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病気の悩みを漢方で

人参湯(ニンジントウ)
1.人参湯(ニンジントウ)の名の意味
人参湯の名は、人参が主薬であることを示しています。
人参は、食欲不振、疲労倦怠感や易感染性に用いられます。脾(ヒ:消化吸収機能)と肺(ハイ:呼吸機能)を調える補脾益肺薬(ホヒエキハイヤク)です。
人参湯の配合4生薬を図1に示します。
本方は、水色枠の散寒(サンカン)と黄色枠の補気(ホキ)の薬対からなります。
・乾姜(カンキョウ)と甘草(カンゾウ)は、腹部の冷え(裏寒 リカン)を温める散寒・温中の薬対です。
・人参と白朮(ビャクジュツ)は、消化吸収機能の低下(脾胃気虚 ヒイキキョ)を調える補気健脾の薬対です(図2)。
このことから、本方の名は、胃腸虚弱(脾虚)を背景にした生命維持活動の低下病態(気虚:倦怠感、冷え、下痢)に適することを示唆しています。
2.人参湯の適応

人参湯は、冷えると悪化する症状に適します。
2.1)胃腸虚弱によって消化吸収機能の低下した食欲不振、疲労倦怠感、四肢、腹部の冷え、腹痛、軟便下痢(冷房下痢)に用いられます。夏やせや冷え症(2)を参照してください。
本方の主な投薬目標は、心下痞鞕(ヒコウ:心窩部の痞え感)と下痢です(日東医誌., 2012; 63: 261-265)。
胃腸虚弱に伴う冷え、倦怠感に関する人参湯の報告例
・冷房など冷えによる下痢と倦怠感を改善。
日消誌., 2010; 107: 1577-1585
・腸管不全における腹部膨満感、腹痛と下痢と易感染性を改善。経腸栄養管理の支援薬として有用。
日本静脈経腸栄養学会雑誌, 2017; 32: 960-963
・過敏性腸症候群の腹部膨満感と冷たいものの摂取による下痢の増悪を軽減(大建中湯と併用)。
日病総診誌., 2019; 15: 28-29
2.2)その他の領域における人参湯の応用例
・アレルギー性鼻炎症状を軽減。
日東医誌., 1983; 34: 189-191
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴う胃もたれ、下痢、咳嗽を軽減。
日東医誌., 2012; 63: 261-265
3.冷えを伴う下痢に用いられる人参湯の関連方剤
下痢に用いられる人参湯の関連方剤を図3に示します。寒証の顕著な病態に用いられる方剤を左側に配置しています。
3.1)桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)は、人参湯に散寒通脈薬の桂皮を加えた方剤です。かぜ症候群の倦怠感と下痢(日東医誌., 1995; 45: 935-939)や、胃腸障碍を伴う下痢、頭痛(漢方の臨床, 2024; 71: 961-967)に用いられています。
3.2)真武湯(シンブトウ)は、新陳代謝機能の低下(腎陽虚)と消化吸収機能の低下(脾虚)による倦怠感、冷えと、むくみ、動悸、めまい(水滞)に伴う水様性下痢に用いられています(漢方の臨床, 2014: 61: 629-634)。めまい(2)を参照してください。
本方は、補腎陽薬(ホジンヨウヤク)の附子を含む補腎補脾利水剤(ホジンホヒリスイザイ)です(図4)。補腎陽は、漢方薬名の意味:八味地黄丸を参照してください。
・真武湯は、新陳代謝が低下して倦怠感や顕著な冷えを伴う水様性下痢に、
・人参湯は、食欲低下や胃もたれなどを訴える六君子湯タイプの軟便泥状下痢に適します(日消誌., 2010; 107: 1577-1585)。
両方剤は、冷え症(2)や疲労感(6)でも比較しています。
3.3)啓脾湯(ケイヒトウ)は、胃腸虚弱・消化不良(脾虚)による吐き気(痰飲)や倦怠感(気虚)に伴う下痢に用いられる補気消食止瀉剤です。漢方薬名の意味:啓脾湯を参照してください。
啓脾湯は、補気剤の四君子湯(シクンシトウ:図5黄色枠内の4生薬)と消食薬(ショウショクヤク)の山楂子(サンザシ)と補気止瀉薬の蓮肉(レンニク)山薬(サンヤク)を含み、消化不良による慢性の下痢に適します。
人参湯は、温中散寒薬の乾姜を含み、冷えの顕著な下痢に適します。
3.4)半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)は、下痢が主たる適応ではありませんが、下痢型過敏性腸症候群に用いられています(医学と薬学, 2012: 68: 127-133)。過敏性腸症候群(2)を参照してください。
本方は、人参湯の3生薬と、化痰薬(ケタンヤク)の半夏(ハンゲ)と清熱薬の黄芩 (オウゴン)黄連(オウレン)を含みます(図6)。
本方は、吐き気と熱証傾向の胃食道逆流症や口内炎に適します。胃食道逆流症(2)と口内炎(2)を参照してください。
本方と人参湯は、過敏性腸症候群(3)で比較しています。
3.5)大建中湯(ダイケンチュウトウ)は、下痢が主たる適応ではありませんが、腸内にガスが停滞した下痢を軽減した報告があります(日東医誌., 2010; 61: 180-184)。過敏性腸症候群(1)を参照してください。
本方は、人参湯の2生薬と、山椒(サンショウ:温中止痛)と、膠飴 (コウイ:補中緩急止痛)を含みます(図7)。本方は、冷えると悪化し、温めると軽快する腹痛、膨満感、便秘傾向の便通異常に用いられます。漢方薬名の意味:大建中湯を参照してください。

人参湯の口訣(抜粋)
・顔色が悪い(生気が乏しい)、薄い唾液、舌は湿潤、舌苔は少ない、頻尿、手足の冷え、下痢に用いる(大塚敬節)。
・冷えた消化器の機能低下を、温めて機能と生命力を高める(温中益気)。食欲不振、胸部の詰まり感、下痢、倦怠感、四肢や腹部の冷えが目標(三浦於菟)。
・食欲低下や胃もたれを伴う下痢に用いる。尿は薄くて量が多い、疲れやすい。新陳代謝が低下し下腹部が冷える場合は真武湯と併用される(新井信)。
2025年8月6日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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