きぐすり.com は、漢方薬、女性の健康、サプリメント、ハーブの情報を専門家がやさしく解説しています。
病気の悩みを漢方で
柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
1.柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
柴胡桂枝乾姜湯の柴胡(サイコ)桂枝(ケイシ)乾姜(カンキョウ)は、本方の主な配合生薬です。これらの生薬の特徴的な組み合わせ(薬対 ヤクタイ)が含まれており、本方の適応病態が、少陽病、気上衝、冷えであることを示唆しています(図1)。
なお桂枝は日本では樹皮の桂皮(ケイヒ)が配合されています。
2.柴胡桂枝乾姜湯の適応
柴胡桂枝乾姜湯は、神経過敏、過緊張による種々の精神神経症状に用いられます。
臍上下部の動悸、不眠、頭部発汗、ロ乾、冷えのぼせ、驚きやすいなどです。漢方の心煩(シンパン)や煩驚(ハンキョウ)などの病態です。不眠(2)を参照してください。
本方は、少陽病の和解剤としてかぜ亜急性期やコロナ後遺症の倦怠感に使用されています。かぜ(2)やコロナ後遺症(2)を参照してください。
本方は、他者との対応に頑張り過ぎてがっくり疲れる状態に用いられます。ストレスを溜め込み、見るからに疲れた表情に見えます。
本方は、抑うつ不安を訴える虚証患者に頻用され、冷えを伴う不安障碍に対する症例報告があります。
産婦人科漢方研究のあゆみ. 2017; 34: 130-134.
本方は、心的外傷後ストレス障碍(PTSD)患者の過覚醒症状(不眠)を軽減した報告があります。
柴胡桂枝乾姜湯は、心的外傷後ストレス障碍(PTSD)患者の回避症状、過覚醒症状、侵入症状を非投与群より有意に改善。
ランダム化比較試験 Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2014; 1-6.
3.柴胡桂枝乾姜湯の配合生薬と関連方剤
柴胡桂枝乾姜湯の配合7生薬を図2に示します。
図1の中で、桂皮-甘草は、気逆を降ろし動悸を鎮める降衝鎮悸の薬対です。動悸(2)を参照してください。
本方の特徴は、柴胡、牡蛎(ボレイ)と栝楼根(カロコン)です(図3)。
柴胡は、抑うつ、いらだちを軽減する清熱性の理気疎肝薬(リキソカンヤク)です。
牡蛎は、動悸、不安、不眠を軽減する安神薬(アンシンヤク)です。
栝楼根は、津液不足(シンエキフソク)による口乾を潤す生津薬(セイシンヤク)です。
4.柴胡桂枝乾姜湯の関連方剤
4.1)柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)は、柴胡桂枝乾姜湯より精神神経症状が顕著で体力に余力があり熱証傾向に適します(図4)。
両方剤の配合生薬は、漢方薬名の意味:柴胡加竜骨牡蛎湯で比較しています。疲労感(4)や動悸(2)も参照してください。
4.2)柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)は、小柴胡湯(ショウサイコトウ:図5の桃色で囲んだ7生薬)と桂枝湯(ケイシトウ:図5の点線で囲んだ5生薬)からなります。
柴胡桂枝湯は、かぜ急性期の桂枝湯の適応病態から亜急性期の小柴胡湯の適応病態に用いられます。かぜ(2)や胃腸かぜを参照してください。
本方は、疲労感、食欲不振、腹痛に適することから虚弱児の体質改善に頻用されています。チックを参照してください。
本方は、いらだち、不眠、頭痛など精神神経症状にも用いられますが、抑うつ、不安、動悸、不眠、頭部発汗などの不定愁訴には柴胡桂枝乾姜湯が適します。
なお柴胡桂枝乾姜湯は最も虚証用の柴胡黄芩剤とされていますが、柴胡桂枝湯より柴胡と黄芩の配合量は多いので、両方剤の虚実はほぼ同等と考えられます。
4.3)加味逍遙散(カミショウヨウサン)は、冷えのぼせ、抑うつ、いらだち、発作性の発汗・のぼせ、カーッとくる熱感を伴う病態に用いられます。感情の起伏が大きく変動する多愁訴が特徴的な目標です。漢方薬名の意味:加味逍遙散を参照してください。
