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病気の悩みを漢方で

漢方薬名の意味

疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)

1.疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)名の意味

 疎経活血湯疎経は、不通になった経絡(ケイラク)を疎通通経通絡)させる薬能です。経絡気血(キケツ)の通路です。経絡が不通になり、筋肉や関節が腫痛ししびれる病態を痺証(ヒショウ:痹証)といいます。
 方剤名の活血(カッケツ)は、経絡の不通によって生じた病理産物の瘀血(オケツ: ケツの停滞)を解消する薬能です。痺証の軽減に寄与します。

 痺証の病態には「正氣の失調した個体に外邪が侵襲 ⇒ 不通になった経絡内の病理産物 ⇒ 発症後に生じた正氣の失調」が含まれます。
 このため痺証は、病理の実証(停滞した風邪 フウジャや湿邪と病理産物)と、病理の虚証正氣の失調)が錯雑(挟雑)しています(図1)。
 治療方針は、祛邪(キョジャ:病理の実証を除去する瀉法)と、扶正(フセイ:病理の虚証を補う補法)を組み合わせます。ロコモを参照してください。

 疎経活血湯の配合17生薬を痺証治療の薬能と関連つけて示します(図2)。

 本方の特徴的な配合生薬は、威霊仙(イレイセン)と防已(ボウイ)と牛膝(ゴシツ)です(図3)。これらは、祛風湿利水活血の薬能を介して疎経通経します。

 以上のことから方剤名は、本方が、経絡の不通を利水活血薬などで疎経して痺証痛みしびれを改善する方剤であることを示唆しています。

2.疎経活血湯の適応

 疎経活血湯は、寒さや湿度によって経絡内の気血水の循環が悪い痺証に用いられます。
 適応は、関節痛むくみしびれ腰痛坐骨神経痛筋肉痛肩こりこむら返りなどです。

 配合生薬を見ると、本方は、血虚(ケッキョ)の個体に風湿邪(フウシツジャ)が侵襲した水滞瘀血を伴う痺証に適すると推察されます。

 関節筋肉痛腫脹しびれへの疎経活血湯の応用例

・リウマチ性多発筋痛症(PMR)の全身の夜間筋痛不眠倦怠感を軽減。

日東医誌., 2010; 61: 699-707


・再発性こむら返りを軽減。

日東医誌., 2017; 68: 40-46


・陰証の肩関節周囲炎の痛みを軽減(葛根湯と併用:独活葛根湯の代用)。

日東医誌., 2023; 74: 254-258


・腰部椎脊柱管狭窄症のしびれを伴う痛みを軽減(八味地黄丸と併用)。

漢方の臨床, 2025; 57: 653-664


(基礎研究) 関節炎病態動物の両側関節腫脹と滑膜組織病変を改善。

日東医誌., 1998; 49: 419-428


 変形性膝関節症(2)腰痛(2)こむら返りを参照してください。

 他の領域への疎経活血湯の応用例

糖尿病性神経障碍しびれ冷感を軽減。

痛みと漢方, 2017; 27: 152-156


・抗がん剤による末梢神経障碍の痛み冷えを軽減(牛車腎気丸と併用)。

脳神経外科と漢方, 2016; 2: 36–40. 漢方の臨床, 2023; 70: 741-750


3.湿痺証に用いられる疎経活血湯の関連方剤

 (ボウイオウギトウ)は、変形性膝関節症浮腫痛み歩行困難に用いられています(順天堂医学, 1985; 31: 570-574) 。変形性膝関節症(1)足のむくみ(1)を参照してください。

 本方は、気虚を伴う湿痺に適した防已黄耆(オウギ)を主薬とする補気利水剤です(図4)。疲れやすく、色白で水っぽい皮膚汗が多く筋肉にしまりのない水太りの肥満者の関節腫痛に適する点が、疎経活血湯との相違です。

4.寒痺証に用いられる疎経活血湯の関連方剤

(ケイシカジュツブトウ)は、手足腰の関節の痛み浮腫こわばり運動障碍神経痛冷えに用いられます(日東医誌., 2021; 72: 239-243)。変形性膝関節症(2)を参照してください。

 本方は、体力低下者(軽度の気血両虚 キケツリョウキョ)に用いられる桂枝湯(ケイシトウ)に、祛風湿利水健脾薬蒼朮散寒止痛薬附子(ブシ)を加味した方剤です(図5)。冷え痛みの顕著な痺証寒痺 カンピや痛痺 ツウヒ)に適します。

(ダイボウフウトウ)は、栄養不良筋肉の減少を補う補気補血剤十全大補湯の8生薬(図6の※印)を含みます。さらに冷え足腰の衰え痛みを軽減する補腎薬(ホジンヤク)の附子杜仲(トチュウ)牛膝を含みます。
 杜仲は、腎虚を伴う筋萎縮や腰下肢の無力を軽減する痺証に適した補腎強筋骨薬(ホジンキョウキンコツヤク)です(図6)。

 本方は、筋肉量の減少を伴う虚弱状態の筋肉や関節の腫痛しびれむくみ運動障碍を伴う慢性の痺証に適します(日東医誌., 2022; 73: 321-324)。変形性膝関節症(2)を参照してください。

(ゴシャジンキガン)は、補腎剤八味地黄丸(ハチミジオウガン)に牛膝車前子(シャゼンシ:清熱利水)を加味した方剤です。本方が、高齢者の腰痛下肢痛を軽減した報告があります(整形外科と災害外科, 1995; 44: 219-221)。
 本方は、加齢に伴う排尿異常腰痛など腎虚症状を伴う下肢のむくみ痛みしびれに適します。これが疎経活血湯との相違点です。排尿異常(2)漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。

ちょっと一言:(トピックス)

疎経活血湯の口訣(抜粋)

・本方は、瘀血水毒風寒を兼ねた病で、上肢よりも腰以下の症状に用います。四物湯が基本になった薬方です(三谷和合)。

・本方は、下肢の筋肉痛神経痛および股関節痛放散痛リウマチ性筋痛症に有効(山崎正寿)。

・本方の主治は、風寒湿痺証。軽度の瘀血血虚を伴う慢性化した関節筋肉の疼痛や腫大下肢の浮腫が使用目標(三浦於菟)。

(2025年10月9日 改訂公開)


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病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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