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病気の悩みを漢方で

総論
1.疾患と病いの薬物治療の論理
薬物治療では、診察と病態診断を経て治療薬物が論理的に選ばれます。
・現代科学医療は検査で疾患(disease)を解析し薬理で化学薬品を選びます。
・漢方医療は患者さんとの対話で病い・違和感(ill feeling)を感得し証(ショウ:漢方医学の病態)を判断し薬能(ヤクノウ)で生薬や方剤を選びます。
現代科学医療の病名診断と実験科学の薬理が、漢方医学の証と経験的効能論の薬能に相当します(図1)。

2.漢方医学の診断(証)
証は、患者の病態(個性や症状)を漢方医学の基本概念で整理して「その人」の「その時点」に適切な生薬や方剤を決める診断です。
証(ショウ)は、投与候補の方剤にうまく反応する病人(responder)を選び、有害作用の発現する可能性のある病人を避けるための予測診断だと言えます。
証診断の最終段階では、診断過程で想定した複数の候補方剤を比較する鑑別診断が含まれます。
証診断は、図2のような項目を踏まえて判断されます。ここでは1、2、5)の項目を解説します。

3.診断項目1)どのような人:体力の虚証と実証
図2には虚実という言葉が項目1)と5)で使われています。図3に虚実と寒熱のイメージを示しました。
ここでは項目1)の体力の虚実を概説します。
体力の虚証(キョショウ)は胃腸虚弱傾向で疲れやすく、少食で食べるのが遅く、夏ばてしやすい傾向から判断します。補剤(ホザイ)の適応病態です。
体力の実証(ジツショウ)は胃腸に大きな障碍がなく食欲旺盛「早食い」の傾向で、一食抜いても頑張れる状態です。瀉剤(シャザイ)の適応病態です。
虚実中間証は虚証と実証の中間病態です。日本漢方独自の虚実の考えです。

図3のAさんは当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、Bさんは防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)、Cさんは桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)の適応病態イメージです。
※(参考) 漢方製剤の【効能又は効果】に記載された体力の虚実
Bさん・防已黄耆湯:体力中等度以下で、・・・ ⇒虚実中間証(キョジツチュウカンショウ)
Cさん・桂枝茯苓丸:比較的体力があり、・・・ ⇒実証(ジツショウ)
この 【効能又は効果】に記載された体力は体力の虚実の目安を示しています。
BさんはCさんと同様の外見ですが、疲れやすく汗が多く筋肉にしまりのない、いわゆる水ぶとり傾向です。このことからのBさんは固太りのCさんより虚証傾向と判断します。
これが図2に示した診断項目1)の「どのような人」の目安になります。
なお、体力の虚実は外見の体格や体重だけで判断するのではなく、漢方医学の病理病態も重要な判断材料になります。体調ですから経時変化します。
4.診断項目2)どのような症状:寒証と熱証
図2の2)どのような症状、を判断する基準が寒証(カンショウ)(≒陰証)と熱証(ネツショウ)(≒陽証)です。これは体温計の温度ではなく、冷え、冷感(畏寒)と熱感、のぼせを踏まえた病態分類です。
寒証は温剤(散寒剤 サンカンザイ)、熱証は清熱剤(セイネツザイ)の適応病態です。
Aさんの冷え症は温めると軽快する寒証です。顔色が青白い、透明の尿が多い、寒さや冷房を好まない、冬に不調、温かい飲食を好むことが寒証の目安になります。
婦人更年期障碍(2)を参照してください。
Cさんの顔面紅潮、のぼせ、いらだちは熱証です。婦人更年期障碍(4)を参照してください。
なお、寒証と熱証は「冷えのぼせ」のように併発(寒熱夾雑)します。
5.診断項目5):病理の虚証と実証
ここでは図2の項目5)の病理の虚実を概説します。病理の虚実は気血水で概説しています。虚証は補剤、実証は瀉剤の適応病態です。
図3のイラストの適応となる3方剤の適応症状と気血水(津液)論の病理をまとめました(図4)。

図4を見れば当帰芍薬散と防已黄耆湯の適応病態は、病理の虚証(血虚や気虚)と実証(水滞)が錯雑(挟雑、併発)していることがわかります。このような錯雑病態が多くの病態でみとめられます。
とくに肥満の病態は病理の実証が主体ですが、防已黄耆湯の適応病態となる水太りには病理の虚証も関与していることに注目してください。
今回解説してきたように、漢方医療では1)どのような人の、2)どのような症状、5)病理は何かを診断して適切な治療方針や治療薬を選ぶ経験医療です。
この「病気の悩みを漢方で」の連載では、このような論理や基礎知識を各種の疾病を例にして解説していきます。
各解説を繰り返し読むことで徐々に理解を深めてください。

漢方医療と民間療法
図1や図3に示したように漢方医療には現代科学医療と同じように、診断から薬物を選ぶ「論理(症状⇒病態診断⇒治療薬の選択)」があります。この論理が有効性と安全性を支えています。
一方、民間療法はこの薬物治療の論理が十分ではありません。これが漢方医療と民間療法との相違点です。
(2021年7月27日 改訂公開)
病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


漢方医療とは
- (1)現代医療における漢方製剤
- (2)漢方薬局における診察
- (3)漢方薬局における診断(1)虚実と寒熱
- (4)漢方薬局における診断(2)気血水
- (5)漢方薬局における診断(3)病期
- (6)漢方薬局における診断(4)五臓
- (7)漢方処方の剤形
- (8)漢方医療と民間療法
- (9)セルメと健康相談
症状と漢方薬
- (あ行)
- RSウイルス
- 足腰の衰え(虚弱)
- 足のむくみ
- アトピー性皮膚炎
- アルコール性肝炎
- アルツハイマー型認知症
- アレルギー性鼻炎
- 胃食道逆流症
- 胃腸かぜ
- 胃腸虚弱
- 胃腸虚弱(高齢者)
- 胃腸虚弱(フレイル)
- 胃痛
- 胃もたれ
- 意欲の低下
- 意欲低下(虚弱)
- イライラ
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- インポテンツ
- ウイルス肝炎
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- 運動器症候群
- 円形脱毛症
- おしっこの悩み(前立腺肥大)
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- 生理痛(冷えのぼせ症)
- 生理不順(血の道症)
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- せき(咳)
- 咳(こじれた感冒)
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- 喘息(発作)
- 喘息(寛解)
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