本方は、柴胡に加えて血証(ケッショウ:婦人更年期症状や冷えのぼせ)を軽減する活血(カッケツ)補血薬(ホケツヤク)を含む点で柴胡桂枝乾姜湯と異なっています(図6)。
柴胡桂枝乾姜湯は、冷え症傾向の婦人更年期神経症には血証に対処できるように補血活血利水剤の当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)と併用されています(漢方の臨床. 2015; 62: 145-155.)。
4.4)桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)は、桂枝湯(図7の黄色枠内の5生薬)に竜骨と牡蛎を加味した方剤です(図7)。
本方の基本となる桂枝湯は虚弱状態(≒軽度の気血両虚)を整える方剤ですので、柴胡桂枝乾姜湯より虚弱状態に適します。手足の冷え、多夢(性的な悪夢)、不眠、動悸を伴う疲労感、不安感、神経過敏、朝の調子が悪い人に用いられます。
本方と柴胡桂枝乾姜湯は、コロナ後遺症(2)や動悸(2)で比較しています。
安神薬に関しては、疲労感(1)を参照してください。
柴胡桂枝乾姜湯の口訣(抜粋)
・頭汗、口渇、気の上衝、胸腹の動悸を目標にする(三谷和合)。
・此の方は、苦労性とか心配性など気をつかう性質。外界の刺激に活発な反応態度とるが、その刺激がなくなると緊張が一気に緩んで疲労を感じる(坂口弘)。
・過剰適応傾向があり、体力がないのに相手に合わせて頑張り過ぎて倒れてしまう。医療者の印象より倦怠感が強いが、それを表現できない人(杉本貴美子)。
(2023年11月22日 公開)
漢方薬名を選ぶ!
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)
- 柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
- 柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
- 柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)
- 三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)
- 滋陰降火湯(ジインコウカトウ)
- 四逆散(シギャクサン)
- 十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)
- 潤腸湯(ジュンチョウトウ)
- 小柴胡湯(ショウサイコトウ)
- 小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
- 消風散(ショウフウサン)
- 辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
- 清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
- 清暑益気湯(セイショエッキトウ)
- 清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
- 清肺湯(セイハイトウ)
- 疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
漢方医療とは
- (1)現代医療における漢方製剤
- (2)漢方薬局における診察
- (3)漢方薬局における診断(1)虚実と寒熱
- (4)漢方薬局における診断(2)気血水
- (5)漢方薬局における診断(3)病期
- (6)漢方薬局における診断(4)五臓
- (7)漢方処方の剤形
- (8)漢方医療と民間療法
- (9)セルメと健康相談
症状と漢方薬
- (あ行)
- RSウイルス
- 足腰の衰え(虚弱)
- 足のむくみ
- アトピー性皮膚炎
- アルコール性肝炎
