きぐすり.com は、漢方薬、女性の健康、サプリメント、ハーブの情報を専門家がやさしく解説しています。
病気の悩みを漢方で

動悸の漢方
前回の図2に示した動悸に用いられる方剤解説を続けます。
1.女神散(ニョシンサン)と関連方剤
1.1)女神散は、のぼせ(心火上炎 シンカジョウエン≒気逆 キギャク)を伴う熱証の動悸に用いられます。本方は、
・気逆を鎮める桂皮-甘草(降衝鎮悸)と心火上炎(シンカジョウエン:のぼせ、めまい、頭痛、いらだち、不安)を冷ます黄連(オウレン:清心瀉火)に加えて、
・気滞(抑うつ、胸苦しい、心窩部の膨満感)を軽減する香附子(コウブシ)、
・気血両虚(疲れやすい、月経不順)を補う人参(ニンジン)当帰(トウキ)を含みます(図1)。
本方は、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)の清熱性を緩和して適応病態を拡大した方剤です。漢方薬名の意味:女神散を参照してください。
1.2)黄連解毒湯は、のぼせ、めまい、頭痛、いらだち、不安、不眠を伴う動悸に用いられます。
本方は、黄連を主薬とする4種の清熱性の降気薬(コウキヤク)で心火上炎を冷やして鎮めます。不眠(2)を参照してください。
2.柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)と関連方剤
2.1)柴胡加竜骨牡蛎湯は、血圧の変動を気にしすぎる人の動悸に適します。動悸以外に気滞(キタイ:抑うつ、いらだち、膨満感)と心神不安(シンシンフアン:不安、驚きやすい、不眠)を伴います。心神不安は、疲労感(1)を参照してください。
柴胡加竜骨牡蛎湯が、交感神経系の抑制と副交感神経系の軽度な亢進を介して動悸を軽減した報告があります。
(日本心身医学研究. 2008; 23: 32-36.)
本方は降気薬の桂皮と理気薬(リキヤク)の柴胡(サイコ)と安神薬(アンシンヤク)の竜骨(リュウコツ:大型動物の骨の化石)と牡蛎(ボレイ:かきの貝殻)を含む理気降気・安神剤です(大黄 ダイオウを配合した製剤もあります)。漢方薬名の意味:柴胡加竜骨牡蛎湯を参照してください。
2.2)柴胡桂枝乾姜湯は、動悸に用いられる桂皮-甘草の薬対と安神薬の牡蛎を含む柴胡剤です。 柴胡加竜骨牡蛎湯より冷え症傾向、他者に過剰に適応した後の疲労感など体力の低下した人の動悸に適します。不眠(2)で両方剤を比較しています。
柴胡桂枝乾姜湯は、コロナ後遺症の微熱、頭痛、倦怠感、不眠、動悸に用いられています。途中で半夏厚朴湯や桂枝加竜骨牡蛎湯が併用されています。
2.3)桂枝加竜骨牡蛎湯は、虚弱状態(営衛不和 エイエフワ≒気血両虚)を整える桂枝湯(ケイシトウ)に竜骨と牡蛎を加味した方剤です。桂皮-甘草の薬対を含みます。
本方は、体力が低下し倦怠感を伴う動悸に適します。多夢(性的な悪夢)による睡眠障碍や朝の調子が良くない神経過敏な人に適します。疲労感(5)を参照してください。
3方剤の特徴を比較しました(図2)。左から右にかけて、日本漢方の体力の虚証から実証傾向の順に配列しました。
3方剤の配合生薬は、疲労感(4)で比較しています。
3.炙甘草湯(シャカンゾウトウ)と関連方剤
3.1)炙甘草湯は、体力低下者の(頻脈を伴う)動悸に用いられます。古典の適応症状は「脈結代(≒不整脈)、心動悸」とされています。
虚弱状態は、疲労倦怠感、動作時の息切れ(気虚 キキョ)と皮膚乾燥、乾性咳嗽、口乾乾燥舌(津液不足 シンエキフソク)から類推します。顔や手の平のほてり、盗汗などの津液不足による虚熱(キョネツ)も見られます。
本方は、補血生津薬(ホケツセイシンヤク:図3の灰色枠内の4生薬)の配合比率が高く、そこに補気薬と動悸を軽減する桂皮-甘草の薬対を配合した補益剤です。
炙甘草湯は、易疲労と皮膚乾燥を伴う精神的要因の関与する動悸に用いられています。
(漢方の臨床. 2018; 65: 695-699.)
