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病気の悩みを漢方で
1.アトピー性皮膚炎の全身病態の調整
アトピー性皮膚炎の漢方治療では皮疹の対症療法(標治 ヒョウチ)と虚弱状態や精神神経症状などの全身病態を調整する本治 (ホンチ)を組み合わせます(図1)。
アトピーの1回目を参照してください。
今回と次回にわたってアトピー性皮膚炎の全身病態を気血水(津液)の病理の虚証と実証に分けてそれぞれを調整する方剤群を解説します。
なお花粉症の漢方(2)寛解期の治療でも同様の観点で寛解期における本治を解説しています。
2.アトピー性皮膚炎の全身病態(病理の虚証)
寛解期の病理の虚証を補う本治に用いられる主な方剤を図2に示しました。
3.気虚(キキョ:消化吸収機能の低下)と補気剤(ホキザイ)
3.1)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は皮疹治療剤の消風散(ショウフウサン)や柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)と併用される本治剤の第一選択薬です。
本方は消化吸収機能を調え疲れやすく倦怠感、手足のだるさ、かぜを引きやすく長引く状態を軽減します。このような虚弱状態が気虚(キキョ)です(図3)。
本方には「目に勢いがなく声に力がない」という口訣(クケツ:使用上のコツ)が伝えられています。
漢方薬名の意味:補中益気湯を参照してください。
補中益気湯には、気虚を有する成人難治性の患者のステロイド薬などの外用薬の使用量を削減し皮疹の寛解を維持できた臨床報告があります。
補中益気湯(とステロイド、タクロリムス外用薬と併用:24週間投与)は、アトピー性皮膚炎患者の外用薬量をプラセボ群より有意に減少。補中益気湯群の皮疹評価点数は改善傾向であるが、プラセボ群と有意差は認められなかった。
ランダム化比較試験 Evid. Based Complement Alternat. Med., 2010; 7: 367-73.
補中益気湯の臨床効果を説明する薬効薬理研究も進んでいます。
補中益気湯:インターフェロン(IFN)-γ産生誘導
⇒Th1細胞の分化誘導(⇒感染免疫能増強)
⇒Th2細胞の異常亢進抑制(⇒IgE抗体産生能低下⇒アレルギー反応抑制)
補中益気湯:皮膚バリア機能障碍を軽減
3.2)黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)や小建中湯(ショウケンチュウトウ)は腹痛や便通異常、疲労倦怠感を伴う全身病態の調整に使用されます。甘くて飲みやすいので小児に適します。
これらの建中湯類は筋緊張傾向の病態に適します。一方、補中益気湯は筋の緊張が低下した気陥(キカン)による四肢のだるさや内臓下垂に適します。
建中湯類と補中益気湯の比較は漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
3.3)六君子湯(リックンシトウ)は胃もたれや吐き気心窩部つかえ感(痰飲 タンイン:図4)に適した補気・化痰剤(ケタンザイ)です。
胃もたれの漢方を参照してください。
本方と補中益気湯は共に胃腸虚弱に適しますが、六君子湯は胃もたれや吐き気を軽減する化痰薬の半夏(ハンゲ)と茯苓(ブクリョウ)を含むことが補中益気湯との相違点です。
4.血虚(ケッキョ:乾燥)と補血剤(ホケツザイ)
4.1)十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)は疲労倦怠感、顔色不良、皮膚乾燥、冷え症を伴う全身病態の調整に適します。
本方は熟地黄(ジュクジオウ)を含む四物湯(シモツトウ)と四君子湯(シクンシトウ)を組み合わせた補気補血剤です。漢方薬名の意味:十全大補湯を参照してください。
地黄の重複に注意: 十全大補湯を消風散や柴胡清肝湯などの皮疹治療剤と併用すると地黄が重複し「食欲不振、胃もたれ」などが発現する可能性が高くなります。
その点で地黄を含まない補中益気湯の併用が適します。
4.2)帰脾湯(キヒトウ)は十全大補湯と同様の虚弱乾燥病態に加えて不眠、不安、抑うつ傾向のあるときに適する方剤です。
帰脾湯は地黄を含まない補気補血剤なので、地黄の重複を気にすることなく皮疹治療剤と併用することができます。
帰脾湯の適する病態に胸苦しさ、いらだちなどの精神症状があるときには加味帰脾湯(カミキヒトウ)が用いられます。漢方薬名の意味:帰脾湯を参照してください。
4.3)柴胡清肝湯(一貫堂方 15味)は、四物湯の適応になる乾燥皮疹と黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)の適応となる熱感や化膿した湿潤部位もある病態に適した補血滋潤(ジジュン)清熱(セイネツ)剤です。漢方薬名の意味:柴胡清肝湯を参照してください。
本方は黄連(オウレン)や柴胡(サイコ)を含み神経過敏や不眠を軽減する降気(コウキ)や理気(リキ)の薬能もあるので全身病態の調整にも適します。
4.4)六味丸(ロクミガン)は熟地黄を含む補腎生津(セイシン)剤です。疲れやすい、排尿異常という腎虚(ジンキョ)と皮膚乾燥、足の裏のほてりを伴う全身病態を調整します。ただし胃腸障碍のない人に用います。
皮膚瘙痒症(2)熱感とほてりを参照してください。
アトピー性皮膚炎の全身病態の調整(本治)に関する口訣:
皮膚は、内臓(とくに脾胃:胃腸)の、生活の、心の、環境の、季節の “鏡” である(広瀬滋之)
この口訣には全身病態を調整する方剤を選ぶときに患者情報を蒐集する要点がまとめられています。
全身病態の調整剤の用法用量
アトピー性皮膚炎の漢方医療では皮疹治療剤と全身病態を調整する方剤を「個々の病態に応じて」併用されます。
投与時期: 皮疹治療と全身調整を同時に進めるか、投与時期をずらすかは個々に異なります。
投与量比: 皮疹治療剤と併用剤の投与量比も症例毎に様々です。
ただし併用によって特定生薬が重複する場合には、本文に記したように副作用発現に注意する必要があります。
(2021年4月12日 公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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