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病気の悩みを漢方で

当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
1.当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
当帰芍薬散の名は、当帰(トウキ)と芍薬(シャクヤク)が主薬であることを示しています(図1)。

当帰は、顔色不良、疲れ、冷えを軽減する補血活血薬(ホケツカッケツヤク)です。
芍薬は、筋肉の緊張による痛みを軽減する柔肝(ジュウカン)緩急止痛薬です。柔肝は、肝血虚を補う補血に相当する薬能です。
当帰芍薬散(図2二重線内の6生薬)は、
・むくみ、頭痛(水滞 スイタイ)を軽減する上段の利水薬(リスイヤク)3種と、
・血証(血虚 ケッキョと瘀血 オケツ)を軽減する下段の3薬を含みます。

白朮(ビャクジュツ)と茯苓(ブクリョウ)は、消化吸収機能を整える健脾(ケンピ:補気)を併せ持つ利水薬です。白朮と沢瀉(タクシャ)の組み合わせは、めまいを軽減する薬対です(日東医誌., 2010; 61: 331-336)。
川芎(センキュウ)は、月経痛、頭痛を軽減する理気活血薬(リキカッケツヤク)です。川芎と当帰の薬対を含む方剤は、芎帰剤(キュウキザイ)と称されます。
以上のことから方剤名は、本方が月経痛や月経不順など婦人科領域の血証(血虚と瘀血)症状に適することを示唆しています。配合生薬からむくみ、めまい、頭痛などの水滞症状にも適することがわかります。
2.当帰芍薬散の適応
当帰芍薬散は、体力低下(気虚)と冷え症傾向の血証と水滞症状に用いられます。倦怠感と冷えは、気虚と血虚、動悸、めまいは、血虚と水滞の症状です。
本方の適応となる冷え症は、腹部の冷えに加えてめまい、目のかすみを伴います(日東医誌., 2013; 64: 205-211)。
当帰芍薬散の主な適応は、婦人科疾患です。漢方医学では婦人科疾患の要因は、虚(キョ)積冷(シャクレイ)結気(ケッキ)と考えています(婦人之病、因虚、積冷、結気) 。婦人更年期障碍(1)や冷え症(1)を参照してください。
虚と結気の軽減に寄与する当帰芍薬散の配合生薬を示します(図3)。

2.1)婦人科領域における当帰芍薬散の研究例。
・45歳看護師(BMI:22.1)の月経前症候群(PMS):いらだち、頭痛、腰痛、肩こりを軽減(柴胡桂枝乾姜湯と併用)
漢方の臨床, 2015; 62: 1704-1710
・月経前症候群によるいらだち、過食を軽減(片頭痛治療薬と併用)。
脳神経外科と漢方, 2016; 2: 41–46
・生理時に悪化する血の気が引く感じのめまい、冷え症を軽減。
Equilibrium Res., 2021; 80: 292-295
・薬剤の使用過多による片頭痛と月経不順を軽減(鎮痛薬を減量)。
日本頭痛学会誌, 2024; 51: 117-119
基礎研究: 赤血球の流速速度を高めて毛細血管の血流量を高める。
日東医誌., 2020; 71: 8-17
2.2)当帰芍薬散のその他の領域への応用例
・男性の鼻アレルギーや蛋白尿を改善。
日東医誌., 2010; 61: 319-324
・脳出血後の血腫、麻痺と失語症を軽減。
脳神経外科と漢方, 2015; 1: 39-42
・軽度認知障碍(MCI)の進行を遅延。
脳神経外科と漢方, 2020; 6: 33-38
・乳がん術後のホルモン療法に伴うのぼせ、抑うつ、いらだち、不眠、手足の冷えを軽減(柴胡桂枝乾姜湯と併用)。
日東医誌., 2021; 72: 264-274
・慢性腎臓病と関節リウマチ合併患者の下肢浮腫と易疲労感を改善。
利尿薬を1種類に減薬。
日東医誌., 2023; 74: 145-151
3.当帰芍薬散の関連方剤
3.1)四物湯(シモツトウ)は、図2に示したように補血生津薬(ホケツセイシンヤク)の熟地黄(ジュクジオウ)と当帰芍薬散に含まれる当帰、川芎、芍薬の3生薬からなります。当帰芍薬散より乾燥病態に適した補血生津活血剤です。
四物湯と当帰芍薬散を併用して不妊症治療中の患者の顔色不良、むくみを軽減し、治療1年以内に妊娠できた報告があります(日東医誌., 2017; 68: 339-344)。
3.2)芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)は、当帰芍薬散より乾燥した血虚と津液不足(シンエキフソク)を伴う婦人科領域の出血病態に用いられています(日東医誌., 2023; 74: 314-320)。
本方は、当帰、川芎、芍薬を当帰芍薬散と共有し、補血生津薬の熟地黄(ジュクジオウ)と止血薬の阿膠(アキョウ)と艾葉(ガイヨウ)を含みます。当帰芍薬散より補血生津・止血機能を付加した方剤です(図4)。

3.3)温経湯(ウンケイトウ)は、当帰芍薬散と補血活血3生薬を共有し婦人科領域で活用されています。
本方は、当帰芍薬散の利水薬を除き、補血生津薬(熟地黄、阿膠)活血薬(牡丹皮)散寒薬(呉茱萸、桂皮、生姜)補気薬(人参)を加味した方剤です(図5)。
本方は、口乾、手掌のほてり(虚熱 キョネツ)の寒熱挟雑病態に適することが本方と当帰芍薬散との相違です。漢方薬名の意味:温経湯を参照してください。

3.4)加味逍遙散(カミショウヨウサン)は、当帰芍薬散より熱証(冷えのぼせ、午後の熱感)で気滞(抑うつ、いらだち、不眠)など変動する多様な不定愁訴に適します(日本病院総合診療医学会雑誌, 2014; 7: 25-30) 。漢方薬名の意味:加味逍遙散を参照してください。
本方は、補血薬(当帰、芍薬)と利水健脾薬(白朮、茯苓)の4生薬を当帰芍薬散と共有します(図6)。
本方が、清熱性の柴胡(サイコ:理気)山梔子(サンシシ:除煩)牡丹皮(ボタンピ:活血)を含むことが当帰芍薬散との相違です。


当帰芍薬散の口訣(抜粋)
・血色が悪く、腹に力がなく腹直筋の緊張が多少あり、臍傍の動悸に用いる。関連する温経湯とは、手掌煩熱、口唇乾燥で区別する(三谷和合)
・中肉から痩身婦人の冷え症は本方の指標、皮膚は血色がなく緊張度も低下、心窩部の振水音、月経の不調、流産癖の女性に適する(中田敬吾)。
・倦怠感、冷え、めまい(脾虚と血虚)、頭痛、動悸(血虚と水滞)、月経痛(瘀血)、下肢のむくみ(水滞)に用いられる補脾補血活血・利水剤(三浦於菟)。
2026年7月15日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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