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病気の悩みを漢方で

越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)
1.越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)の名の意味
越婢加朮湯の名は、越婢湯に朮(ジュツ)を加味したという意味です。
越婢湯は、麻黄(マオウ:発汗散寒、宣肺平喘、利水消腫)と石膏(セッコウ:清熱、除煩止渴)を含む方剤です(図1)。
本方の適応は、『金匱要略』の水気病の風水(フウスイ)と記されています。水気病は、むくみを伴う疾患群、風水は、関節の腫れと痛みです。末尾に「風水には朮を加える」と注記されています。
加味する朮は、祛風利水>健脾の蒼朮(ソウジュツ)が適切と考えられています。なお、白朮(ビャクジュツ)を含む製剤もあります。

このことから本方の名は、本方が、むくみ(水滞 スイタイ)を伴う熱証傾向の病態に適することを示唆しています。
なお、越婢の意味は、越脾(脾の消化吸収の機能を発越する:高める)意味や、越痺(痺証を発越する:改善する)など諸説があります。
痺証(ヒショウ)は、風寒湿によって経絡が不通となり筋肉・関節痛、しびれを伴う不通則痛(通じざれば痛む)病態です。越痺は、本方の適応に相応しい解釈です。
痺証は、漢方薬名の意味:疎経活血湯を参照してください。
2.越婢加朮湯の適応

越婢加朮湯の適応は、むくみ(水滞)を伴う熱証傾向の病態です。本方は、
1)関節腫脹や痛みの整形外科領域、
2)鼻炎、鼻水、感冒様症候群、
3)湿疹・皮膚炎など皮膚科領域
に用いられます。
2.1)関節腫痛病態への越婢加朮湯の応用例を示します。
・変形性膝関節症の関節水腫、熱感、圧痛を軽減し歩行能を改善。関節液検査中の白血球数を減少。
日東医誌., 1997; 48: 319-325
・漿液性膝関節炎の疼痛と腫脹を軽減。
日東医誌., 2008; 59: 733-737
・変形性膝関節症を軽減(防已黄耆湯と併用)。
日本臨床整形外科学会誌., 2013; 38: 22-30
変形性膝関節症(1)を参照してください。
2.2)鼻炎や感冒様症候群への越婢加朮湯の応用例を示します。
・越婢加朮湯は、春季花粉症のくしゃみ、鼻汁、鼻閉を小青竜湯投与群と同程度に改善。準ランダム化比較試験。
Therapeutic Research, 1997; 18: 3093-3099
・急性期アレルギー性鼻炎の鼻粘膜が赤く、浮腫の軽微な病態に適応。鼻粘膜の発赤が顕著な例には麻黄湯を併用。
日鼻誌., 2008; 47: 83-85
鼻水・鼻づまりを参照してください。
感冒様症候群への越婢加朮湯の応用例を示します。
・小児夏期上気道炎を軽減(半夏厚朴湯と併用)。
日東医誌., 1993; 43: 509-515
・発熱、無汗時のインフルエンザ症状を軽減(麻黄湯と併用)。
『日常外来の漢方380例』, 2014; p.78
越婢加朮湯と麻黄湯の併用は、大青竜湯(ダイセイリュウトウ)の代用です。インフルエンザや漢方薬名の意味:麻黄湯を参照してください。
2.3)皮膚科領域への越婢加朮湯の応用例を示します。
・適応となる皮疹は、水疱、膿疱、びらん、結痂。
日東医誌., 1990; 32: 149-150
・熱傷急性期患部の腫脹、発赤、熱感を軽減。
日東医誌., 2000; 51: 29-33
・下肢蜂窩織炎の紅斑、熱感、腫脹を軽減(桂枝湯と併用。適宜活血剤の治打撲一方と併用)。
日東医誌., 2021; 72: 135-143
・初期の帯状疱疹の水疱と疼痛を改善(抗ウイルス薬と併用)。
漢方と最新治療, 2020; 29: 57-63
越婢加朮湯と桂枝湯の併用は、桂枝二越婢 一湯の代用です。
3.関節腫痛に用いられる越婢加朮湯の関連方剤
3.1)防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)は、越婢加朮湯より亜急性期で、汗をかきやすく、冷えと水太りを伴うの下肢の浮腫や関節痛に用いられます(日東医誌., 2008; 59: 623-631)。変形性膝関節症(1)を参照してください。
防已黄耆湯の適応は、越婢加朮湯より体力の虚証傾向です。
越婢加朮湯は、清熱薬の石膏を含み、防已黄耆湯より熱証傾向の病態に適します(図2)。

3.2)桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)は、越婢加朮湯より冷えと痛みが顕著なむくみを伴う亜急性期から慢性期の関節痛に用いられます(老化と疾患, 1991; 4: 389-395)。変形性膝関節症(1)を参照してください。
本方は、虚弱傾向に用いられる桂枝湯(ケイシトウ:図3の黄色枠の5生薬)と散寒止痛薬の附子(ブシ)を含みます。

4.鼻炎に用いられる越婢加朮湯の関連方剤
小青竜湯(ショウセイリュウトウ)は、鼻炎や花粉症の鼻粘膜の赤味が軽度で浮腫の顕著な例に適します。鼻水・鼻づまりや漢方薬名の意味:小青竜湯を参照してください。
本方は、散寒薬の桂皮、細辛(サイシン)乾姜(カンキョウ)を含むので、石膏を含む越婢加朮湯より水様性鼻水など寒証傾向の病態に適します(図4)。


越婢加朮湯の口訣(抜粋)
・体表に病的な体液が停滞する病態で、浮腫、自汗、悪風、喘咳、口渴、尿量減少、倦怠感がある場合に用いる(福田佳弘)。
・風邪(フウジャ)の侵襲により肺の水道通調機能が低下し、水分が停滞した風水に用いる。利水し熱を冷ます祛風利水清熱剤 (三浦於菟)。
・熱性傾向にあり水滞を伴った関節痛に用いられる。口渴を訴えることが多い。陽証の病態から陰証の方向へシフトさせる方剤(小暮敏明)。
2025年1月23日 公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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