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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

こむら返りの漢方


1.こむら返り(有痛性筋痙攣、筋クランプ)の概要

 こむら返りの「こむら(腓)」は下腿(すね:脛)の後側の「ふくらはぎ」のことです。こむらの筋肉(腓腹筋)がひっくり返ったような感じになることから、こむら返りと名付けられたそうです。俗に「足がつる」状態です。

 こむら返りは、現代医療では有痛性筋痙攣(ケイレン)、筋クランプ(calf cramp: CC)と言います。漢方古典では転筋と称されています。痙攣は、ふくらはぎ以外にも、太もも、胸や腹の筋肉でも発生します。

2.こむら返り(CC):漢方治療の目

 CCは筋肉疲労や発汗後の脱水時に起きるようです。さらに疾患や透析治療、高齢者に頻発します。薬物の副作用でも起きます(図1)。

 芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)は、CCに対する急性期治療の第一選択薬です。

 一方、CCの予防や長引く病態では、背景となる全身病態に対する治療も必要になります。血行障碍の原因である瘀血(オケツ)や誘因となる水滞(スイタイ)や冷えなどに応じて方剤を選びます。
 基礎疾患が明確であれば、その治療も必要です。

3.芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ):急性期の鎮痙鎮痛

 芍薬甘草湯芍薬甘草の2生薬からなります(図2)。

 芍薬甘草湯には、中枢性鎮痛作用末梢性筋弛緩作用を併せ持つことが基礎的に明らかにされています。

 医療用芍薬甘草湯製剤は、糖尿病、脳血管障碍、腰部脊柱管狭窄症、血液透析に伴うこむら返りを軽減した臨床報告が多数あります。
 肝硬変に伴うCCに対する有用性を以下に示します。

(多施設二重盲検ランダム化比較試験
 芍薬甘草湯(2週間投与)は、肝硬変患者の筋痙攣(こむら返り)の発症回数、痙攣持続時間、痛みの軽減を対照薬(プラセボ)群より有意に改善。

 この報告から読み取るべきこと:
 1)改善度は約67%(⇒無効例に適する方剤は?)
 2)偽アルドステロン症の発症率は約7%(⇒甘草の副作用に改めて注意)

 芍薬甘草湯甘草の配合量がとくに多い方剤です。本方を予防のために漫然と連用することは推奨できません。
 連用時には、むくみや血圧上昇など偽アルドステロン症の予兆を見逃さない経過観察と定期的な検査が必要です。

4.こむら返り(CC)に用いられる漢方製剤

 CCに対する芍薬甘草湯治療の次の一手を考えるために、CCに用いられている漢方製剤をまとめました(図3)。

5.補血活血剤(ホケツカッケツザイ)

 疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)は、芍薬甘草湯および補血活血剤(ホケツカッケツザイ)の四物湯(シモツトウ)を含む方剤です。疎経活血湯を参照してください。

 疎経活血湯芍薬甘草湯の無効例のCCを改善した報告があります。本方は、筋肉痛や皮膚や口内乾燥、足のだるさを伴うこむら返りに適します。

 急性期の対症療法には芍薬甘草湯を短期間用いて、再発するCCの予防には甘草の含有量が少ない本方を用いると良いでしょう。夜間から明け方にCCに悩む人には眠前に2包を集中的に投与されています。

 なお四物湯も高齢者のCCに用いられています。

6.補腎散寒剤(ホジンサンカイザイ)

 補腎利水活血剤牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)の肝硬変に伴うCCの有効率は、芍薬甘草湯より高い傾向を示したという臨床報告があります。

多施設無作為抽出比較試験)12週間投与
 肝硬変患者のこむら返りの有効率:牛車腎気丸 60.5%、芍薬甘草湯 40.5%。

 牛車腎気丸の関連方剤の八味地黄丸(ハチミジオウガン)もCCに用いられています。  さらに、CCには、
 附子剤(ブシザイ)の真武湯(シンブトウ)芍薬甘草附子湯(シャクヤクカンゾウブシトウ)、
 温経散寒剤当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)や
 温中散寒剤苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ)も
用いられています。

 こむら返りの治療において、瘀血水滞腎虚冷えの関与を探ることが芍薬甘草湯の「次の一手」を考えるヒントになりそうです。

ちょっと一言:(トピックス)

こむら返りの予防

就眠前のストレッチ、保温
運動後の水分とミネラル補給(スポーツドリンク、経口補水液)
食材によるミネラル補給
 野菜(小松菜、大根)、豆腐、牛乳、わかめ、バナナ、などの海藻

 頻繁に足がつる場合は疾患が背景にあるかもしれません。
服用中の薬を持って医療機関を受診してください。

(2022年6月30日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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