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病気の悩みを漢方で

十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)
1.十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)名の意味
十味敗毒湯の名は、十味の生薬を含む敗毒する方剤を意味しています。敗毒は、化膿性炎症の初期の毒を消す薬能です。一方、解毒は、炎症の進んだ時期の消炎が主体の薬能で、敗毒と区別されています(山本巌)。
十味敗毒湯は、華岡青洲が中国の方剤を改変した本朝経験方です(図1)。

図1上段の6生薬は、祛風(キョフウ)解表(ゲヒョウ)薬です。発病誘因となる外邪(風 フウ・寒・湿・熱邪)を皮膚から発散させる生薬群です。
本方は、これらの祛風解表薬の比率が高いことから外感病(ガイカンビョウ)の急性期から亜急性期の病態に適した解表和解(ワカイ)剤です。敗毒なので赤字で表記する清熱性の生薬は多くありません。外感病と和解は、病期を参照してください。
本方は、排膿に寄与する桜皮(オウヒ)と桔梗湯(桔梗、甘草)を含みます。
桜皮の代わりに樸樕(ボクソク:図2)を配合した十味敗毒湯製剤もあります。適応症は同じです。
桜皮も樸樕も化膿性疾患や打撲に使用されていた日本の民間薬でした。樸樕は、桜皮より清熱効果が強いと考えられています(山本巌)。

以上から本方の名は、初期から亜急性期の毒を発散させて消す方剤であることを示唆しています。皮膚科や耳鼻科領域の化膿性炎症病態に用いられています。
2.十味敗毒湯の適応
十味敗毒湯は、初期から亜急性期の湿疹皮膚炎、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹に用いられます。
本方は、脂漏性皮膚炎のように滲出液の少ない紅斑、丘疹、膿疱や、にきびのように化膿傾向の皮疹にも適します(皮膚, 1990; 32: 149-150)。
十味敗毒湯の皮膚科領域での応用例
・脂漏性皮膚炎の顔面紅斑や丘疹を軽減。
日東医誌., 2009; 60: 155-159
・アトピー性皮膚炎の湿潤・痂皮、紅斑・急性期丘疹を軽減。苔癬化の比率が高いと治療に抵抗性。
皮膚の科学, 2011; 10: 34-40
・額部および頰部のにきびを軽減。
西日本皮膚科, 2016; 78: 270-273
・分子標的治療薬による痤瘡様皮疹や斑状丘疹を軽減(黄連解毒湯と併用)。
日東医誌., 2020; 71: 30-35
・本方と抗ヒスタミン薬の併用群は、蕁麻疹の痒みと皮膚状態(膨疹と紅斑)を抗ヒスタミン薬単独群より有意に改善。
Chin. J. Integr. Med., 2019; 11: 820-824
・掌蹠膿疱症治療の選択肢の一つとして推奨されている。
日皮会誌., 2022; 132: 2055-2113. 掌蹠膿疱症診療の手引き2022
十味敗毒湯の基礎研究例
・受身皮膚アナフィラキシー反応抑制(マウス)。
薬理と治療, 1995; 23: 2257-2261
・遅延型過敏性反応病態を抑制(マウス)。
Biol. Pharm. Bull., 1999; 22: 48-54
・へアレスマウスにおける過酸化ベンゾイルで誘発した皮膚紅斑を抑制。
薬学雑誌, 2020; 140: 1471-1476
・男性ホルモンを活性化する5α-reductaseを抑制
樸樕(新薬と臨牀, 2014; 63: 1436-1447)、
桜皮(医学と薬学, 2019; 76: 1499-1456)
十味敗毒湯は、耳鼻科領域の化膿性炎症疾患の副鼻腔炎にも用いられています(日脳神漢方医会誌., 2025; 10: 52-55)。
3.湿疹・皮膚炎に用いられる十味敗毒湯の関連方剤
湿疹皮膚炎の漢方治療では、皮疹の経時変化から熱証の程度や、湿潤皮疹(湿証 シッショウ)や乾燥皮疹(燥証 ソウショウ)を判断して方剤を使い分けます(図3)。
十味敗毒湯は、初期から亜急性期の皮疹に適するので三角形の左辺下側に配置されます。漢方湿疹三角形は、アトピー性皮膚炎(1)を参照してください。

3.1)消風散(ショウフウサン)の方剤名は、祛風剤であることを示唆しています。図4に示すように、赤字で表示する清熱性の生薬と、利湿薬(リシツヤク)と潤燥薬ジュンソウヤク)を含みます(図4)。漢方薬名の意味:消風散を参照してください。

消風散は、湿潤と乾燥皮疹の併存する病態に適しますが、夏に悪化する湿性傾向の皮疹に用いられています。湿疹・皮膚炎(4)を参照してください。
本方の適応は図3に示すように、十味敗毒湯より炎症の進んだ熱性の皮疹です。
4.にきび(尋常性痤瘡)治療における十味敗毒湯の関連方剤
4.1)清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)は、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ:清熱解毒)の主要生薬(図5●印の3生薬)と、連翹(レンギョウ:清熱消瘡)薄荷(ハッカ:辛涼解表)などを含む清熱解表剤です(図5)。漢方薬名の意味:清上防風湯を参照してください。

清上防風湯は、清熱薬を多く含むことが十味敗毒湯との相違点です。十味敗毒湯より顔面のほてり、脂肪肌を伴う熱性の紅斑、膿疱、赤にきびに適します(皮膚, 1985; 27: 328-332) 。にきびを参照してください。
4.2)荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ:一貫堂方)は、温清飲(ウンセイイン:黄連解毒湯+四物湯)と祛風解表薬を含む方剤です。
本方は、清上防風湯の全生薬を含みます。十味敗毒湯や清上防風湯より反復炎症のある慢性期の痤瘡に用いられます。漢方薬名の意味:荊芥連翹湯を参照してください。

十味敗毒湯の口訣(抜粋)
・華岡青洲は、急性・化膿性の皮膚疾患を目標に創案しました。太陽と少陽病期の湿疹・皮膚炎、アトピー性皮膚炎、にきび、蕁麻疹に適します(三谷和合)。
・化膿性炎症の初期に用いるべき方剤。脂漏性皮膚炎のような毛孔性に生じる丘疹に適する。利湿や清熱を強化するために消風散や、少量の黄連解毒湯を併用(髙橋邦明)。
・湿疹病変の初期や尋常性痤瘡に頻用される。小丘疹や小膿疱が散在し、滲出液が少ない場合に適する。女性には活血剤を併用する(夏秋優)。
2026年2月2日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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