3.2)帰脾湯(キヒトウ)は、食が細く心身が疲れて血色の悪い人の不安感、意欲低下、抑うつ傾向に用いられます。朝起きにくい、眠りが浅いなど眠りに関する訴えに用いられることが多い方剤ですが、動悸にも用いられます。
本方は、補気剤の四君子湯(シクンシトウ:図3の黄色枠の6生薬)に安神薬(図3の黄緑色枠の3生薬)と補血薬の竜眼肉(リュウガンニク)当帰(トウキ)を加味した方剤です。動悸の軽減に寄与する白朮と茯苓も含まれています。漢方薬名の意味:帰脾湯を参照してください。
以上、気逆の関与する動悸に用いられる方剤を解説しました。桂皮-甘草の薬対を含む方剤は、前回の苓桂朮甘湯の他に複数あることがわかりました(図4)。
図4の中で、女神散は熱証傾向に用いられます。苓桂朮甘湯は水滞が鑑別点です。黄緑枠の2方剤(安神剤)は、不安など神経過敏状態が特徴です。
炙甘草湯は、乾燥病態が目標になります。

動悸に伴う症状
動悸の漢方医療では、動悸に伴う症状群か漢方の病理病態を判断して方剤を選びます。
めまい、頭痛、むくみ(水滞)、いらだち、のぼせ、いらだち(気逆)、抑うつ、不安、不眠(心神不安)、冷え症、疲労倦怠感(気血両虚や腎陽虚)など。
動悸の漢方相談では、全身の違和感を詳しく話してください。
(2023年10月30日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


漢方医療とは
- (1)現代医療における漢方製剤
- (2)漢方薬局における診察
- (3)漢方薬局における診断(1)虚実と寒熱
- (4)漢方薬局における診断(2)気血水
- (5)漢方薬局における診断(3)病期
- (6)漢方薬局における診断(4)五臓
- (7)漢方処方の剤形
- (8)漢方医療と民間療法
- (9)セルメと健康相談
症状と漢方薬
- (あ行)
- RSウイルス
- 足腰の衰え(虚弱)
- 足のむくみ
- アトピー性皮膚炎
- アルコール性肝炎
- アルツハイマー型認知症
- アレルギー性鼻炎
- 胃食道逆流症
- 胃腸かぜ
- 胃腸虚弱
- 胃腸虚弱(高齢者)
- 胃腸虚弱(フレイル)
- 胃痛
- 胃もたれ
- 意欲の低下
- 意欲低下(虚弱)
- イライラ
- イライラ(産後)
- インフルエンザ
- インポテンツ
- ウイルス肝炎
- うつ感
- 運動器症候群
- 円形脱毛症
- おしっこの悩み(前立腺肥大)
- (か行)
- 顔色不良(虚弱)
- 過活動膀胱
- 過換気症候群(過呼吸)
- 霍乱
- かぜ(風邪)
- 肩・首筋のこり
- 過敏性腸症候群
- 下部尿路症状
- 花粉症
- がん
- かんしゃく
- 関節痛(冷え症)
- 関節リウマチ
- 感染性胃腸炎
- 乾燥肌
- 肝臓病
- 気うつ
- 気うつ(産後)
- 気管支炎
- 機能性ディスペプシア
- 虚労
- 起立性調節障碍
- 緊張型頭痛
- 筋肉減少症
- 軽度認知障碍
- 月経周期の乱れ
- 月経痛(冷え症)
- 月経痛(冷えのぼせ症)
- 月経不順(周期の長短)
- 月経不順(血の道症)
- 月経前症候群(PMS)
- げっぷ
- 下痢
- 下痢(ゲンノショウコ)
- 高血圧
- 高血圧傾向(虚弱)
- 高血糖
- 好酸球性副鼻腔炎
- 口内炎
- 後鼻漏
- 高齢者
- 五十肩
- 呼吸困難(COPD)
- こじれた咳(感冒)
- 骨粗鬆症
- 子どもがほしい
- こむら返り
- コロナ後遺症
- (さ行)
- サルコペニア
- 産後の回復不全
- 残尿感(前立腺肥大)
- CFS(慢性疲労症候群)
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 湿疹
- 脂肪肝
- しもやけ
- しゃっくり
- 主婦湿疹
- 暑気あたり
- 女性不妊
- 自律神経失調症
- 脂漏性湿疹
- 尋常性乾癬
- 尋常性ざ瘡
- 頭重感
- 頭痛
