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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

虚労の漢方

(1)病理の虚証
(2)虚実錯雑 (3)咳嗽

1.虚労(キョロウ)の病理

 虚労病理の虚証を主因とする慢性の衰弱病態です。病理の虚証正氣(セイキ:生命維持活動と自然治癒力)を担う気血水津液)や五臓の不足です。ストレス、過労、不摂生、慢性疾患、加齢が誘因になります(図1)。

 なお虚労病理の虚証だけでなく、虚証と併発する気滞(キタイ)や痰飲(タンイン)などの病理の実証と錯雑した病態になります。次回で考えます。

2.病理の虚証による虚労に用いられる主な生薬

 病理の虚証による虚労に用いられる主な生薬は、
 ・気虚を補う人参(ニンジン)黄耆(オウギ)や膠飴(コウイ)
 ・血虚を補う熟地黄(ジュクジオウ)当帰(トウキ)や酸棗仁(サンソウニン)
 ・津液不足(シンエキフソク)を潤す熟地黄山茱萸(サンシュユ)麦門冬(バクモンドウ)
 ・腎虚を温める附子(ブシ)と潤す熟地黄山薬(サンヤク)などです。

 中でも熟地黄血虚を補う補血(ホケツ)、津液不足を潤す生津(セイシン)、腎陰虚(ジンインキョ)を潤す補腎(ホジン)の薬能を有し虚労を改善する重要生薬です。

 虚労に用いられる主な生薬を図2に示しました。

3.虚労気虚)に用いられる主な補気剤

 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)が胃腸虚弱や慢性疾患による気虚による虚労疲労倦怠感だるさ易感染性)に用いられる基本方剤です。

 補中益気湯の次の一手として、腹痛があれば黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)、冷え軟便下痢傾向であれば人参湯(ニンジントウ)などの温中補気剤の適応になります。
 図3の右側の下線を付した赤字をクリックすれば当該項目を参照できます。

4.虚労気虚血虚)に用いられる主な補気補血剤

 十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は気虚血虚が併発した虚労に頻用されます。補気薬人参補血薬熟地黄を含みます。漢方薬名の意味:十全大補湯を参照してください。
 病態に応じて、不安を軽減する安神薬(アンシンヤク)の遠志(オンジ)を含む人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)や不眠を軽減する帰脾湯(キヒトウ)も用いられます(図4)。

5.虚労津液不足)に用いられる主な生津剤(セイシンザイ)

 血虚が進展すると乾燥と口乾、ほてり(煩熱)を伴う津液不足になります。補血生津薬熟地黄生津薬麦門冬の適応になります。

 体力が低下し長引く乾性咳嗽には滋陰降火湯(ジインコウカトウ)、動悸息切れには炙甘草湯(シャカンゾウトウ)、胃腸虚弱で口や舌の乾燥と排尿異常を伴う時には清心蓮子飲(セイシンレンシイン)が用いられます(図5)。

6.虚労腎虚)に用いられる主な補腎剤(ホジンザイ)

 八味地黄丸(ハチミジオウガン)が加齢や慢性疾患に伴う機能低下に用いられる代表的な補腎剤です。乾燥を潤す熟地黄山茱萸山薬と冷えと痛みを軽減する附子を含みます。牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は関連方剤です。
 腎虚(ジンキョ)は加齢に伴う生殖泌尿器・運動器、視力、聴力の機能低下、髪、歯、骨の衰退を伴う病態です。漢方薬名の意味:牛車腎気丸を参照してください。

 腎虚気血両虚による関節腫痛や麻痺には大防風湯(ダイボウフウトウ)、疲れ易く神経過敏な人の冷え動悸不眠には桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)が用いられます(図6)。

ちょっと一言:(トピックス)

虚労を軽減する基本3方剤

 虚労に用いられる主な方剤は以下の3方から始めます。
 ・胃腸虚弱と内臓下垂、だるさ補中益気湯図3参照)
 ・胃腸虚弱と皮膚乾燥顔色不良十全大補湯図4参照)
 ・足腰の衰え、腰冷痛、排尿異常八味地黄丸図6参照)

 これらの基本方剤の「次の一手」も紹介しました。
 適切に使い分けるには、適応症状となる漢方病理と配合生薬の薬能を考慮することが重要です。

(2022年5月12日 公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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