状態や抑うつ傾向を調整する本治(ホンチ)を組み合わせます。
漢方製剤の特徴を生かせるのは慢性期に低下した正氣(セイキ 生命維持活動)を調整する補剤(ホザイ)を活用する本治の領域です。
2.COPDの痰と咳の軽減(標治):清肺湯と麦門冬湯
2.1)清肺湯(セイハイトウ)は着色した多量な粘稠な痰がのどにからむ湿性咳嗽に適します。のどの痛みを伴う場合にも用いられます。
本方は竹筎(チクジョ)桑白皮(ソウハクヒ)麦門冬(バクモンドウ)杏仁(キョウニン)など咳嗽治療に用いられる各種の生薬を含みます。漢方薬名の意味:清肺湯を参照してください。
清肺湯はCOPD患者(31例)の呼吸器症状や画像所見を改善する臨床効果が認められています。
2.2)麦門冬湯(バクモンドウトウ)は切れにくい少量の痰を伴うから咳、咳き込みやのどや口の乾燥を伴うCOPDに使用されます。
麦門冬湯は高齢COPD患者(24例)の咳頻度と強度を改善する臨床効果が認められています。
両方剤は共に潤いを保つ麦門冬(バクモンドウ)を含む方剤です。両方の使い分けを図2にまとめました。
・清肺湯は、咽喉痛を伴い粘稠痰の多い湿性咳嗽のあるCOPDに、
・麦門冬湯は、粘稠痰の少ない咳き込みを伴う乾咳のあるCOPDに適します。

痰と咳の軽減には上記の他に竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)などかぜ(3)に記載した方剤も用いられます。
2.3)柴朴湯(サイボクトウ)は咳嗽を誘発する痰飲(タンイン)を除き、長引くCOPDに伴う抑うつ傾向を軽減する化痰理気(ケタンリキ)剤です。
本方は気管支喘息の寛解期の長期管理薬として活用されています。標治と本治を兼ねる方剤です。喘息(3)を参照してください。
3.全身の虚弱病態(栄養不足:気虚 キキョと血虚 ケッキョ)の調整(本治)
3.1)六君子湯(リックンシトウ)は食欲不振、胃もたれ、吐き気などに用いられる補気化痰剤です。胃もたれ(3)を参照してください。
六君子湯はグレリン(食欲亢進ホルモン)の分泌を高めて食欲を増進することが明らかにされています。漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
また本方の適応となる胃食道逆流病態(痰飲)は咳嗽の誘因の一つです。COPDで胃もたれを伴う場合の咳嗽予防に適します。

3.2)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は病中病後の虚弱状態(気虚:図3)や高齢者のフレイル(虚弱)に用いられる補気剤です。漢方薬名の意味:補中益気湯やフレイル(2) を参照してください。
本方は長引くCOPDに伴うだるさや易感染性の軽減に有用です。
補中益気湯が COPD患者の虚弱状態を改善する効果が報告されています。
補中益気湯(と呼吸リハビリテーション:12週投与)は、慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸困難、体重減少、疲労を対照群(呼吸リハビリテーションのみ)より有意に改善。
ランダム化比較試験 Experimental and Therapeutic Med. 2018; 16: 5236-42.
3.3)人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)も顔色不良や栄養不良などの虚弱状態と抑うつ感、不安と咳嗽を軽減する補気補血・化痰安神剤(アンシンザイ)です。
このことから本方は長引くCOPD患者の低下した体力を調え抑うつや不安を軽減する治療に適します。漢方薬名の意味:人参養栄湯やフレイル(6)を参照してください。
人参養栄湯によるCOPD病態モデルの筋肉減少を回復します。
人参養栄湯が、COPD患者の有する高齢のフレイル状態や食欲、気分障碍を改善する効果が報告されています。
人参養栄湯(と従来治療併用:24週投与)は、慢性閉塞性肺疾患のフレイル状態を反映するスコア、食欲、不安症状、抑うつ症状変化を反映するスコアを対照群(従来治療群のみ)より有意に改善。
ランダム化比較試験 Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2020; 26(8): 750-7.
3.4)補中益気湯と六君子湯と人参養栄湯の使い分けの目安
これらの補剤(ホザイ)はグレリン(食欲亢進ホルモン)を介して食欲を高め食事療法を補完する方剤として有用です。3方剤の使い分けの目安を 図4にまとめました。

4.全身の虚弱病態(足腰の衰え、息切れ:腎虚 ジンキョ)の調整(本治)
補剤には腎虚(ジンキョ)を補う補腎剤(ホジンザイ)も含まれます。腎虚は加齢や慢性疾患に伴って運動器、生殖泌尿器系機能の低下した虚衰性病態です。夜間頻尿や漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。
長引くCOPDの筋力低下や足腰の衰え、息切れや呼吸困難(漢方の短気 タンキ)は腎虚の症状です。八味地黄丸(ハチミジオウガン)や牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)および味麦地黄丸(ミバクジオウガン)などの補腎剤の適応になります。
味麦地黄丸は六味丸(ロクミガン)と麦門冬湯を併用して代用します。

COPDの養生(生活習慣の見直し)
禁煙: COPDは喫煙の関与が大きく、まず禁煙してください。
栄養: 呼吸するための筋肉量を維持し、感染症に対する抵抗力をつけるための栄養管理も重要です。
六君子湯、補中益気湯、人参養栄湯は消化吸収機能を調えます。
なお、呼吸困難や息切れが顕著な場合は医療機関で気道の閉塞性の程度を判断する呼吸機能検査を受けることを勧めます。
(2021年6月3日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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