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病気の悩みを漢方で

参蘇飲(ジンソイン)
1.参蘇飲(ジンソイン)の名の意味
参蘇飲の参は人参(ニンジン)、蘇は蘇葉(ソヨウ:紫蘇葉)が主薬であることを意味しています(図1)。飲は煎じ液を「お茶のように少しずつ飲む」薬方です。
人参は、消化吸収機能(脾胃 ヒイ)と呼吸機能(肺)を調える補脾益肺(ホヒエキハイ)の薬能によって正氣(セイキ:生命維持活動と自然治癒力)を維持します。
蘇葉は、かぜ(感冒)の誘因となる風邪(フウジャ)寒邪(カンジャ)を発散する解表(ゲヒョウ)と、胃腸機能を調える理気和中(リキワチュウ)の薬能があります。
本方(12味)には、この2生薬に加えて、食欲不振や胃もたれを軽減する理気補気化痰剤(リキホキケタンザイ)の六君子湯(リックンシトウ:図2の黄色枠内の8生薬)の7生薬と、化痰剤の二陳湯(ニチントウ:図2の水色枠内の5生薬)を含みます。
このことから方剤名は、本方が胃腸の弱い人のかぜ(胃腸かぜ)の喀痰を伴う湿性咳嗽に適することを示唆しています。
2.参蘇飲の適応
参蘇飲の適応領域の薬能を示します。

2.1)辛温解表、止咳平喘:
参蘇飲は、麻黄(マオウ)配合剤で食欲不振などの不快症状が発現する人の急性期から亜急性期のかぜに適します。
本方は、食欲が落ちて倦怠感が強く、咳や痰が続くかぜ(日耳鼻., 2013; 116: 388-389)や、妊娠中のかぜ(産婦人科の進歩, 2003; 55: 299-321)に適します。胃腸かぜや夏かぜを参照してください。
2.2)補気化痰・排膿:
参蘇飲は、補気薬の人参と、化痰剤の二陳湯と排膿散(ハイノウサン:桔梗、甘草、大棗、生姜)を含む補気化痰剤です。胃腸虚弱者の喀痰(痰飲 タンイン)を伴う長引く湿性咳嗽に適します。
胃腸機能の低下状態は、舌の白苔(表面の白い付着物)が目安になります。
3.湿性咳嗽に用いられる参蘇飲の関連方剤
湿性咳嗽に用いられる参蘇飲の関連方剤をまとめました(図3)。
3.1)小青竜湯(ショウセイリュウトウ)は、かぜ初期の鼻炎に適します。顕著な水様性無色喀痰や鼻水、くしゃみが、参蘇飲との区別点です。
かぜ(1)や花粉症(1)や漢方薬名の意味:小青竜湯を参照してください。
3.2)苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)の適応は、顔色不良で体力低下傾向で冷えと水様性無色喀痰、鼻水が顕著な病態です。参蘇飲と区別できます。かぜ(4)や鼻水・鼻づまりを参照してください。
本方は、心窩部の痞え感や冷えを伴う喘鳴、息切れ等の呼吸器症状に用いられています(日東医誌., 2009; 60: 641-646)。
3.3)藿香正気散(カッコウショウキサン)は、胃腸虚弱者の夏かぜの急性期から亜急性期に適する方剤です。「夏かぜは、お腹に来る」といわれる症状に適します。
かぜ(6)を参照してください。
本方は、かぜ初期の軽度な発熱を軽減し、吐き気を軽減する解表化痰薬(ケタンヤク)の藿香(カッコウ)と、消化不良や下痢を軽減する平胃散(ヘイイサン)を含むことが参蘇飲との相違点です。本方と参蘇飲の配合生薬は、夏かぜ(1)を参照してください。
3.4)柴朴湯(サイボクトウ)は、感冒後の痰が絡まる湿性咳嗽で、抑うつ感と咽頭閉塞感があるときに用いられています(日耳鼻., 2013; 116: 1093-1099)。かぜ(3)を参照してください。
本方は、小柴胡湯(ショウサイコトウ:図4の桃色枠内の7生薬)と半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ:図4の点線内の5生薬)の合剤です。
小柴胡湯を含むので参蘇飲の適応より気道炎症のある病態に適します。好酸球増多を伴う気管支喘息に用いられています(アレルギー, 2017; 66: 231-234)。
3.5)竹筎温胆湯(チクジョウンタントウ)は、かぜの微熱が残り、粘稠痰を伴う夜間咳嗽や抑うつ感、不眠に用いられます。かぜ(3)や漢方薬名の意味:竹筎温胆湯を参照してください。
本方は、理気薬の柴胡や香附子(コウブシ)、清熱化痰薬の竹筎を含み、参蘇飲の適応より精神神経症状や熱証の喀痰の多い長引く咳嗽に適します(図5)。
3.6)清肺湯(セイハイトウ)は、多量の黄色(膿性)粘稠痰(熱痰)を伴う慢性の湿性咳嗽に適します。かぜ(4)や漢方薬名の意味:清肺湯を参照してください。
4.咳嗽を伴わないかぜに用いられる参蘇飲の関連方剤
4.1)香蘇散(コウソサン)は、胃腸虚弱者のかぜの頭重感に用いられます。神経質、抑うつ傾向の背景にある人に適します。
本方と参蘇飲は、夏かぜ(1)で比較しています。
4.2)柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)は、参蘇飲と同様に、急性期から亜急性期の吐き気を伴うかぜに用いられます。
本方は、桂枝湯と小柴胡湯(図6の桃色枠内の7生薬)の合剤(小柴胡湯+桂皮、芍薬)です。頭痛、微熱、口苦などの熱証傾向と、胃痛を伴う人に適します。
胃腸かぜや漢方薬名の意味:柴胡桂枝湯を参照してください。

参蘇飲の口訣(抜粋)
・胃の弱い人で、葛根湯が胸につかえる人の太陽病から少陽病の感冒に咳嗽を兼ねたものに用いられる。基本構造は二陳湯です(三谷和合)。
・消化機能の弱い人の感冒初期から中期の頭痛、透明な喀痰を伴う咳嗽、食欲不振、胃もたれ、心窩部の痞え感に用いる(三浦於菟)。
・体力のない人の湿性咳嗽に用いられる。清肺湯は、粘稠な喀痰を伴う熱証の咳嗽、苓甘姜味辛夏仁湯は、水溶性の喀痰を伴う寒証の咳嗽(喜多敏明)。
2025年3月13日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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