病気の悩みを漢方で

１．アトピー性皮膚炎の全身病態（病理の実証）

　今回はアトピー性皮膚炎寛解期の全身病態において病理の実証に用いられる方剤を解説します（図１）。

　なお六君子湯（ﾘｯｸﾝｼﾄｳ）は気虚（ｷｷｮ）を補うので前回の病理の虚証でも解説しました。本方は病理の実証の痰飲（ﾀﾝｲﾝ）を軽減する化痰剤（ｹﾀﾝｻﾞｲ）でもあるので今回も記載しています。
　このように病理の虚証と実証は併発します。気血水を参照してください。

２．気逆と気滞（精神神経症状）の調整

　皮疹増悪の誘因となるいらだちは気逆（ｷｷﾞｬｸ）､不安や抑うつ感は気滞（ｷﾀｲ）です。降気剤（ｺｳｷｻﾞｲ）や理気剤（ﾘｷｻﾞｲ）の適応になります。

2.1）抑肝散（ﾖｸｶﾝｻﾝ）と抑肝散加陳皮半夏（ﾖｸｶﾝｻﾝｶﾁﾝﾋﾟﾊﾝｹﾞ）はいらだち､怒りなど神経の高ぶり､不眠を伴うアトピー性皮膚炎寛解期の全身病態の調整に用いられます。夜泣きや漢方薬名の意味：抑肝散を参照してください。

2.2）加味逍遙散（ｶﾐｼｮｳﾖｳｻﾝ）は､いらだち､冷えのぼせ､不安を伴う全身病態の調整に用いられます。
　本方は理気･降気に加えて補血（ﾎｹﾂ）活血（ｶｯｹﾂ）の薬能を有します。
　乾燥傾向の皮疹には四物湯（ｼﾓﾂﾄｳ）を加味して使用します。

2.3）柴胡清肝湯（ｻｲｺｾｲｶﾝﾄｳ 一貫堂方）は補血･滋潤と理気･降気活血の薬能を有します。皮疹治療薬であり寛解期の全身病態を調整する方剤でもあります。

2.4）その他の方剤：　いらだち､不安などの精神神経症状は皮疹の発症病理と関係の乏しい不定愁訴です。これにはアトピー性皮膚炎という病名にとらわれず､自律神経失調症（３）で紹介した柴胡加竜骨牡蛎湯（ｻｲｺｶﾘｭｳｺﾂﾎﾞﾚｲﾄｳ）などの方剤も適応になります。

３．瘀血（ｵｹﾂ 血行不良病態）と活血剤（ｶｯｹﾂｻﾞｲ）

　炎症やかゆみが慢性化し苔癬化したアトピー性皮膚炎の全身病態の調整には活血剤が用いられます。投薬目標は冷えのぼせ､暗赤色の口唇･歯肉､肌荒れ､月経不順などです。

3.1）桂枝茯苓丸（ｹｲｼﾌﾞｸﾘｮｳｶﾞﾝ）は頻用される活血剤です。苔癬化した皮疹の軽減に有用だとする臨床報告があります。
　肌荒れを伴う時には本方に薏苡仁（ﾖｸｲﾆﾝ：ハトムギの種子）を加味した製剤が用いられます（図３）。

3.2）温経湯（ｳﾝｹｲﾄｳ）は冷え症で手足のほてりを伴う乾燥皮疹に適します。皮膚瘙痒症（１）皮膚の乾燥を参照してください。
　本方は活血と散寒（ｻﾝｶﾝ）補血･生津（ｾｲｼﾝ）および補気薬を含み寛解期の全身病態の調整も兼ねる方剤です。

４．水滞（むくみ）痰飲（吐き気）の調整

　全身の水滞（むくみ､めまい､重だるさ､下痢）には､利水（ﾘｽｲ）と胃腸を調える補気を兼ねる茯苓（ﾌﾞｸﾘｮｳ）や朮（ｼﾞｭﾂ）を含む方剤の適応になります。

4.1）五苓散（ｺﾞﾚｲｻﾝ）は主要な利水剤です（図４の水色で囲んだ５生薬）。むくみ､頭痛､吐き気など二日酔いに似た症状に適します。

4.2）柴苓湯（ｻｲﾚｲﾄｳ）は五苓散と小柴胡湯（ｼｮｳｻｲｺﾄｳ）の合剤です（図４）。ステロイド剤を内服中の場合はステロイドの節約効果を期待して使用されます。

4.3）柴朴湯（ｻｲﾎﾞｸﾄｳ）は小柴胡湯と半夏厚朴湯（ﾊﾝｹﾞｺｳﾎﾞｸﾄｳ）を組み合わせた理気化痰剤（ﾘｷｹﾀﾝｻﾞｲ）です。寛解期の抑うつ傾向､不安､吐き気に適します。本方もステロイド剤の節約効果も期待できます。
喘息（３）寛解期を参照してください。