病気の悩みを漢方で

１．フレイル（抑うつ感）

　筋力が低下するフレイルでは活動量が低下して外出する回数が減ります。このとき抑うつ傾向になると人や地域との関わりがさらに減って孤立します。

　今回の「抑うつ感」と次回の「意欲低下」は精神的・社会的フレイルの主な症状です。これらは軽度認知障碍（MCI）の症状とも重なります。MCIに関してはちょっと一言を参照してください。

２．抑うつ感に用いられる柴胡（ｻｲｺ）

　柴胡（ｻｲｺ）は精神的ストレスがうっ積することによる抑うつ感、情緒不安定、いらだち、焦り、緊張や脇腹や腹部の膨満感などの気滞（ｷﾀｲ）病態を軽減する生薬です。

　日本漢方では小柴胡湯（ｼｮｳｻｲｺﾄｳ）などの柴胡を含む方剤を各種の症状に活用してきました。

　柴胡はミシマサイコの栽培1-2年目の根から調製されています（図１）。

３．抑うつ感・いらだちに用いられる主な柴胡配合剤

　柴胡（ｻｲｺ）の適応となる抑うつ感（気うつ感）や不安感は、いらだちや怒りと併発します。そのため柴胡（ｻｲｺ）は、竜骨（ﾘｭｳｺﾂ）、牡蛎（ﾎﾞﾚｲ）、厚朴（ｺｳﾎﾞｸ）、釣藤鈎（ﾁｮｳﾄｳｺｳ）などと組み合わせて用いられます（図２）。

　図２に示した柴胡加竜骨牡蛎湯（ｻｲｺｶﾘｭｳｺﾂﾎﾞﾚｲﾄｳ）と柴胡桂枝乾姜湯（ｻｲｺｹｲｼｶﾝｷｮｳﾄｳ）に関しては男性更年期障碍の漢方（２.いらだち､気うつ）で解説していますので参照してください。
　柴胡加竜骨牡蛎湯に関しては、円形脱毛症の漢方（１．ストレス）も参照してください。

４．小柴胡湯（ｼｮｳｻｲｺﾄｳ）の関連方剤

　柴朴湯は、気分がふさぐ抑うつ感、咽喉や食道部の異物感、脇腹のつかえ感､食欲不振、吐き気、咳嗽を伴うフレイルに適します。
　柴朴湯は小柴胡湯（図３のピンク色で囲んだ７生薬）と抑うつ感を軽減する半夏厚朴湯（図３の水色で囲んだ５生薬）を含みます。
　さらに柴朴湯は六君子湯（ﾘｯｸﾝｼﾄｳ）の６生薬を含む関連方剤ですから胃腸虚弱で食欲不振を伴うフレイルの人に適します。

4.2）柴蘇飲（ｻｲｿｲﾝ） 小柴胡湯＋香蘇散（ｺｳｿｻﾝ）

　柴蘇飲は、柴朴湯より胃腸虚弱な人の精神的な緊張や息詰まり（意欲低下・無力感､抑うつ感）や頭重感を伴うフレイルに適します。

５．抑肝散加陳皮半夏（ﾖｸｶﾝｻﾝ ｶ ﾁﾝﾋﾟﾊﾝｹﾞ）･･･神経の高ぶり､怒り

　抑肝散加陳皮半夏（ﾖｸｶﾝｻﾝ ｶ ﾁﾝﾋﾟﾊﾝｹﾞ）は、抑肝散（ﾖｸｶﾝｻﾝ）に陳皮（ﾁﾝﾋﾟ）と半夏（ﾊﾝｹﾞ）を加えた方剤です。
　本方は抑肝散と同様に神経がたかぶり、いらだち、怒り、不安､不眠を伴う
性急な人で胃もたれなど胃腸症状を伴う場合に用いられてきました。

　このことから、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏製剤は、認知症の前段階の軽度認知障碍（MCI）傾向のある精神的・社会的フレイルにも適します。

　抑肝散に関しては、かんしゃくの漢方（１．いらだち）も参照してください。