- 頭痛(しめつける痛み)
- 頭痛(低気圧)
- 頭痛(婦人更年期障碍)
- ストレス胃
- 生理痛(冷え症)
- 生理痛(冷えのぼせ症)
- 生理不順(血の道症)
- 精力低下(男性)
- せき(咳)
- 咳(こじれた感冒)
- 脊柱管狭窄症
- 喘息
- 喘息(発作)
- 喘息(寛解)
- 前立腺肥大
- GERD
- (た行)
- たん(痰)
- 男性更年期障碍
- 男性不妊
- 蓄膿症
- 血の道症
- チック
- 痛風
- 手足口病
- 手足のしびれ(糖尿病)
- 低気圧頭痛
- 天気痛
- 動悸
- 凍瘡
- 糖尿病
- (な行)
- 内臓脂肪症候群(糖尿病)
- ながびく咳(感冒)
- 夏かぜ
- NASH
- 夏バテ
- 夏やせ
- 2型糖尿病
- にきび
- 尿意切迫
- 尿失禁
- 尿路結石
- 尿路不定愁訴
- 妊娠力をつけたい
- 認知症
- 脳血管性認知症
- 熱中症
- 脳梗塞と脳出血
- のぼせ感
- ノロウイルス下痢
- (は行)
- 肺気腫(COPD)
- 排尿異常
- 鼻アレルギー
- 鼻かぜ
- 鼻づまり
- 鼻水
- 非アルコール性肝炎
- 冷え症
- 冷えのぼせ症
- 鼻炎
- 皮膚炎
- 皮膚瘙痒症
- 肥満
- 肥満(糖尿病)
- 疲労感
- 頻尿
- PMS(月経前症候群)
- 不安定膀胱
- プール熱
- 腹痛
- 副鼻腔炎
- 婦人更年期障碍
- 不眠
- 不眠(産後)
- フレイル(虚弱)
- ヘルパンギーナ
- 変形性膝関節症
- 片頭痛
- 便通異常
- 便秘
- 膀胱結石
- (ま行)
- マタニティー・ブルー
- 慢性胃炎
- 慢性気管支炎(COPD)
- 慢性の咳(COPD)
- 慢性疲労症候群(CFS)
- 慢性閉塞性肺疾患
- むくみ(足のむくみ)
- 無月経
- 胸やけ
- メタボ肥満
- メタボリック・シンドローム(糖尿病)
- めまい
- めまい(婦人更年期障碍)
- (や行)
- 夜間頻尿
- やせと栄養失調
- 腰痛
- 抑うつ感
- 抑うつ感(虚弱)
- 夜泣き
- (ら行)
- 冷房下痢
- 老年症候群
- ロコモ
漢方薬名を選ぶ!
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)
- 柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
- 柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
- 柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)
- 三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)
- 滋陰降火湯(ジインコウカトウ)
- 四逆散(シギャクサン)
- 十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)
- 潤腸湯(ジュンチョウトウ)
- 小柴胡湯(ショウサイコトウ)
- 小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
- 消風散(ショウフウサン)
- 辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
- 参蘇飲(ジンソイン)
- 清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)
- 清暑益気湯(セイショエッキトウ)
- 清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
- 清肺湯(セイハイトウ)
- 疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)