病気の悩みを漢方で

１．老年症候群の概要

　高齢者の治療や看護､介護の対象となる症候群は､老年症候群と称されます。
　老年症候群は､複数の疾患（disease）病態が絡み､多様な症状を併せ持ち､個別性が高い病（ﾔﾏｲ：ill feeling）を伴います（図１）。

　老年症候群は､病（個別の自覚症状）を治療の対象にする漢方医療の適した領域です。漢方では､個人の要望､価値観､生活圏を踏まえ､フレイル（虚弱）､軽度認知障碍を考慮しながら生活機能の維持を目指します。

２．老年症候群の漢方医学の病態

　老年症候群患者の漢方病態のイメージは､寒熱をｘ軸､虚実をｙ軸とする座標で､寒証（ｶﾝｼｮｳ）と虚証（ｷｮｼｮｳ）に相当する第３象限（ｼｮｳｹﾞﾝ）の領域です。

　図２の寒証は､温めると軽快する病態です。熱証（ﾈﾂｼｮｳ）はその逆です。

　虚証は､体力や生命維持活動や自然治癒力の不足した病態です。
　実証（ｼﾞﾂｼｮｳ）は､高脂質血症を伴うメタボ肥満の状態やストレス鬱積など邪気の停滞した状態です。総論３：虚実と寒熱を参照してください。

　図２で老年症候群の楕円が第３象限だけでなく第２や第４象限を含めているのは､寒熱や病理の虚実が併発する病態のあることを示唆しています。

2.1）老年症候群は病理の虚証が主体

　高齢になると正氣（ｾｲｷ：生命維持活動と自然治癒力）が低下し気血水（津液）の機能が低下した病理の虚証になります。高齢者の主な症状の病理を図３に示しました。 虚労（１）を参照してください。

　老年症候群の病理の虚証に用いられる主な生薬は､
　・補気薬（ﾎｷﾔｸ：補脾益肺）の人参（ﾆﾝｼﾞﾝ）
　・補血（ﾎｹﾂ）補腎陰（ﾎｼﾞﾝｲﾝ：益精 ｴｷｾｲ､生津 ｼﾝﾔｸ）の熟地黄（ｼﾞｭｸｼﾞｵｳ）､
　・補腎陽薬（ﾎｼﾞﾝﾖｳﾔｸ）の附子（ﾌﾞｼ）です（図４）。

　なお病理の虚証は､気血両虚のように互いに併発（夾雑･錯雑）するので､それに対する対応が必要です。

・十全大補湯（ｼﾞｭｳｾﾞﾝﾀｲﾎﾄｳ）は人参と熟地黄を含み気虚と血虚の併発した病態に適した補気補血剤です。フレイル（３）を参照してください。

・大防風湯（ﾀﾞｲﾎﾞｳﾌｳﾄｳ）は人参と熟地黄と附子を含み気虚と血虚と腎虚に適した補気補血補腎剤です。サルコペニアを参照してください。

2.2）老年症候群における病理の虚実の併発

　病理の虚証は病理の実証を誘発し病理の虚実が併発します。
　例えば､気（ｷ）の機能が低下した気虚になると､気血水（津液）の運行が失調して気滞（ｷﾀｲ）瘀血（ｵｹﾂ）水滞（ｽｲﾀｲ）痰飲（ﾀﾝｲﾝ）を誘発するわけです。
　腎虚（水分代謝機能の低下）は､水滞を誘発します。

　多くの方剤は病理の虚実の併発病態に対応できる生薬を配合しています。

・六君子湯（ﾘｯｸﾝｼﾄｳ）は､人参と半夏（ﾊﾝｹﾞ）と白朮（ﾋﾞｬｸｼﾞｭﾂ）を含み気虚と痰飲と水滞に適した補気化痰利水剤です。フレイル（２）を参照してください。

・真武湯（ｼﾝﾌﾞﾄｳ）は附子と白朮と茯苓（ﾌﾞｸﾘｮｳ）を含み腎虚と水滞と気虚に適した補腎利水補気剤です。疲労感（６）を参照してください。

３．老年症候群に用いられる主な漢方方剤

　老年症候群に用いられる主な方剤を図５に示しました。図中の黄色の楕円は気虚の病態を示しています。

　補中益気湯（ﾎﾁｭｳｴｯｷﾄｳ）が老年症候群の虚弱状態に頻用されます。漢方薬名の意味：補中益気湯を参照してください。
　なお老年症候群の病態に応じて図５に示したような多様な方剤が用いられています。次回以降に解説します。

　なお老年症候群に関して､虚労（１）や認知症（４）軽度認知障碍なども参照してください。