- アルツハイマー型認知症
- アレルギー性鼻炎
- 胃食道逆流症
- 胃腸かぜ
- 胃腸虚弱
- 胃腸虚弱(高齢者)
- 胃腸虚弱(フレイル)
- 胃痛
- 胃もたれ
- 意欲の低下
- 意欲低下(虚弱)
- イライラ
- イライラ(産後)
- インポテンツ
- ウイルス肝炎
- うつ感
- 運動器症候群
- 円形脱毛症
- おしっこの悩み(前立腺肥大)
- (か行)
- 顔色不良(虚弱)
- 過活動膀胱
- 過換気症候群(過呼吸)
- 霍乱
- かぜ(風邪)
- 肩・首筋のこり
- 過敏性腸症候群
- 下部尿路症状
- 花粉症
- がん
- かんしゃく
- 関節痛(冷え症)
- 関節リウマチ
- 感染性胃腸炎
- 乾燥肌
- 肝臓病
- 気うつ
- 気うつ(産後)
- 気管支炎
- 機能性ディスペプシア
- 虚労
- 起立性調節障碍
- 緊張型頭痛
- 筋肉減少症
- 軽度認知障碍
- 月経周期の乱れ
- 月経痛(冷え症)
- 月経痛(冷えのぼせ症)
- 月経不順(周期の長短)
- 月経不順(血の道症)
- 月経前症候群(PMS)
- げっぷ
- 下痢
- 下痢(ゲンノショウコ)
- 高血圧
- 高血圧傾向(虚弱)
- 高血糖
- 好酸球性副鼻腔炎
- 口内炎
- 後鼻漏
- 高齢者
- 五十肩
- 呼吸困難(COPD)
- こじれた咳(感冒)
- 骨粗鬆症
- 子どもがほしい
- こむら返り
- コロナ後遺症
- (さ行)
- サルコペニア
- 産後の回復不全
- 残尿感(前立腺肥大)
- CFS(慢性疲労症候群)
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 湿疹
- 脂肪肝
- しもやけ
- しゃっくり
- 主婦湿疹
- 暑気あたり
- 女性不妊
- 自律神経失調症
- 脂漏性湿疹
- 尋常性乾癬
- 尋常性ざ瘡
- 頭重感
- 頭痛
- 頭痛(しめつける痛み)
- 頭痛(低気圧)
- 頭痛(婦人更年期障碍)
- ストレス胃
- 生理痛(冷え症)
- 生理痛(冷えのぼせ症)
- 生理不順(血の道症)
- 精力低下(男性)
- せき(咳)
- 咳(こじれた感冒)
- 脊柱管狭窄症
- 喘息
- 喘息(発作)
- 喘息(寛解)
- 前立腺肥大
- GERD
- (た行)
- たん(痰)
- 男性更年期障碍
- 男性不妊
- 蓄膿症
- 血の道症
- チック
- 痛風
- 手足口病
- 手足のしびれ(糖尿病)
- 低気圧頭痛
- 天気痛
- 動悸
- 凍瘡
- 糖尿病
- (な行)
- 内臓脂肪症候群(糖尿病)
- ながびく咳(感冒)
- 夏かぜ
- NASH
- 夏バテ
- 夏やせ
- 2型糖尿病
- にきび
- 尿意切迫
- 尿失禁
- 尿路結石
- 尿路不定愁訴
- 妊娠力をつけたい
- 認知症
- 脳血管性認知症
- 熱中症
- 脳梗塞と脳出血
- のぼせ感
- ノロウイルス下痢
- (は行)
- 肺気腫(COPD)
- 排尿異常
- 鼻アレルギー
- 鼻かぜ
- 鼻づまり
- 鼻水
- 非アルコール性肝炎
- 冷え症
- 冷えのぼせ症
- 鼻炎
- 皮膚炎
- 皮膚瘙痒症
- 肥満
- 肥満(糖尿病)
- 疲労感
- 頻尿
- PMS(月経前症候群)
- 不安定膀胱
- プール熱
- 腹痛
- 副鼻腔炎
- 婦人更年期障碍
- 不眠
- 不眠(産後)
- フレイル(虚弱)
- ヘルパンギーナ
- 変形性膝関節症
- 片頭痛
- 便通異常
- 便秘
- 膀胱結石
- (ま行)
- マタニティー・ブルー
- 慢性胃炎
- 慢性気管支炎(COPD)
- 慢性の咳(COPD)
- 慢性疲労症候群(CFS)
- 慢性閉塞性肺疾患
- むくみ(足のむくみ)
- 無月経
- 胸やけ
- メタボ肥満
- メタボリック・シンドローム(糖尿病)
- めまい
- めまい(婦人更年期障碍)
- (や行)
- 夜間頻尿
- やせと栄養失調
- 腰痛
- 抑うつ感
- 抑うつ感(虚弱)
- 夜泣き
- (ら行)
- 冷房下痢
- 老年症候群
- ロコモ