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病気の悩みを漢方で
1.過敏性腸症候群(IBS)の概要
過敏性腸症候群(IBS)は、便通異常(下痢、便秘、下痢と便秘の交互便)や腹痛や腹部膨満感、残便感などの不快感を繰り返します。このような臓器の器質的病変の軽微な機能性症候群は、漢方医療の良い適応になります。
IBSはストレス(心理社会的因子)による不安、抑うつ、いらだちの関与が大きい疾病です。緊張すると症状が発現し増悪します。几帳面、完璧主義、予定にしばられる、神経質の人がIBSになりやすいと言われています(図1)。
2.混合型と便秘型IBS
IBSの便通異常では、下痢型、下痢と便秘の混合型、便秘型に応じて方剤が使い分けられます。
2.1)桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)は、腹痛、腹部膨満感、便通異常(下痢・便秘混合型)、排便後の残便感などのIBS症状に用いられます。過敏性腸症候群(1)を参照してください
医療用桂枝加芍薬湯は、過敏性腸症候群(IBS)患者(15歳以上75歳未満の患者286名)の下痢型IBSの腹痛をプラセボ群より有意に改善した。
二重盲検ランダム化比較試験。臨床と研究. 1998; 75: 1136-52.
ここでは桂枝加芍薬湯の次の一手を考えます(図2)。便通異常だけでなく上腹部愁訴やストレス由来症状などの全身病態を調整する方剤を選びます。IBSが機能性ディスペプシア(FD)や胃食道逆流症(GERD)や胃腸虚弱と併発することを考慮した方剤運用です。
2.2)桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)は桂枝加芍薬湯に大黄(ダイオウ:瀉下攻積)を加味した方剤です。腹痛の顕著な便秘型IBSに適します。
2.3)小建中湯(ショウケンチュウトウ)は桂枝加芍薬湯の5生薬に膠飴(コウイ:補中、緩急止痛)を加味した方剤です。体力が低下した人の便秘が主体の混合型IBSに用いられています。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
本方は、甘くて服用しやすいので胃腸虚弱な小児の体調管理に頻用されます。
チックや夜泣きや便秘(5)を参照してください。
2.4)大建中湯(ダイケンチュウトウ)は冷えと腹痛と腹部膨満感が顕著な便秘が主体の混合型IBSに適します。冷えると悪化する病態に適します。本方は桂枝加芍薬湯と併用されます。
本方は温中散寒止痛薬と補気薬からなります(図3)。建中湯類ですが温中薬が主体で小建中湯とは組成が異なります。漢方薬名の意味:大建中湯を参照してください。
3.下痢型IBS
3.1)半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)は、腹がグルグル鳴る腹鳴(フクメイ)を伴う下痢型IBSに用いられる第一選択薬です。過敏性腸症候群(2)を参照してください。
本方は、心窩部つかえ、吐き気、ゲップ、食欲不振、口内炎が目標になります。胃食道逆流症(2)を参照してください。
基礎的にはコリン作動性の腸管収縮を抑制する作用が明らかにされています。
3.2)人参湯(ニンジントウ)は、疲れやすく冷え症で、冷房などの寒冷刺激で悪化する下痢型IBSに適します。夏やせや疲労感(6)を参照してください。
本方の温中散寒薬と補気薬は、半夏瀉心湯と共通です(図4)。本方には半夏瀉心湯に含まれる化痰薬の半夏(ハンゲ)と清熱薬の黄芩(オウゴン)と黄連(オウレン)が含まれていません。これが両方剤の相違点です。
4.ストレス関連のIBSに適する方剤
4.1)胃苓湯(イレイトウ)は胃部膨満感を軽減する平胃散(ヘイイサン)と吐き気と下痢を軽減する五苓散(ゴレイサン)を含む理気燥湿和胃剤(リキソウシツワイザイ)です。霍乱を参照してください。
本方は、下痢型IBSに応用されています。
(症例報告)医療用胃苓湯は、やせ傾向の5名(体格指数BMI:19.4±2.4)のストレスが背景にあり、心窩部下腹部膨満感を伴い冷飲食で悪化した下痢型IBSを軽減した。腹痛を伴う場合は桂枝加芍薬湯を併用(芍薬を加味する狙い)。
4.2)茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)は、下痢が主たる適応ではありませんが、胃腸膨満感と抑うつ感傾向を伴うストレス関連の下痢型IBSに用いられます。甘草を含まないので連用に適します。
本方は、げっぷを伴う胃食道逆流症に用いられる茯苓飲と、咽喉部異物感、不安、動悸を軽減する半夏厚朴湯を組み合わせた補気化痰理気剤(ホキケタンリキザイ)です。胃食道逆流症(3)を参照してください。
4.3)柴芍六君子湯(サイシャクリックンシトウ:六君子湯+柴胡、芍薬)は、下痢が主たる適応ではありませんが、胃腸虚弱とストレス関連の下痢型IBSに用いられます。
本方は、食欲不振、胃もたれ、吐き気を軽減する補気化痰剤(ホキケタンザイ)の六君子湯(リックンシトウ)に、いらだちを軽減する理気剤の四逆散(シギャクサン)の方意を含む補気化痰理気剤です。
エキス剤では六君子湯と四逆散を併用して代用されます。漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
過敏性腸症候群の予防と養生
過敏性腸症候群の予防は生活習慣の見直しが基本になります。
・暴飲暴食や香辛料を多く含む刺激食品、脂っこい食材を避ける。
・発酵食品と腸内細菌の餌になる食物繊維を摂取する。
・朝食後の排便習慣をつける。
完璧を求めすぎず、焦らず余裕のある気持ちで生活し、ストレスをためないように運動などで気分転換を工夫してください。
過敏性腸症候群は若い世代に多く、高齢者には少ない疾病(シッペイ)です。50代を超えて腹痛、膨満感、便通異常が続けば、大腸がんの検診を受けることを勧めます。
(2023年1月20日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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