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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

1.かぜに伴う咳嗽

 今回はかぜの咳嗽の症状変化に対応する方剤群をまとめます。かぜの咳嗽には麻黄(マオウ)柴胡(サイコ)麦門冬(バクモンドウ)を含む方剤を病期や喀痰の性状や全身病態に応じて使い分けます。かぜ(3)を参照してください。

2.かぜ急性期の咳嗽に用いられる主な麻黄配合剤

(マキョウカンセキトウ)は黄色粘稠痰熱痰)を伴う強い湿性咳嗽に用いる漢方咳止め薬です。熱感や口渴を伴います。
 本方に桑白皮(ソウハクヒ:瀉肺平喘)を加味した方剤が五虎湯(ゴコトウ)です。両方剤を連用する時には二陳湯(ニチントウ)や小柴胡湯(ショウサイコトウ)と併用します。

(マオウトウ)は少量の無色痰を伴う湿性咳嗽に用いられます。かぜ急性期の悪寒>発熱、頭痛、無汗、節々の痛みを伴う時に適します。

(ショウセイリュウトウ)は、多量の水様性無色喀痰を伴う湿性咳嗽や水様性鼻水くしゃみなど鼻炎症状に適します。花粉症(1)を参照してください。

 小青竜湯合麻杏甘石湯小青竜湯杏仁石膏)は、小青竜湯麻杏甘石湯の病態が併発した病証に適します(一般用製剤として市販されています)。

3.かぜ亜急性期の咳嗽に用いられる主な柴胡配合剤

(シンピトウ)は、麻黄湯麻杏甘石湯柴朴湯(サイボクトウ)の主要生薬を含む麻黄-柴胡剤です。
 かぜ後の痰の少ない乾性咳嗽喘鳴胸苦しさ呼吸困難に用いられます。抑うつ感いらだちを伴う場合に適します。

(サイボクトウ)は、小柴胡湯半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)を合わせた方剤です。痰を伴う湿性咳嗽に用いられます。胸元やのどのつかえ感不安を伴う時に適します。
 喘息寛解期の発作予防に頻用されます。喘息(3)を参照してください。

(サイカントウ)は、小柴胡湯清熱薬黄連(オウレン)と清熱化痰止咳薬栝楼仁(カロニン)を加味した方剤です。黄色い粘稠性の熱痰があり胸痛を伴う強い湿性咳嗽に用いられます。心窩部のつかえ感口苦感も伴います。

4.かぜ後の長引く咳嗽に用いられる主な麦門冬配合剤

(バクモンドウトウ)は、少量の燥痰を伴う乾性咳嗽(空咳)の第一選択薬です。顔面紅潮を伴う発作性の咳き込みに適します。咽喉乾燥感(のどのイガイガ感)や全身の乾燥病態を伴います。

(チクジョウンタントウ)は、やや多い粘稠痰(熱痰)を伴う湿性咳嗽に用いられます。夜間咳が安眠を障碍します。不眠抑うつ胸苦しさ怯えいらだち、胃もたれを伴う病態に適します。漢方薬名の意味:竹筎温胆湯を参照してください。

(セイハイトウ)は、多量の黄色(膿性)粘稠痰(熱痰)を伴う慢性の湿性咳嗽の第一選択薬です。
 清肺湯は多量の喀痰を除く去痰が主体で、麦門冬湯は気道の過敏性を軽減する鎮咳が主体です。

5.かぜの咳嗽に用いられるその他の方剤

(ジンソイン)は、かぜ初期から亜急性期の普通かぜの湿性咳嗽に頻用される漢方の総合感冒薬です。咳嗽をはじめ軽度の発熱や食欲不振吐き気肩こりを伴う胃腸虚弱者や高齢者のかぜに適します。胃腸かぜを参照してください。
 麻黄配合剤の投与時に胃腸を調える目的で併用されます。夏かぜ(1)を参照してください。

(リョウカンキョウミシンゲニントウ)は、胃腸虚弱者冷え症の人の湿痰寒痰を伴う湿性咳嗽、鼻水、くしゃみに用いられます。
 本方の適応となる湿咳や鼻水症状は小青竜湯の適応に類似します。表証(発熱、頭痛)がないので辛温解表薬(シンオンゲヒョウヤク)の桂皮麻黄を含みません。これが本方と小青竜湯の使い分けを考える要点です(図4)。

ちょっと一言:(トピックス)

咳が10日以上続く場合は、要注意

 市販の漢方製剤を10日ほど飲んでも咳嗽が治まらない場合は、かぜ(感冒)以外の疾患が潜んでいるかもしれません。
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核、肺炎マイコプラズマ、あるいは服用中の医療用薬の副作用が原因かもしれません。

 これらはセルフメディケーション(自己管理治療)の範囲を越えています。かかりつけの医師に喀痰の性状、咳嗽と全身症状を相談してください。

(2022年1月12日 改訂公開)


病気の悩みを漢方で

谿 忠人 先生

大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了

  • 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
  • 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
  • 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
  • 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
  • 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
  • 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
  • 大阪大谷大学名誉教授。
  • 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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